HOME > けんぽれんの刊行物 > 健保ニュース > 健保ニュース 2025年7月下旬号

健保ニュース

健保ニュース 2025年7月下旬号

価値再認識し味方づくりを
佐野会長代理 健保組合への支援を強化

健保連の佐野雅宏会長代理は14日の東京連合会総会で健保組合を取り巻く情勢を報告し、不安定な政治状況を踏まえ、「原点に返って味方づくりを進める必要がある」と訴えた。味方を増やすには「健保組合の価値を我々がもっと認識し、自信を持って対応する」ことが重要だとし、政治対応や広報活動などを通じ、健保組合への支援を強化する考えを示した。

佐野会長代理は健保組合の財政状況、政治状況、今年後半の取り組みの3点を説明した。
 健保組合の財政状況については、令和7年度予算早期集計の結果を踏まえ、赤字額は減少したものの、「厳しい状況に変わりはない」と述べた。

政治状況に関しては、先の通常国会において、7年度予算が高額療養費制度の見直しをめぐる2度の修正を経て成立するなど、「異常な展開だった」と振り返った。

今後の取り組みには、高額療養費制度の見直しや出産費用の保険適用、来年度から徴収が始まる子ども・子育て支援金、8年度診療報酬改定などをポイントに挙げた。

12月に迫る健康保険証の廃止に向けては、国保と後期高齢者について有効期限が切れた健康保険証を来年3月末まで利用可能とする通知の影響を懸念しつつも、「マイナ保険証の利用促進を目指すことを前提に、我々の要望を伝えていく」と強調した。(佐野会長代理の情勢報告の要旨は次の通り。)




4月に発表した令和7年度予算早期集計について、6年度予算と比較すると、保険料収入は4.3%の大幅な増加、保険給付費は1.5%の小幅増、経常収支は6500億円の赤字から3700億円の赤字に改善した。賃上げの効果が相当あり、医療費の伸びは鈍化している状況だが、それでもなお赤字であり、今年度も大変厳しい状況に変わりないと認識している。

一方、これから集計する令和6年度決算は、従来通りなら9月ごろに発表することになるが、今年4月の段階では、全体で1000億円程度の赤字になると見込んでいる。ただし、予想以上に収支が改善しており、最終的にはもう少し赤字幅が縮小する可能性があるが、いずれにしても厳しい状況だ。

衆参両院での予算修正など
政治状況は混迷

政治をめぐる情勢では、先般閉会した通常国会を振り返ると、昨年秋の衆院選による与党過半数割れの影響をまともに受けたとしか言いようがない結果だった。政府与党案が通らない状況が常態化している。

7年度政府予算については、結果的に日本維新の会との3党合意を経て、ようやく成立した。特に我々と関係のある高額療養費制度の見直しをめぐり、衆院と参院でそれぞれ修正され、再度衆院に戻って採決された。

高額療養費制度の見直しについては、政府案に対して患者団体が猛反発し、立憲民主党をはじめ野党から凍結を要求され、最終的に先送りされ、今年秋までに再検討することになった。厚生労働省が専門委員会を設置して検討に着手し、健保連も委員として参加しているが、患者団体との調整は難しい。

年金改革関連法は、少子高齢化の進展や働き方改革の大きな流れの中で、避けて通れない見直しだ。被用者保険の適用拡大については、大きな流れでは一致しているが、中小企業、特に小規模事業所の事業主の負担増に対する慎重論が多く、結果として10年以上かけて実施することになった。

この法案は、政府の当初案が事前の与党の協議で修正され、国会に提出されたが、野党の修正請求によって、結果的に元の政府案に戻るという極めて異例な形になった。これも含め、まさに異常な展開の国会だったのではないか。

医療法改正案は、医師の偏在対策などを含め、2040年を見据えた地域医療構想を柱とするパッケージ法案として提出されたが、通常国会では実質的な審議は行われず、秋の臨時国会での継続審議となり、法案成立は先送りされた。

こうした混沌とした政治状況の中で、我々の新提言も影響を受けた。今年3月に提言をまとめていただき、対外的に発表して、「骨太の方針」などの施策にも我々の要望を取り入れてもらうべく、自民党の議連などでも協議したが、国会の状況が不透明で、特に参院選を控える中で、与党は国民の負担増につながる話を避ける傾向が極めて強い。一方、野党からは財源面での裏付けがない負担軽減の話が次々に出てくる。

こうした状況で健保連の要望、特に制度見直しの要望を発表することは、与野党双方に対して得策ではないと判断し、対外発表を見送ることにした。昨年1月以来、1年間にわたり新提言のワーキンググループのメンバーを中心に検討していただいており、大変申し訳ないと思っている。参院選が終わった後、政治状況をみながら発表のタイミングを計りたい。

年末への重要課題
高療見直しと診療報酬改定

今年下期の取り組み課題については、まず政治面では20日投開票の参院選の結果に大きく左右されることになると思うが、その結果にかかわらず、衆院における与野党逆転の状況は変わらないので、引き続き極めて不安定な政治状況が続くのは間違いない。

健保組合に関連する課題は、やはり秋に結論を先送りされた高額療養費制度の見直しだ。それ以外にも、来年度から実施が予定されている出産費用の保険適用も、年末に向けて具体的な議論が本格化するだろう。

また、通常国会の積み残し課題ではないが、来年度からの導入が決まっている子ども・子育て支援金についても、具体的な取り扱いはこれから決まる。健保組合の皆さんからも不安の声をいただいており、遅くとも年内に、少しでも早く詳細を固めなければならない。

また、「現役世代の負担軽減」や「社会保険料の軽減」という言葉は与野党を問わず出ているが、具体的な対策の策定にあたっては、財源面の手当てを含めた対応を要望する。

もう一つの大きなテーマは8年度診療報酬改定だ。来年度は2年に1度の改定に当たる。改定率は年末に政治決定されるが、これから議論が本格化する。医療界は近年の物価高騰や他産業の賃上げの流れの中で強い危機感を持っている。公定価格である医療、介護において大幅な賃上げを勝ち取るべく、診療報酬改定に向けて政治的な圧力を高めている。

保険者はこれまでの改定で、全体水準の伸びを少しでも抑えるために、増加するファンドに見合うような加算項目の見直しをセットで行うよう強く求めてきた。今回は別枠でファンドの確保を目指す医療界との調整になり、先が見通せない。診療報酬の伸びは当然ながら医療費の伸びに直結するので、今年後半の重要なポイントになる。

また、健康保険証の廃止が12月に迫っており、秋以降、資格確認書の発行などの作業が本格化する。こうした中、直近では厚労省が、国保と後期高齢者を対象に、有効期限が切れた既存の健康保険証を来年3月末まで使用可能にすると発表した。これについては、先日の常任理事会で報告した際に、「国は本気でマイナ保険証を推進しようとしているのか」といった大変厳しいコメントを多くいただいた。

一方で、「国保などの動きがどうであれ、我々健保組合は粛々とマイナ保険証を進めるべきだ」という意見もあった。

さらに、厚労省の決定や発表のプロセスにおいて、「健保組合に事前に話ができていないことは極めて遺憾だ」という意見もあった。この点については、健保連本部事務局としても誠に反省すべき点だと考えており、お詫び申し上げる。

いずれにしても、厚労省は今回の措置を、特に高齢者が多い国保などを対象とした限定的かつ暫定的な対応だとしているが、我々健保組合の加入者への影響も少なからず考えられる。先日のICT委員会でも多くの意見をいただいたので、本件を含め、今後予定されている資格確認書の交付などについても、あくまでもマイナ保険証の利用促進を目指すことを前提に、我々の要望を伝えていく。

健保組合の当面の取り組み
新提言の推進を

政治状況が不透明で、足元ではマイナ保険証一本化の道筋もよく見えず、事務負担が増える一方だが、そういう状況であればこそ、やはり我々の味方を増やすしかない。

具体的には、今回の新提言の「3つのお願い」「4つの約束」「5つのチャレンジ」の推進だ。特に、「3つのお願い」と「4つの約束」が大事ではないかと考えている。

健保組合の皆さんにも、理事会や組合会などで説明をお願いし、その反応も含めアンケートを取っている。「3つのお願い」に関するこれまでの反応としては、事業主にしても加入者にしても、「驚くほど医療保険制度の仕組みや高齢者拠出金の現状を知らない」という声が多い。つまり、事業主や加入者が我々の味方になっていないということだ。

「4つの約束」については、「既に取り組んでいる」という健保組合もあれば、「対応できていないから、約束されては困る」という健保組合もある。ただ、「約束されては困る」という声の内容を詳しく見ると、取り組んでいないのではなく、例えば「健診受診をこまめに働きかける」の「こまめに」や、「一人一人の健康状態に合わせた丁寧な保健指導」の「一人一人に合わせた」ができていないなど、取り組みの程度に不安があるようだ。

私自身は健保組合が「4つの約束」の内容に取り組んでいると感じている。過大にアピールする必要はないが、少なくとも健保組合の価値を我々自身がもっと認識し、自信を持って対応することも味方を増やすために必要なのではないか。こうした政治状況であるため、我々は原点に返って味方づくりを進めていく必要がある。健保連本部としては、政治対応や広報活動も含め、より強く健保組合の皆さんをサポートしたいと考えている。

けんぽれんの刊行物
KENPOREN Publication

2025年
2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年