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健保ニュース 2025年10月上旬号

制度改革への認識共有
将来像念頭に対応策検討
医療保険部会 年内に取りまとめ

社会保障審議会医療保険部会(部会長・田辺国昭東京大大学院教授)は9月18日、医療保険制度改革に向けた議論を開始した。まずは制度の現状認識を委員間で共有し、中長期的な視点で制度のあるべき将来像と、実現に向けた対応について意見交換し、論点を整理する。それを踏まえて個別課題を議論し、年内の取りまとめを目指す。

厚生労働省はこの日、医療保険制度の現状について、①日本の医療や健康の状況②日本の医療保険制度③医療保険制度が直面する環境変化④これまでの医療保険制度改革──の4つの切り口で説明した。

①は先進7か国で最も長い平均寿命と健康寿命であることから、世界的にみても「日本は高齢化が進んだ国」「日本人は長生き」だとした。

また、医療保険制度は療養の給付に加え、出産育児一時金や傷病手当金などで国民の人生の様々な局面を支えているとした。

②は社会保険方式による国民皆保険制度で、国民全員を保障対象とし、所得の多寡にかかわらずニーズに基づき給付する特徴を挙げた。

また、加入者の年齢構成の違いによる医療費の差を踏まえ、高齢者医療への拠出金により医療保険者間で財政調整を行うため、負担は現役世代が中心になっているとした。健保組合では後期高齢者支援金の拠出割合が増加するなど、現役世代の保険料の負担感は重くなっていると指摘した。

③は人口構造の変化により、2040年にかけて生産年齢人口が大きく減少する中で、医療従事者は現在より多く必要になるとして、賃上げや労働環境の改善、医療DXの推進と併せ、医療従事者の確保が重要な課題になると見通した。

医療需要については、入院患者数が全国的に40年にかけて増加する一方、外来患者数は大都市を除き、すでにピークを迎えており、減少に転じると分析した。

このほか、医療費と医療費の対GDP比も増えているが、国民の所得は高齢者を含め、全年齢層で増加傾向にあるとした。

④は制度の持続可能性を高める観点から、平成20年度の高齢者医療制度の創設、令和4年度の一定以上所得のある後期高齢者の自己負担引き上げなどの制度改正や、医療費適正化計画などへの取り組みを説明した。

これらを踏まえ厚労省は、「日本の医療・医療保険制度の現状をどう考えるか」「制度が直面している環境変化をどう考えるか」「制度のあるべき将来像をどう考えるか、実現のためにどのような観点から必要な制度改正を検討するか」といった議論の視点を挙げた。

給付と負担の見直し
求める意見が多数

厚労省の説明を受け、委員からは給付と負担の見直しを求める意見のほか、医療保険制度の現状や、現状を踏まえた見直しの必要性などについて、国民の理解や納得が必要といった声が多く上がった。

健保連の佐野雅宏会長代理は制度改革の議論の視点として、「負担構造の見直し」「保険給付の適正化、重点化」「国民の意識醸成」の3つを挙げ、「全世代型社会保障の構築に向け、制度のあるべき姿を明確にし、必要な検討課題を整理、提示いただき、丁寧に議論する必要がある」と訴えた。

負担構造については、人口構造の変化を踏まえ、「支える側と支えられる側の考え方を変える必要がある」とし、給付と負担や世代間のバランスの見直しを主張した。また、見直しにあたり、財源である自己負担、保険料、公費のバランスをいかに取るか、国民が納得できるような検討を求めた。

保険給付に関しては、高齢化や医療の高度化による医療費増大を踏まえ、費用対効果や経済性を考慮した医薬品の使用促進、OTC類似薬の保険適用除外、低価値医療の利用抑制など「保険給付範囲の見直しに当然、着手すべきだ」と指摘した。

国民の意識醸成に向けては、特に現役世代が自分の健康を守るため、ヘルスリテラシーを高め、予防やセルフメディケーションなどに取り組むことが重要だとし、「健保組合も事業主と連携して積極的に取り組みたい」と述べた。

村上陽子委員(日本労働組合総連合会副事務局長)の代理として出席した小林参考人は、人口構造が急変する中、「全世代支援型社会保障の構築が急務だ」とし、「年齢で区切られている制度のあり方を見直すなど高齢者医療制度の抜本改革を進めるべきだ」と述べた。

藤井隆太委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は「給付と負担のバランスを直視し、効率的な医療提供体制の構築や保険給付範囲の見直し、応能負担の強化など改革工程を着実に実施すべきだ」と主張した。

また、医療提供体制の見直しに向け、諸外国と比べて著しく多い人口あたり病床数や、地域格差、低価値医療への対応などについて、「データに基づいて見直しを進め、規制をかけてほしい」と要望するとともに、医療法人の経営状況の見える化も求めた。

城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「給付と負担の切り口から議論が必要だ」と述べ、所得の多寡に関係なく等しく医療を受けられるという医療保険制度の考え方を国民の共通認識にする必要があるとした。

また、現状の保険料負担と自己負担の水準が限界だとし、「これ以上公費を投入できないなら、保険給付範囲を縮小することになる。国民がどこまで許容できるか確認しながら議論すべきだ」と話した。

渡邊大記委員(日本薬剤師会副会長)は高度化する医療や医薬品にかかる医療費の財源をしっかりと確保する必要があるとして、「安定して医療提供体制を維持できるような制度改革をお願いしたい」と求めた。

伊奈川秀和委員(国際医療福祉大教授)は、サービスの対価である診療報酬で医療のマンパワー不足や地域偏在を是正するには限界があるとして、「保険料をどこまで医療提供体制の関係に投入できるか検討が必要だ」と述べた。

中村さやか委員(上智大教授)は「高額な医療費の負担能力は所得でなく資産によるのではないか」とし、「資産を捕捉して負担のあり方を考えなければならない」と提起した。

また、予防や健康増進の取り組みと医療費適正化の関係について、エビデンスの精査が必要だと指摘した。

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