HOME > けんぽれんの刊行物 > 健保ニュース > 健保ニュース 2025年10月下旬号

健保ニュース

健保ニュース 2025年10月下旬号

医療保険部会が薬剤給付を議論
OTC類似薬 保険除外で賛否
長期収載品のあり方も課題

社会保障審議会医療保険部会(部会長・田辺国昭東京大大学院教授)は16日、医療保険制度改革のうち、薬剤の保険給付のあり方の見直しに向け、議論を始めた。OTC(医師の処方箋なしで購入できる医薬品)類似薬の保険適用からの除外をめぐり、委員の間で賛否が割れた。今後、この日の意見を踏まえて議論を進める。

見直しの議論の俎上に載せられたのは①同じ成分の後発医薬品がある先発医薬品「長期収載品」②遺伝子組み換えや細胞培養などの技術を使ったバイオ医薬品③OTC類似薬──の3つ。

厚生労働省は薬剤の自己負担見直しの前提となる課題として、創薬イノベーションを推進する観点から、長期収載品への依存から脱却し、革新的な医薬品の開発強化、研究開発型ビジネスモデルへの転換促進に加え、後発品を中心とした安定供給の課題を解消するため、医療上必要性の高い品目の安定供給の確保も不可欠だとした。

また、医療保険制度の持続可能性の確保や、現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減を図る必要がある中、限りある保険料や公費を効率的に活用し、引き続き、革新的新薬のイノベーションを適切に評価する必要があると指摘した。

厚労省はこうした課題認識に基づき、①~③の保険給付のあり方を考える上で踏まえる点として、①では、患者の動向や後発品への置き換え状況、医療現場への影響、足元の後発品の安定供給に向けた取り組みを挙げた。

現在、「医療上の必要性がある場合」などを除き、患者の希望により、後発品ではなく長期収載品の処方を受ける場合は、昨年10月に導入された「選定療養」の仕組みの対象として、「特別の料金」を負担する必要がある。

②は化学合成で生産する従来の低分子医薬品とバイオ医薬品の薬価などの差異、バイオ医薬品とバイオ後続品(バイオシミラー)の適応症の差異、バイオ後続品の使用率や使用促進に向けた診療報酬上の措置を列挙。

③は6月の「骨太の方針2025」や自民、公明両党と日本維新の会の合意で、医療機関における必要な受診を確保し、子どもや慢性疾患の人、低所得者の患者負担などに配慮しつつ、保険給付のあり方を見直すと盛り込まれたことを示した。

健保連の佐野雅宏会長代理は、医療保険制度の持続可能性を確保するためには保険給付に関する全般的な議論が必要であり、その一つとして薬剤給付のあり方も重要な課題との認識を示した。

その上で、長期収載品については、選定療養の導入時に後発品への置き換えが進んだ後、後発品の割合(数量ベース)が同水準で推移している実態を踏まえ、「今後、後発品の使用をさらに推進するためには、より積極的に選定療養を活用すべきだ」と述べた。

また、その手段として、選定療養の「対象範囲の拡大」と「負担額の拡大」の2つの方法があるとし、事務局に対し、それぞれの課題を整理するよう要望。対象範囲について「現在は選定療養が免除される『医療上の必要があると認められる場合』を厳格に精査する必要がある」と指摘するとともに、負担額について「長期収載品と後発品の価格差の全額まで拡大することも検討すべきだ」と唱えた。

バイオシミラーについては、品目によって置き換え状況に格差があることから、「診療報酬や薬価制度によるさらなる対応と合わせ、バイオシミラーへの置き換えが一定程度進んでいる先発バイオ医薬品は、選定療養の対象とすべき」と主張した。

OTC類似薬については、「個人で対応できないリスクをカバーすることが社会保険の本来の役割である」と強調した上で、「大きなリスクへの備えを見直す前に小さなリスクへの備えを見直すべきとの声が多く出ていることを踏まえ、保険給付のあり方を見直すべき」と訴えた。

また、「子どもや慢性疾患を抱える人、低所得者に配慮しつつ、追加の自己負担を求める方法や保険給付の対象から除外する方法などを具体的に検討すべきだ」と指摘。「必要なときにOTC医薬品を購入できる環境の整備といったセルフメディケーションの適切な推進にも一体的に取り組むべきだ」とした。

横本美津子委員(経団連社会保障委員会医療・介護改革部会長)もOTC類似薬の保険給付のあり方の見直しについて、慢性疾患の患者らへの配慮を前提に検討を進めるべきだと訴えた。

横本美津子委員(経団連社会保障委員会医療・介護改革部会長)もOTC類似薬の保険給付のあり方の見直しについて、慢性疾患の患者らへの配慮を前提に検討を進めるべきだと訴えた。

原勝則委員(国保中央会理事長)は医療保険制度の持続可能性を確保する観点から、「公的保険でカバーするサービスと、民間保険でカバーする保険外サービスを適切に組み合わせる考え方が有効な方策ではないか」と提起した。

伊奈川秀和委員(国際医療福祉大教授)はOTC類似薬の保険適用の見直しについて、「保険の対象か対象外かの二者択一ではなく、薬の位置づけによって患者の負担に大きな差が生じることも考慮し、グラデーションをつけた対応が考えられる」と述べた。

北川博康委員(全国健康保険協会理事長)は「医療保険者の厳しい財政状況を踏まえれば、OTC類似薬の保険適用からの除外を検討してほしい」とした上で、「いきなり完全な除外は無理だと考えており、(まずは)一部の除外を検討してほしい」と付け加えた。

袖井孝子委員(高齢社会をよくする女性の会理事)も、「OTC類似薬の保険適用除外は、医療保険財政の逼迫を考えると無理もない」と述べ、市販薬を購入する際の安全性を確保する手段を講じるよう求めた。

中村さやか委員(上智大教授)は「これまでセルフメディケーションでOTC薬が使用されてきたが、問題が認められないということであれば、OTC類似薬を保険給付の対象から外しても問題が生じるとは考えにくい」と指摘した。

一方、城守国斗委員(日本医師会常任理事)はOTC類似薬の保険適用除外について、相互作用などによる健康被害の拡大や患者の経済的負担の増加などを理由に「時期尚早」と反対した。

村上陽子委員(連合前副事務局長)の代理として出席した林参考人は、「OTC類似薬の保険適用除外は慎重な検討が必要だ」とし、慢性疾患の患者らへの配慮に加え、医薬品の適正な使用や副作用について「国民への情報発信や意識啓発を強化するとともに、専門職による相談体制の構築を進めるべき」と強調した。

このほか、渡邊大記委員(日本薬剤師会副会長)や兼子久委員(全国老人クラブ連合会理事)らからも、慎重・反対意見が出た。

けんぽれんの刊行物
KENPOREN Publication

2025年
2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年