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健保ニュース 2025年11月上旬号

医療保険制度改革
高齢者医療 負担の議論開始
「現役並み」所得基準も検討

社会保障審議会医療保険部会(部会長・田辺国昭東京大大学院教授)は10月23日、医療保険制度改革に向け、高齢者医療の負担の議論を開始した。「現役並み所得」の判断基準の見直しも併せて検討する。委員からは年齢ではなく、負担能力に応じた負担の仕組みの構築を求める意見が目立ったが、高齢者への配慮の不足や医療機関の受診控えを懸念する声も上がった。健保連の佐野雅宏会長代理は高齢者の年齢区分や負担割合の見直しを求めるとともに、現役並み所得の判断基準について、後期高齢者の現役並み所得者の給付費に公費が投入されていないことを踏まえた検討を訴えた。

厚生労働省はこの日の会議で、高齢者医療をめぐる状況を説明した。高齢者の受診率低下や受診日数の減少、就業率の上昇、後期高齢者の給与所得の伸びなどを示すデータを踏まえ、高齢者の健康状態や所得、経済環境の向上を指摘した。

また、現役世代が負担する高齢者医療への拠出金の推移や健保組合と協会けんぽの平均総報酬額の伸び、世帯あたりの年間社会保険料額の増加などをデータで示した。

これらのデータを踏まえ、厚労省は年齢にかかわらず負担能力に応じて負担する全世代型社会保障の構築や世代内の公平な負担の観点から、高齢者医療の負担のあり方をどう考えるかという論点を提示した。

また、現役並み所得の判断基準について、政府が一昨年末にまとめた改革工程でも見直しを検討するとされたことや、現役世代の収入と社会保険料負担が上昇傾向にあることを踏まえた検討を提案した。

健保連の佐野会長代理は「全世代型社会保障の構築に向けては、人口構造の変化などを踏まえた現役世代の負担軽減がキーワードであり、応能負担の推進が重要だ」と強調した。

その上で、厚労省が示したデータから「健康寿命の延伸と高齢者の所得、就業率の向上が見て取れる」と指摘し、「低所得者への配慮は当然だが、高齢者の年齢区分や負担割合の見直しを含めた構造を見直す時期が来た」と主張した。

現役並み所得の判断基準については、「負担の公平性を確保するため、見直しを推進すべき」とした。

併せて、後期高齢者の現役並み所得者の給付費には公費が投入されておらず、現役世代が負担していることに言及。現状のまま判断基準を見直した場合、現役世代の負担増につながるため、そうしたいびつな負担構造がわかる資料を示すよう求めるとともに、「現役世代に過重な負担がかかっていることを踏まえ、幅広い検討が必要だ」と訴えた。

横本美津子委員(経団連社会保障委員会医療・介護改革部会長)の代理で出席した井上参考人は、高齢者医療の給付費の多くが現役世代の支援で賄われていることや、負担が増加して赤字に陥る健保組合もあること、現役世代の保険料負担が著しく増えていることなどから、高齢者医療の負担の検討は「喫緊の課題だ」との認識を示した。

中村さやか委員(上智大教授)は高齢者医療の負担について、「年齢ではなく、負担能力に応じた負担を考えるべきだ」と述べ、金融所得や資産に加え、子どもや介護・見守りが必要な被扶養者の人数などを考慮する必要があると主張した。現役並み所得の判断基準は「もう少し低くしていいのではないか」として、見直しに前向きな姿勢を示した。

一方、袖井孝子委員(高齢社会をよくする女性の会理事)は「高齢者の就業や収入が増えているのは、働かざるを得ないためでもあり、生活に余裕が生まれているわけではない」と述べ、「年齢を全く考慮しないというのには反対だ」と主張した。また、現役世代についても経済状況は一律ではないとして、「現役世代と高齢者の対立構造にしてはならない」と述べた。

城守国斗委員(日本医師会常任理事)は高齢者の所得構造をさらに詳しく分析し、年金支給額のモデルケースなども踏まえて検討する必要があるとした。また、高齢者は多くの疾患を抱えがちだという特徴を踏まえ、きめ細かい制度設計などを求めた。

大杉和司委員(日本歯科医師会常務理事)は負担能力に応じて支え合う観点に理解を示しながらも、負担増に伴う受診控えや、その後の健康状態の悪化などに懸念を示した。

この日の医療保険部会では、医療保険制度における出産に対する支援の強化、令和8年度診療報酬改定の基本方針についても議論した。

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