健保ニュース
健保ニュース 2025年4月下旬号
出産検討会が費用構造調査
病院 診療所 8割が入院料に「お祝い膳」
佐野会長代理 医療的必要性踏まえ議論を
「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」(田邊國昭座長)は16日、6年度に厚生労働省が実施した「分娩取扱施設における出産にかかる費用構造の把握のための調査研究」の報告を受けた。
それによると、分娩を取り扱う病院や診療所の80%以上で、サービスとして提供する「お祝い膳」の料金を個別に明示せず、入院料などに含んでいたことがわかった。健保連の佐野雅宏会長代理は、今後の保険適用の検討において、標準的なサービス内容と平均的な費用に関する議論が必要になると指摘。医療的に必要とされ、妊産婦の希望にかかわらず提供されるものは保険でみるべきとの認識を示し、「お祝い膳」などのサービス提供は範囲外とすべきと主張した。
調査は、病院・診療所・助産所の全施設を対象に実施。自費診療の正常分娩にかかる費用構造を明らかにする初の大規模調査となる。
研究代表者の野口晴子参考人(早稲田大学政治経済学術院教授)が調査結果を報告し、外れ値や誤答を含む速報値として公表することに留意するよう求めた。
調査は、①分娩取扱施設の概要②病棟(ユニット)の医療提供体制③患者(産婦)票の結果④分娩取扱施設の収益──などについてまとめた。
①のうち、無痛分娩の実施割合は、総合・地域周産期母子医療センターで42%、それ以外の病院で48%、診療所で44%。平均価格は、総合・地域周産期母子医療センターとそれ以外の病院は約12万円、診療所は約9万円だった。
提供サービスのうち、「お祝い膳」は、▽総合・地域周産期母子医療センター=79%▽それ以外の病院=84%▽診療所=76%▽助産所=31%──で提供されていた。料金は、80%以上の施設で個別に明示されず、入院料などに含まれていた。
なお、入院料などに含まない施設での平均設定価格は1000~2000円程度。「写真撮影」「足形」「エステ」を提供する施設でも、6~7割が料金を入院料などに含んでいた。
②は、1施設当たりの病棟・ユニット数が約1.1、1病棟・ユニット当たりの病床数が約30床。混合病棟が68%で、病棟の産科患者の入院割合は▽総合・地域周産期母子医療センター=60%▽それ以外の病院=47%──だった。
全室個室の割合は、▽総合・地域周産期母子医療センター=19%▽それ以外の病院=25%──。1日当たりの室料差額料金は、総合・地域周産期母子医療センターが平均4万3233円で最も高かった。
産婦人科医師は、診療業務に従事した医師数、対応時間ともに産褥入院中に比べ分娩期の方が多く、小児科・新生児科医師は、対応時間が分娩期に比べ産褥入院中の方が長い傾向にあった。
産婦平均負担額
無痛分娩60万、帝王切開51万
③によると、産婦の平均負担額は、分娩状況別では、▽無痛分娩=60万3338円▽帝王切開=51万1299円▽正常分娩=48万5636円──の順で高かった。分娩経験別では、▽経産婦=47万6365円▽初産婦=52万3711円──。分娩施設別では、▽総合・地域周産期母子医療センター=53万7358円▽診療所=51万3405円▽それ以外の病院=50万3551円▽助産所=44万8154円──となった。
また、入院料、室料差額、一部負担金は総合・地域周産期母子医療センターが高く、その他項目は診療所が高い傾向がみられた。
他方、産婦の分娩状況をみると、▽帝王切開=8%▽無痛分娩=11%▽正常分娩=81%──だった。帝王切開は総合・地域周産期母子医療センターが最も多く14%。無痛分娩は▽診療所=13%▽総合・地域周産期母子医療センター=11%▽それ以外の病院=7%──の順となった。
また、分娩経験や分娩状況によらず、80%以上の分娩が産婦の住所のある都道府県内で実施されていた。
正常分娩で、娩出2時間前後に関わった職種別延べ人数は、産婦人科医が0.8人、助産師が2.3人、看護師が0.4人だった。
④について施設別に損益率をみると、▽病院=4年度:▲5.4%、5年度:▲6.9%(うち▽総合・地域周産期母子医療センター=4年度:▲5.9%、5年度:▲6.9%▽それ以外の病院=4年度:▲8.1%、5年度:▲6.5%)▽診療所=4年度:6.3%、5年度:3.6%▽助産所個人=4年度:15.5%、5年度:11.7%▽助産所個人以外=4年度:3.0%、5年度:▲3.6%──という状況だった。
5年度の産婦人科医師の平均給与は、▽病院=1621万8170円(うち、▽総合・地域周産期母子医療センター=1430万3900円▽それ以外の病院=1807万9260円)▽診療所=2544万6140円▽助産所全体の管理者=420万8539円、助産師=317万3848円──だった。
調査報告は、悉皆調査が▽病院911件(回収率37.4%)▽診療所936件(同49.7%)▽助産所326件(同63.2%)──、サンプル調査が▽病院500件(回収率29.0%)▽診療所469件(同41.8%)▽助産所326件(同49.4%)──の結果を集計したもの。
調査に関連し、健保連の佐野会長代理は、入院から退院までの医師などの職種別に患者(産婦)との関わりが分かる標準的なフローの提示を要望した。
また、帝王切開など異常分娩の場合に、保険者が出産育児一時金の現金給付に加えて現物給付も行っている現状を説明し、異常分娩として現物給付化された費用のデータを提供するよう求めた。異常分娩となった場合に計上できる分娩介助料について言及し、「保険適用には詳細な検討が必要となる」と指摘した。
構成員からは、「大都市や地方など地域を分けた分析が必要」「無痛分娩や帝王切開では平均在院日数で入院費用が増える傾向を踏まえ、分娩介助料の算定も含め標準化する分析が必要」「会計基準が異なる医療機関を収益率で正確に比較するのは困難」「分娩費用などこれまでの資料と乖離があり低く見積もられているのではないか」などの意見や要望が上がった。
野口参考人は、データの精査も含め、7年度も研究班での調査研究を継続する方針を示した。
標準的なサービスと
平均的費用の議論を
これまでの検討会での議論を踏まえた意見交換の中で佐野会長代理は、正常分娩の保険適用に関する今後の検討に向けては、「標準的なサービスの内容」と「平均的な標準費用」に関する議論が必要になると指摘した。
「医療的に必要で、妊産婦の希望にかかわらず提供されるものは保険でみるべき」との認識を示したうえで、「お祝い膳などの提供サービスは、当然、標準的なサービス内容の範囲から除かれるべきだ」と主張した。
無痛分娩については、現行ルールや基準の精査、医療機関の実態把握や見える化を進め、慎重に検討すべきとした。
さらに、「異常分娩として現物給付された費用のデータや出産1件当たりの標準的なコストを分析するなど、出産に関する費用の見える化をより深めるべき」との考えを示し、「出産の保険適用は保険料を負担する現役世代の納得を得られるものでなければならない」と強調した。
今村知明構成員(奈良県立医科大学教授)は、「保険適用を機に分娩取扱施設が急激に減り、お産がしづらくなるのは本末転倒だ」と指摘し、少子化対策に資する制度にする必要があるとした。
石渡勇参考人(日本産婦人科医会会長)は、「正常分娩でも出産にかかる時間や産婦に関わる職種が様々で一律の保険とするには無理がある」と述べ、まずは少子化対策として地域の周産期医療体制を確保したうえで負担軽減策を検討すべきとした。
田邊座長は、これまでの議論から大きな方向性が見えた部分とさらに議論を要する部分があるとの見解を示し、次回から議論の整理に向けて検討するよう厚労省に指示した。
取りまとめ後は、社会保障審議会医療保険部会や中央社会保険医療協議会に議論の場を移し、8年度中の保険適用に向けた検討を行う見通し。