健保ニュース
健保ニュース 2025年9月下旬号
高額療養費の専門委
厚労省 ヒアリング踏まえ論点提示
「給付と負担のあり方」など
厚生労働省は16日の高額療養費制度の在り方に関する専門委員会(委員長・田辺国昭東京大大学院教授)に、これまでに行った関係者へのヒアリングでの意見を踏まえた今後の議論の論点を提示した。専門委は高額療養費制度の堅持と医療保険制度全体の改革の中で議論するという共通認識に基づき、高額療養費の給付と負担のあり方や、見直す場合に必要になる制度的な配慮、加入する保険者が変わると多数回該当が通算されないなど現行制度の課題への対応について、さらに議論を深める方針だ。社会保障審議会医療保険部会での医療保険制度全体の議論の進捗に合わせることになる。
専門委は高額療養費制度について患者団体や保険者など関係者から意見を聴取し、同制度のあり方を集中的に議論するため、医療保険部会の下に設置された。これまでに患者団体や保険者、医療従事者、学識経験者から意見を聞いた。
患者団体は患者の状況について、長期にわたり高額な薬剤を服用するなど、現行制度でも負担が大きいことを指摘した。
また、効果が高い新薬で患者の生活の質が大きく改善し、社会活動への参画や就労につながる一方、高額な薬剤の家計への負担など、不安を抱えながら治療を続けていると実態を説明した。
高額療養費については、重要なセーフティーネットとして制度の維持を望む一方、長期療養者にとっては十分な役割を果たしていないと提起したほか、加入する保険者が変わると多数回該当が通算されない点などを課題に挙げた。
自己負担限度額の引き上げなど制度の見直しにあたっては、「長期療養者の意見を聞くべき」「家計への影響を考慮し、現在の治療を続けられるようにすべき」などと主張した。
一方で、高齢化や高額レセプトの増加を踏まえ、制度を維持するため、長期療養者に配慮しつつも、自己負担の引き上げは避けられないとする意見もあった。
保険者は保健事業で加入者の健康維持や医療費の適正化に取り組んでいるが、高齢化や医療の高度化による医療費の増大や高齢者医療への拠出金による健保組合の財政悪化は大きな課題だと訴えた。
高額療養費については、患者団体と同様に重要なセーフティーネットと位置づける一方、現役世代の保険料負担が限界にあるとして、医療保険制度の維持のため、高額療養費を含めた幅広い項目について、給付と負担の見直しが避けられないとした。
医療従事者と学識経験者は、日本の医療の課題として、医療保険制度の持続可能性の確保や医療費抑制のための薬価引き下げなどを掲げた。
高額療養費については、医療費の算定や請求が月単位であることや、制度の複雑さや負担上限額の固定による医師と患者双方のコスト意識の欠如を指摘した。
その上で、自己負担限度額の引き上げは特定の患者層の受診抑制や治療中断などの影響が否定できないという考えを示した。
また、医療費の適正化に向け、費用対効果の分析や低価値医療の利用抑制といった対策を検討する必要があるとした。
こうした関係者の意見を踏まえ厚労省は、高額療養費はセーフティーネットとしてなくてはならない制度で、今後も堅持することで認識が一致したとした。
また、見直しの必要性は理解するものの、他の項目も含め、医療保険制度全体の改革の中で議論する必要があるという共通認識が得られたとした。
その上で、今後は①高額療養費制度の給付と負担のあり方についてどのように考えるか②制度を見直す場合に必要になる制度的な配慮③運用面を含めた現行制度の課題への対応──の3つについて、さらに議論を深める必要があるとした。
委員から異論はなく、専門委の議論の状況を医療保険部会に報告するとともに、同部会での全体的な改革の議論のうち、高額療養費に関する項目のフィードバックを受けて見直しを検討することとした。
高療の堅持前提に議論を
健保連 佐野会長代理
健保連の佐野雅宏会長代理は今後の議論について、「当然ながら高額療養費制度を堅持することを大前提にすべきだ」と強調した。
その上で、長期療養者の負担が過剰にならないよう配慮しつつ、現行の所得区分の細分化など「負担能力に応じたきめ細かい制度設計」や、外来特例の精査を見据えた「年齢ではなく負担能力に応じた全世代の支え合い」といった観点での見直しが必要だと主張した。
また、加入する保険者が変わると多数回該当が通算されない課題への対応にあたっては、「システム面などの課題を伴うため、関係者の事務負担も考慮して制度設計してほしい」と要望した。
菊池馨実委員(早稲田大法学学術院教授)は医療の高度化を踏まえ、高額療養費制度を「まったく見直さないというのは難しい」とした上で、「医療保険制度全体でいかにバランスを取った見直しをするかと、保険料負担者などの納得が重要だ」と述べた。
袖井孝子委員(高齢社会をよくする女性の会理事)は医療の費用対効果や低価値医療の検証を要望した。自己負担上限額の引き上げは、「国民が物価高で苦しんでいる現状では難しいのではないか」と述べた。
村上陽子委員(日本労働組合総連合会副事務局長)は「持続可能な医療保険制度に向けて、高齢者中心の社会保障から、全世代支援型社会保障へ再構築することが必要だ」と訴え、高額療養費制度の年齢区分の廃止や外来特例の縮小の検討などを求めた。
天野慎介委員(全国がん患者団体連合会理事長)は日本の医療制度について「コストとアクセス、質を高い水準で満たしている」と評価しつつ、患者の自己負担だけを海外と比較すると、「日本は突出して低いわけではない」として、現行制度の負担の重さを指摘した。
また、今後の議論にあたり、「医療保険制度全体でどういった議論が進んでいるかを示してほしい」と求めた。
城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「初期症状が軽くても重症化する例がある」とした上で、「必要かつ適切な医療を保険で給付するという国民皆保険の基本的な理念を明示した上で議論する必要がある」と述べ、低価値医療に関する意見をけん制した。
島弘志委員(日本病院会副会長)は「現役世代の負担軽減には、自己負担の引き上げか公費負担の増額しかないが、専門委は自己負担引き上げへの反発を受けて設置された」と述べ、自己負担と保険料、公費のバランスをいかに取るか、事務局の見直し案を踏まえて検討する必要があるとした。
会議終了後、記者団の取材に応じた佐藤康弘保険課長は、複数の委員から意見があった専門委での高額療養費制度の見直し案提示について、「医療保険制度全体の改革の中での検討が共通認識となっているため、高額療養費制度だけの見直し案を示すのは難しい」と語った。