健保ニュース
健保ニュース 2025年11月上旬号
厚労省専門委
高額療養費「応能負担」を議論
外来特例、所得区分の見直し焦点
厚生労働省は10月22日の高額療養費制度の在り方に関する検討会(委員長・田辺国昭東京大大学院教授)に、論点として「年齢にかかわらない負担能力に応じた負担」を挙げ、外来特例や自己負担の所得区分の見直しを提案した。委員からは賛同する意見が出た一方、高齢者への配慮や自己負担限度額の引き上げにつながる見直しに懸念を示す声も上がった。
厚労省が提起した論点は、①高齢化の進展や医療の高度化等により増大する医療費への対応②年齢にかかわらない負担能力に応じた負担③セーフティーネット機能としての高額療養費制度のあり方──の3点。
①は現行制度でも負担が厳しい患者がいるという意見がある一方で、将来にわたり制度を維持しながら現役世代の保険料負担にも配慮し、自己負担限度額の引き上げを必要とする声もあったことから、今後も増大が見込まれる医療費への対応として、負担のあり方の検討を提案した。
②は全世代型社会保障の考え方に基づき、70歳以上の高齢者のみに設けられた外来特例や、現行制度で大きなくくりになっている所得区分のあり方を検討するとした。
③は制度の見直しにあたり長期療養者や低所得者への配慮を求める意見が多数あったことを踏まえ、仮に自己負担限度額を引き上げるとしても、患者の経済的負担に配慮したセーフティーネット機能を目指すとした。
健保連の佐野雅宏会長代理は制度の見直しについて、「低所得者や長期療養者に配慮し、制度がセーフティーネットとして機能することが重要である一方、制度の維持や現役世代の負担軽減、保険料負担の上昇抑制も不可欠だ」との認識を示した。
その上で、①について、高額レセプトの件数増加と高額化、内容の変化を踏まえ、「制度の重要性がより高まる一方、加入者の保険料負担増につながっている」として、低所得者や長期療養者への影響に配慮しつつ、「自己負担の見直しは避けられない」と訴えた。
②に関しては、全世代型社会保障を目指し、外来特例の廃止を含めた見直しと、低所得者に配慮した自己負担の設定を前提とした所得区分の細分化を主張した。
③は全世代型社会保障の構築や現役世代の負担軽減に向け、高額療養費の見直しに限らず、医療保険制度全体での総合的な検討が必要だと強調した。
原勝則委員(国民健康保険中央会理事長)は②について、「所得区分の細分化は合理的な考え方だが、複雑にすると混乱が生じる恐れがある」と指摘した。
また、「負担能力と給付の必要性を指標に制度を見直すのが望ましい」としながらも、現行制度の「多数回該当」だけでは長期療養者への配慮が足りないとして、「患者負担に年間上限額を設けるといった措置が必要ではないか」と述べた。
大黒宏司委員(日本難病・疾病団体協議会代表理事)は、仮に高額療養費の自己負担限度額を引き上げても保険料の軽減効果が限定的だとしたが、「高額療養費の伸びを無視できないことも理解できる」と述べた。
その上で、「自己負担引き上げの議論より、(医薬品などの)費用対効果の見直しなどで高額療養費の伸びをどう抑制できるか考えることも賢明ではないか」と提案した。
袖井孝子委員(高齢社会をよくする女性の会理事)は外来特例の見直しは必要としながらも、「高齢者は収入増が見込みにくく、病気になりやすいことも考慮する必要がある」と主張した。
また、大黒委員と同様に、高額療養費制度の見直しに慎重な姿勢を見せた。
城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「難病患者や長期療養者、医療機関へのアクセスに配慮した制度設計にすべきだ」と主張した。
②の外来特例については、「高齢者にとって必要な措置だ」として、見直す場合は別途、高齢者への配慮が必要だとした。
医療費負担の家計影響
データを基に例示
厚労省はこの日の会議に、協会けんぽの医療費データを基にモデルケースを設定し、政府の家計調査の結果を参考に高額療養費制度利用者の医療費負担の家計への影響を例示した。
40歳代男性、標準報酬月額30万円(年収約410万円)の胃がん患者で、内視鏡手術を受けた場合、年間の医療費総額は約295.5万円、3割負担で約88.7万円だが、高額療養費制度で自己負担は約36万円に抑えられた。
家計調査によると、年収400万~450万円の人の年間の支出状況は、▽食費=87.5万円▽光熱水費=26.6万円▽住居費=44.4万円▽税.社会保険料66.7万円▽──で、それ以外の支出をまとめた「その他」は239.1万円だった。
40歳代女性、標準報酬月額15万円(年収約200万円未満)の乳がん患者で、術後の再発と転移のため分子標的薬を使った場合、年間の医療費総額は約658.2万円、3割負担で約197.4万円だが、高額療養費制度で自己負担は約44.7万円に抑えられた。
家計調査では、年収200万円未満の人の年間の支出状況は、▽食費=60.1万円▽光熱水費=23.7万円▽住居費=26.3万円▽税.社会保険料22.5万円▽その他84.6万円──だった。
データについて、天野慎介委員(全国がん患者団体連合会理事長)は、乳がん患者の例は「その他」を分母にすると、医療費の負担額が50%を超え、世界保健機関(WHO)が定義する破滅的医療支出(医療費の自己負担が可処分所得の40%を超える状態)を大きく超えると指摘。「現状でもこうした患者がいることを十分に配慮しながら制度を検討すべきだ」と述べた。
井上隆委員(経団連専務理事)は医療保険制度全体の検討事項として、所得だけでなく資産も勘案して負担能力を検討する必要があるとした。