健保ニュース
健保ニュース 2025年8月合併号
中医協が入院医療を議論
支払側 「医療機関機能」重視し再編
診療側 病院の経営改善を優先
中央社会保険医療協議会(会長・小塩隆士一橋大経済研究所特任教授)は7月23日の総会で、令和8年度診療報酬改定に向け、入院医療をテーマに議論した。支払側は新たな地域医療構想を通じて確保するとされる医療機関機能を重視した医療機関の連携・再編・集約化を主張したが、診療側は地域の医療提供体制を維持するためには病院経営の立て直しが優先されると主張し、双方の意見に隔たりがあった。
厚生労働省はこの日の会合に、入院医療について①急性期②包括期③慢性期──といった地域医療構想で必要病床数の推計に用いる病床機能ごとに課題と論点を示した。
①は、今後入院患者が高齢化することで、急性期であっても要介護者への対応やリハビリテーションなどの生活を支える機能が求められているとし、急性期入院医療の病棟機能と評価を論点とした。
急性期入院医療の評価指標には、平均在院日数や重症度、医療・看護必要度などがあるが、医療機関間の機能分化を図るため、6年度診療報酬改定では急性期一般入院料1の施設基準である平均在院日数と一般病棟全般の重症度、医療・看護必要度の要件を見直した。この結果、急性期一般入院料1、4を算定する病院数が減少し、それ以外の急性期一般入院料を算定する病院数が増加した。
②は、高齢者の入院医療を担う医療機関の救急受入や在宅医療の後方支援、高齢者の医学・生理学的特性を踏まえた包括的な治療、6年度に新設された地域包括医療病棟の評価のあり方を論点とした。
新構想では、「治す医療」を担う医療機関と「治し支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、地域完結型の医療・介護提供体制を構築する方針が示されている。
③は、6年度改定で療養病棟入院基本料を、ADL区分に基づく9分類から、疾患や処置などに着目した30分類の評価に変更した影響や、療養病棟を含む慢性期の病棟で提供すべき医療を論点とした。
健保連の松本真人理事は、医療機関が地域のニーズに過不足なく対応するためには、「病床機能だけでなく、新構想で整理された医療機関機能を重視しながら、それぞれの地域で最適な医療資源の配置を組み替えていくことが重要だ」と主張した。
その上で、6年度改定の結果、7対1病床(7対1の看護師配置基準がある急性期病棟)の集約化が図られたことを評価する一方、10対1病棟の増加には疑問があるとし、病棟の役割や入院区分の再編を含めた議論を求めた。
また、急性期病棟と地域包括ケア病棟を併設する「ケアミックス」病院が増えたことを指摘した上で、地域のニーズに応じるものかどうか、医療機関機能の視点から見極める必要があるとした。
鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は、「新構想を踏まえて医療機関の役割分担をさらに明確化し、医療機関の連携、集約化、病床の機能分化を進めるためには、適切な評価のあり方を検討する必要がある」と述べた。
診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、「機能分化と連携の強化、医療機関機能に応じた評価は時間をかけて進めるべきもの」とした上で、「8年度は、病院や有床診療所の経営を立て直す改定が不可欠だ」と強調した。
急性期入院医療では、重症度、医療・看護必要度が改定ごとに厳格化され、病院は対応に苦慮しているとして、今後の議論が必要だとした。
また、地域包括医療病棟の施設基準は、回復に時間がかかる高齢者が入院している場合には達成が厳しいとして、今後の需要増を踏まえ基準緩和も検討するよう求めた。
太田圭洋委員(日本医療法人協会副会長)は、「機能分化を進める観点だけで施設基準や重症度、医療・看護必要度などが見直され、医療機関の持続可能性に関する議論が欠けていたため、経営悪化につながったのではないか」と指摘し、入院患者のケアに必要なコストが担保される診療報酬点数の設定が必要だとした。
飯塚敏晃委員(東京大大学院教授)は、病床数の削減はダウンサイジングのみで医療資源が分散してしまう可能性があると指摘し、病院の集約化を促す方策を検討すべきとの考えを示した。