健保ニュース
健保ニュース 2025年10月下旬号
人口減少地域の介護サービス維持
配置基準緩和に慎重論
社会保障審議会介護保険部会(部会長・菊池馨実早稲田大教授)は9日、人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築について議論した。厚生労働省が示した人口減少地域の人員要件の緩和案に対し、複数の構成員から、サービスの質の低下や職員の負担増につながるとして、慎重に検討すべきとの意見が出た。
この日は、①地域類型の考え方②地域の実状に応じたサービス提供体制の維持の仕組み③地域の実状に応じた包括的な評価の仕組み④介護サービスを事業として実施する仕組み⑤介護事業者の連携強化──などの論点について、9月8日の会合での意見を踏まえて整理した「論点・考え方」に基づいて議論した。
このうち②は、サービスの維持・確保を目的に、一部の市町村や離島にのみ適用されている人員配置基準を緩和する特例的な取り扱い(特例介護サービス)の新たな類型として、人材確保が困難な中山間・人口減少地域を追加する考えを示した。
新たな類型ではサービスの範囲を現行の居宅サービスと地域密着型サービスだけでなく、施設サービスにも広げるとした。
③は介護報酬について、現行の出来高制に加え、包括的な評価(月単位の定額払い)の選択肢を追加することを提案した。メリットとして、事業者は利用者数に応じて収入の見込みが立ち、安定的な経営ができることなどを挙げた。
留意点としては、利用者ごとに利用回数に差ができる可能性があるため、利用者像ごとに複数の報酬区分の設定を必要とすることや、利用者の必要以上の利用、事業者のサービス提供控えなどのモラルハザードが生じないよう、適切なケアマネジメントが必要と指摘した。
④は市町村が介護保険財源を活用した新たな介護サービス事業を実施できる枠組み案を提示した。国と都道府県が介護保険財源から事業費を市町村に交付し、市町村が事業者にサービス提供を委託した上で、事業費から委託料を支払うことを想定している。
⑤は法人や介護事業所の連携を促すことを目的に、複数事業者間の連携の促進やバックオフィス業務の引き受けなどの中心的な役割をする企業・事業所にインセンティブの付与を検討する案を示した。
健保連の伊藤悦郎常務理事は②について、新類型の設置に異論はないとした一方、「生産性の向上や事業所間の連携体制が確保されるような運営基準要件を議論していくことが必要だ」と述べた。
③については「留意点を踏まえ、モラルハザードを抑制できる仕組みや保険財源の適正な利用が担保される仕組みとなるように検討するべきだ」とした。
④については、現行の介護保険サービスとの違いが不明瞭とし、「財政面の影響を含めて整理した上で提示してほしい」と要望した。
平山春樹委員(連合総合政策推進局生活福祉局局長)は②について、特例的に対応する方向に理解を示したが、「現状はICTを活用しても職員1人分の労力に置き換えできない」とし、「配置基準の要件緩和はサービスの質の低下、職員の業務負担の増加につながるため実施すべきではない」と強調した。
④については、事務局案に賛同した上で、「介護保険制度は全国共通にもかかわらず、自治体の財政によって提供されるサービスに格差ができる恐れがある」とし、丁寧な検討を求めた。
山本則子委員(日本看護協会副会長)は②について、「医療・介護の複合的なニーズを持つ高齢者の増加が見込まれる中での人員配置基準の緩和は、サービスの質の低下に直結する」と指摘。「職員負担の観点からも慎重な検討が必要だ」と訴えた。
また、③について「利用者にとってわかりやすい仕組みであるかが重要だ」とし、「複数段階の報酬区分の設定はケアマネジメントサービスの提供に混乱が生じる」と懸念を示した。