健保ニュース
健保ニュース 2025年7月上旬号
日本総研・医療に関する意識調査
窓口負担増に「不安」5割
日本総合研究所は6月17日、都内で記者発表会を開き、「健康・医療政策コンソーシアム」が実施した医療制度と医療提供体制に関する意識調査の結果を発表した。医療の将来に対する不安について聞いたところ、「医療の窓口負担(3割負担)が引き上げられること」の回答が約5割に上った。
日本総研は中立・公正・公平な立場で医療に関する具体的な提言を提示し、多くの人がより豊かな人生を送ることができる姿を実現するため、令和4年7月にコンソーシアムを設立。3期(第1期:4年8月~5年7月、第2期:5年8月~6年7月、第3期:6年8月~7年7月)にわたり継続して、「プライマリ・ケア」と「価値に基づく医療」、「給付と負担」の3つをテーマに議論している。
第3期の活動では、医療制度や医療提供体制について、医療サービスの受け手である市民がどのような課題を感じ、見直しを期待しているかなどを明らかにする目的でアンケート調査を実施。20歳以上の男女計400人から回答を得た。
給付と負担に関する調査結果では、日本の医療の将来に対する不安への回答(複数回答)として、医療の窓口負担の引き上げが46.8%で最多だった。次いで、「社会保険料負担が引き上げられること」が39.8%、「医師不足のために、病院の待ち時間が長くなる」が37.3%と続く。サービスの低下よりも金銭的な負担の増加を不安に感じる人が多い結果になった。
また、回答者の6割以上が「近年の医療政策は国民の声を反映したものになっていないと感じている」、7割以上が「医療制度に対し自分の声を政策に反映することを希望している」と答えた。
これらの結果から、日本総研の辻恵子氏(ヘルスケア・事業創造グループ担当マネージャー)は、「日本の医療の将来に不安を抱える人が多い一方、近年の医療政策は国民の声を反映していないと感じる人が多い」として、給付と負担の見直しを進める上では、「議論の透明性を確保した上で国民の意見を丁寧に取り入れることが重要だ」と指摘した。
その上で、具体的なアプローチの一つとして、「討論型世論調査(※)」を提案。全国で討論型世論調査を実施し、その結果を10年末までに医療政策に反映させ、11年末までの給付と負担の見直し実現を見込む。
(※)複雑な政策課題についての市民の表面的な理解の下での意見を調べる通常の世論調査に加え、無作為に抽出された属性や意見の異なる市民が、当該課題について学習し、専門家の情報提供を受け、市民同士での議論を経ることにより、熟慮した上での意見の変化を調べる手法
重複投薬など非効率な医療
8割が見直し支持
価値に基づく医療の調査結果では、「診療報酬改定や医療技術などの保険償還において、非効率な医療を見直し、価値のある医療へ投資すべきだと思うか」との問いへの回答は、「大いにそう思う」が20.3%、「そう思う」が63.5%で、合わせて8割を超えた。
見直しが必要な医療には、「社会的入院」「重複投薬」「重複検査」などが挙げられた。一方、投資が必要な医療には「既存の治療法より優れた治療効果を有する医療」「病気の早期発見や重症化を防ぐ予防医療」「既存の治療法では治療困難だった疾患に対する医療」の回答が比較的多かった。
過剰な医療サービスを見直すべきとする一方、身体が一層健康な状態に近づくようなより良い成果につながる医療が支持される結果になった。
また、「成果に応じた診療報酬が設定されるべきか」尋ねると、「大いにそう思う」が13.8%、「そう思う」が63.5%で、合わせて8割に迫った。
こうした結果を踏まえ、辻氏は「非効率な医療の見直しと適切な医療への投資はセットで考えるべきだ」と述べた。まずは非効率な医療を見直す観点から保険適用対象外について議論し、見直し後に、より価値のある医療への投資を議論することを想定している。
「受診迷子」の経験者2割
対策にプライマリ・ケア
プライマリ・ケアの調査については、回答者の5人に1人が受診すべき医療機関にたどり着けない「受診迷子」を経験したほか、「複数の症状を抱える場合、総合診療医に診てほしいと考える人が専門医に診てほしいと考える人を上回った」、「4割以上の回答者が心身のあらゆる問題を総合的に診てくれる点にプライマリ・ケアの魅力を感じている」といった結果が報告された。
これを受け、辻氏は「心身の不調全般の相談先を確保し、受診迷子の解消につなげるため、プライマリ・ケアの提供体制を構築すべきだ」と主張した。まずは、標榜可能な診療科に総合診療科を追加し、体制構築のきっかけにすべきだとした。