健保ニュース
健保ニュース 2025年8月下旬号
間保険局長インタビュー
診療報酬改定 物価高反映「大きなテーマ」
社会情勢に応じた改定目指す
厚生労働省の間隆一郎保険局長は1日、専門誌記者の合同取材に応じ、就任の抱負や診療報酬改定に向けた課題などを語った。政府が6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に明記された社会保障費への物価動向の反映が「診療報酬改定の大きなテーマになる」と述べ、物価上昇時代に合った対応を追求する考えを示した。また、次期医療制度改革については、それぞれの改革項目の背景や必要性も説明するなど、幅広く理解を得られるよう取り組むとした。(インタビューの概要は次の通り。)
─ 就任にあたっての抱負
診療報酬改定や薬価改定、高額療養費制度の見直し、標準的な出産費用の保険適用、自民・公明両党と日本維新の会との3党合意に盛り込まれた事項、改革工程の内容など非常に多くの課題がある難しい状況に、身の引き締まる思いだ。
その上、政治状況もこれから動きがあると予想される。こうした中で予算や法案を通していくには、より幅広く賛同を得られるように、幅を持って案を練らなければならない。難しいからこそ、やりがいもあるので、局内一丸となって取り組む。
─ 高額療養費制度の見直しに向けた考え、検討の方向性
医療保険部会の下に設置した専門委員会で患者団体の意見を聞いた。今後も関係者の意見を聞きながら議論してもらう。
これまでの経緯を担当外の立場から見ていたが、やはり高額療養費制度だけを議論するのは厳しかったと思う。患者団体もそのように話している。
一方、医療保険制度をしっかりと次世代に引き継ぐために、改革は避けられない。容易ではないが、給付と負担を幅広く考える中で、高額療養費制度をどのようにするか、より納得感のある答えを探す必要がある。
現状は関係者の意見を聞く段階だが、皆さんの意見や気持ちをいかに制度に落とし込んでいくか、広く深く検討する。
─ 出産の経済的負担軽減に向けた対応
標準的な出産費用の保険適用にあたっては、周産期医療を守ることが重要だ。出産費用には地域差があり、全国一律(の診療報酬)で簡単に論じることはできない。こうした中、標準的な出産費用の自己負担無償化を制度化するには、自由診療で運営してきた産科医療機関に理解してもらう必要がある。
産科医療機関の医師や関係団体の主張には幅がある。今後は信頼感を醸成しながら対話を重ねることが重要だ。
─ 次期医療保険制度改革の主な論点と検討の方向性
改革工程に盛り込まれた項目について、単に実施するだけでは国民の理解を得られない。例えば、どのような負担が公平なのか考え方を整理しないと、「取りやすいところから取るのか」と納得しない人も出てくるだろう。
次の改革だけでなく、さらにその先の方向性を示すことが重要だ。それぞれの改革項目の背景や必要性を我々が語る必要がある。我々は社会保障制度の給付と負担を当たり前のものだと考えているが、世の中は必ずしもそうではない。国民から幅広い理解を得られるよう、情報発信にも工夫したい。
─ 高額療養費制度の見直しや次期医療保険制度改革について、パッケージにまとめるのか
現時点では未定だ。今後の審議会では幅広く議論する必要がある。
高額療養費制度の見直しの議論では、「他に優先して見直すべきものがある」との意見もあったが、優先順位の問題ではない。高額療養費制度も含め、何をどこまでやるか、どのような方向性で見直すかなど、最終的にすべて同じ土俵で議論する必要がある。
─ 令和8年度診療報酬改定に向け重視するポイント
賃上げや物価上昇への対応が大きなテーマになる。政治の後押しもあり、骨太の方針に新たな記載が加わった。ただ、何でも手当てするような甘い話ではないので、医療機関の経営状況などをよくみながら賃上げを実現したい。
医療機関の人材が他の業種に流出してしまうことは避けたい。賃上げのみならず、専門人材が医療の世界で誇りを持って働き続けられるよう、環境を整備しなければならない。
地域によっては医療人材が不足している。質の高い医療を提供するために、省力化など働きやすくする工夫も必要だ。
より良い医療のためには政策の改善も当然必要だ。効果の高い治療は高く評価し、そうでないものはそれなりの評価にするなど、既に様々な意見が出ているので、しっかりと議論をサポートしたい。
─ 骨太の方針にある物価動向の反映を具体的にどう実現するか
かなり長い間、物価や賃金が上がらなかったが、状況が大きく変わった。しばらく物価上昇が続くと考えると、場当たり的な対応では不十分だ。
医療機関が経営の見通しを立てる際、どのような仕組みなら安心できるか考えなければならないが、「保険料を下げろ」「消費税を下げろ」「自己負担を上げるな」という主張がある中で、物価高や賃上げに対応できる診療報酬改定を実現するのは困難を極める。
政治に対して、基本的なことからきちんと説明し、今回だけでなく、未来につながるような診療報酬改定を考えていく必要がある。突発的な物価高への対応でなく、物価が上昇する時代に合った診療報酬改定を追求する必要がある。
併せて、特に若い人の負担が過重にならないようにするためには、全体像や未来につながる説明をしなければいけない。
広く政治的な合意を得なければならないし、関係業界や支払側の理解も得なければならず、かなり複雑な連立方程式を解かなければならない。
─ 薬価改定・薬価制度改革の主な論点と検討の方向性
創薬力を強化し、薬価上で適切に評価しなければならない。
また、流通や商慣行の見直しも、質の高い医療を守るために重要だ。これらを併せて医薬品の安定供給に取り組む。供給不足が長く続いている品目もあるので、支援も必要だと考えている。
─ 骨太の方針に記載された経済物価動向への対応は薬価にも適用するのか
診療報酬と薬価は決め方が異なる。単に「賃上げ相当分を加算する」といった薬価の決め方はあり得ない。薬剤の適正な価格と評価がますます重要になっている。
製薬企業や医薬品の卸売業の賃上げもテーマになっているが、薬価算定において創薬や安定供給について配慮することが、ひいては賃上げにもつながるのではないか。
─ 新たな地域医療構想やかかりつけ医機能の報告制度など、制度的な動きと診療報酬の整合性をいかに図るか
高齢化や人口減少が進む地方と都市部とでは状況が異なるが、診療報酬は全国一律だ。単に政策と報酬をひも付けるだけでは不十分で、工夫が必要だ。
地域医療構想については、まだ議論が始まったばかりなので、皆さんの意見を聞きながら検討する。
─ OTC類似薬の保険給付のあり方の見直しの考え方と主な論点
医薬品の給付のあり方については、改革工程や自民、公明、維新の3党合意にも盛り込まれた。一方、難病患者や子ども、低所得者などへの配慮も必要なので、これらも含めてどのようなあり方が現実的なのか検討する。公平性の確保が重要だ。
併せて、混乱が生じないような見直しの手順も重要だ。公平性と手順を重視して検討する。
─ 被用者保険の適用拡大の医療保険制度への影響
適用拡大を進めることに各党の異論はなかった。今回の年金改革関連法はかなり先のことまでプログラムしたので、まずは実現に向けて着実に取り組む。
国保については、関連法の附則に「国保のあり方に留意しながら、さらなる適用拡大を検討する」と記載されているので、さらに適用拡大を進めるとどのような影響があるか、よく考えながら進める。
─ 被用者保険の適用拡大の特例措置は国が対応すべきとの異論がある
社会保険の持続可能性の観点から、適用拡大は必要だ。これまで社会保険の適用になっていなかった短時間労働者や非適用業種の個人事業所の従業員が働き続けやすくするための最大3年間の時限措置として、特例措置には一定の合理性があると考えている。
その上で、健保組合については健保連とも相談しながら取り組んでいく。各保険者や事業所が確実に取り組めるように支援する。
─ マイナ保険証を基本とする仕組みに向けたさらなる利用促進などへの取り組み
ちょうど今日、多くの自治体で国保の健康保険証の期限が切れる。12月までに段階的に切り替えるので、マイナ保険証を持っている人はマイナ保険証で、そうでない人は資格確認書で受診してもらう。
マイナ保険証を一度使えば、どういうものかわかると思うので、体験してもらう機会を増やすことで利用率も上がると期待している。
午前中はコールセンターに問い合わせが殺到するようなことはなかった。国保と後期高齢者には、期限が切れた健康保険証を使えるよう事務連絡を発出するなど混乱が起きないようにしたつもりだ。マイナ保険証の定着度合いを注視しながら、徐々に切り替えを進めていく。