健保ニュース
健保ニュース 2025年7月上旬号
予算編成の焦点
現役世代の負担軽減と賃上げ両立
医療保険部会が「骨太」受け議論
社会保障審議会医療保険部会(部会長・田辺国昭東京大大学院教授)は6月19日、政府が同13日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」などの政府方針について議論した。健保連の佐野雅宏会長代理は、応能負担の徹底など給付と負担の見直しに触れ、「制度改革に向けた議論を本格化し、早期に実現可能なものから実行してほしい」と訴えた。委員からは医療保険財政や現役世代の負担に配慮しつつ、医療・介護従事者の賃上げに対応すべきとの意見が相次いだ。現役世代の負担軽減に向けた改革と賃上げをどう実現するかが予算編成の焦点になる。
厚生労働省はこの日の部会に、骨太の方針などに盛り込まれた関連事項を報告した。
骨太の方針には、高齢化による社会保障費の伸びに物価動向を反映させることが明記されたほか、医療・介護従事者など公定価格分野の賃上げなどが盛り込まれた。全世代型社会保障構築に向けては、自民、公明両党と日本維新の会の合意を踏まえたOTC類似薬の保険給付のあり方の見直しのほか、給付と負担の見直し、標準的な出産費用の無償化、さらなる適用拡大の推進などを掲げた。コラボヘルスやICTを活用した保健事業の推進など予防・健康づくりも重視する。
「新しい資本主義実行計画」の改訂版には、医療・介護などの生産性向上や公定価格引き上げ、DXなどに加え、保険外併用療養費制度の運用改善、公的保険を補完する民間保険の開発推進などが盛り込まれた。
規制改革実施計画には、オンライン診療のさらなる普及や診療報酬上の評価の明確化と見直し、医療などのデータ利活用に向けた法整備などが記載された。
医療・介護などの公定価格分野の賃上げについて、佐野会長代理は「一定の理解はできるが、保険料負担の上昇につながる」と懸念を示し、保険料負担の抑制努力を続けつつ、改革工程を踏まえた対応も含め、「歳出改革を徹底してほしい」と要望した。
城守国斗委員(日本医師会常任理事)は、社会保障費の伸びに物価上昇を反映するという骨太の方針の記載を「(高齢化による増加分におさめる)従来の引き算ではなく、足し算の記載になったのは重要なポイントだ」と評価し、予算編成に向けた診療報酬上の対応を求めた。
島弘志委員(日本病院会副会長)は標準的な出産費用の無償化には賛同したが、保険適用された場合に設定される点数によっては、「既存の産科医療機関が出産の取り扱いをやめる恐れがある」と危惧し、産科医会の意見を聞いて慎重に検討するよう求めた。
また、高額薬剤の保険収載による医療保険財政の悪化を懸念し、骨太の方針などに記載された民間保険活用の具体策を尋ねた。
これに対し厚労省は、「具体策は決まっていない」としつつ、より詳細な新しい資本主義実行計画の記載を引用。自由診療を対象とする民間保険が一定の評価を得ていることを踏まえ、「保険外診療部分を広くカバーし、公的保険を補完する民間保険の開発を推進していく」方針だと説明した。
村上陽子委員(日本労働組合総連合会副事務局長)は、持続可能な医療提供体制には人材確保が重要だとして、「医療分野の処遇改善に継続的に取り組む必要があることを共通認識にしてほしい」と述べた。また、OTC類似薬の見直しに関しては、必要な受診の確保や患者負担への配慮に加え、重複投薬や飲み合わせも考慮するなど慎重な検討が必要だとした。
現役世代に負担が偏りがちな構造の見直しについては、年齢で区切られた現在の制度を抜本的に見直すなど、「納得性、公平性、品質の確保に向けて根本的な議論が必要だ」と主張した。効率的な医療提供体制の確保にも言及した。
菊池馨実委員(早稲田大法学学術院教授)は、骨太の方針の記載事項の多くは改革工程に示された内容と同じだとして、「問題は改革の実行だ」と指摘した。
その上で、医療従事者の処遇改善を推進すべきとする一方、現役世代の負担抑制も重視。「以前にも増して、改革の加速と強化が必要だ」と述べ、医療保険制度の現状と課題の全体像を国民に示し、着実に改革に取り組むよう厚労省に求めた。
北川博康委員(全国健康保険協会理事長)は医療費適正化の観点から、医療DXと地域フォーミュラリが実現すれば「加入者がメリットを実感できる」と期待を込め、国のリーダーシップのもと、より一層取り組むよう要望した。
横尾俊彦委員(全国後期高齢者医療広域連合協議会会長・多久市長)は「健康づくりこそ、本質的な医療費適正化につながる」と主張した。その上で、健診や病気の早期発見・早期治療など国民のヘルスリテラシー向上には、小中学校などでの教育が効果的だとして、さらなる取り組みを提案した。