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健保ニュース 2024年3月上旬号

診療報酬改定とマイナ保険証
厚労省 関係団体とセミナー共催

厚生労働省は、「賃上げ等に関する診療報酬改定&マイナ保険証の利用促進に関するオンラインセミナー」を2月15日に日本医師会、16日に四病院団体協議会・全国国民健康保険診療施設協議会、日本薬剤師会・日本保険薬局協会・日本チェーンドラッグストア協会、22日に日本歯科医師会と共同で開催した。

2月15日の日本医師会との共催では、松本吉郎会長が冒頭あいさつし、「医療関係者の賃上げは、人材確保の観点をはじめ、医療・福祉従事者が労働人口の14%を占めるなか、経済へのインパクトという意味でも極めて重要な課題だ」と指摘。

昨年末の改定率を巡る議論のなかで賃上げが最大の焦点となり、0.88%という近年にない水準となった背景は、「医療界にしっかり賃上げをしてほしいとの政治からのメッセージだ」との受け止めを示した。

1月19日に、首相官邸で、岸田文雄首相、武見敬三厚生労働相から直接、令和6年度にベースアップ+2.5%、7年度にベースアップ+2.0%の実現に向け取り組むよう要請を受けたことを報告。

医療現場を支えるのは人であり、患者により良い医療を提供するためには、医療従事者のモチベーションを高め、前向きな気持ちで働ける環境を実現することが不可欠と強調した。

他方、電子処方箋、電子カルテ情報の共有など医療DXでもたらされる様々なメリットは、「国民、患者にこれまで以上に安心、安全で質の高い医療を提供していくために欠かすことができないインフラになると確信している」と発言。

現在、医療DXの入り口の役割を果たすマイナ保険証の普及が課題となっているなか、現行の保険証からマイナ保険証を基本とする仕組みに移行する12月までの間に、国民、患者が抱いている不安を払拭して、実際に使ってもらうことが必要との考えを示した。

1人でも多くの方がマイナ保険証を実際に使用し、医療DXのメリットを実感できるよう、医療機関の窓口ではこれまでの「保険証をお持ちですか」でなく、「マイナンバーカードをお持ちですか」と声かけし、マイナ保険証の利用促進に積極的に取り組む必要があるとした。

賃上げの考え方や
スケジュールを説明

2月15日のセミナーでは、厚生労働省保険局の眞鍋馨医療課長が、「令和6年度診療報酬改定と賃上げについて~今考えていただきたいこと(病院・医科診療所の場合)~」について説明した。

昨今の食材料費、光熱費をはじめとする物価高騰の状況、30年ぶりの高水準となる賃上げの状況などといった経済社会情勢は、医療分野におけるサービス提供や人材確保にも大きな影響を与えていると指摘。

こうしたなか、6年度診療報酬改定では、①病院、診療所、歯科診療所、訪問看護ステーションに勤務する看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種の賃上げのための特例的な対応として+0.61%の改定②40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置として+0.28%程度の改定─を行い、医療従事者の賃上げに必要な診療報酬を創設するとした。

また、6年度にベア+2.5%、7年度にベア+2.0%の実現に向け、▽医療機関等の過去の実績▽今般の報酬改定による上乗せの活用▽賃上げ促進税制の活用─を組み合わせることにより達成をめざしていくことになるとの考えを示した。

病院と医科診療所は、②の+0.28%程度分を活用し、初再診料や外来診療料、入院基本料等を引き上げる対応に加え、①の+0.61%分を活用し、初診時に6点、再診時に2点、訪問診療時に28点を上乗せできる「外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)」を新設し、「同(Ⅰ)」だけでは賃上げが不十分となる無床診療所は、初診または訪問診療時に8~64点、再診時に1~8点を上乗せできる「同(Ⅱ)」も設けると説明。

病院と有床診療所は、入院基本料等に1~165点を上乗せできる「入院ベースアップ評価料」も創設するとした。

賃上げにかかる診療報酬では、賞与や法定福利費等の事業主負担分を含めた「給与総額」をもとにした点数設計とし、医療機関等では、この報酬分をベースアップ(基本給または決まって毎月支払われる手当の引き上げ)に充てることとなると解説。また、ベースアップには、連動して引き上がる賞与分や事業主負担の増額分も含まれるとした。

医療機関等は、「賃金引き上げの計画の作成」→「計画にもとづく労使交渉等」→「計画にもとづく給与規程の改正」→「施設基準の届出および期中の区分変更の届出」→「賃上げ状況の報告(6年度・7年度)」を実施するスケジュールを示した。

「ベースアップ評価料」を算定する医療機関等は、施設基準の届出書と合わせて、賃金引き上げにかかる計画書と報告書を地方厚生(支)局に提出し、このなかで、「ベースアップ評価料」が原則ベア等に充てられていることを確認すると説明。

さらに、計画書と報告書では、ベースアップ評価料による賃金引き上げの状況だけでなく、自主財源等も含めた全体的な引き上げ状況とベースアップ評価料の対象とならない40歳未満の勤務医師等(改定率+0.28%分)の職種の状況についても聴取するほか、抽出調査の実施等も予定しているとした。

マイナ保険証の利用促進
移行に向けた準備を要請

続いて、厚生労働省保険局の中園和貴保険データ企画室長が、マイナ保険証利用促進のための取り組み・支援策を説明した。

マイナンバーカードの保険証利用について、医療機関・薬局の窓口で患者の直近の資格情報等(加入する医療保険や自己負担限度額等)が確認でき、期限切れの保険証による受診で発生する過誤請求や手入力の手間による事務コストを削減するほか、医療機関や薬局で特定健診等や薬剤の情報を閲覧でき、より良い医療を受けられる環境になるとした。

マイナ保険証は、保険資格の確認のみならず、電子処方箋の推進など医療DXを進めるうえでパスポートの役割を果たすものとし、「諸外国と比べ立ち遅れている日本の医療DXを一歩前に進めるため、現行の健康保険証の発行を12月2日に終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行する」と言及。

12月2日に向けて、1人でも多くの方にマイナ保険証を利用する経験を持ってもらうことが重要と強調した。

マイナ保険証利用率は直近の今年1月時点で4.6%にとどまり、現役世代の利用促進が課題となっていると指摘。広くメリットを知ってもらうため、被用者保険における周知も重要との考えを示した。

また、国家公務員のマイナ保険証利用率も5%を下回るという状況を重く受け止め、職員やその家族の利用率向上へ厚労省を挙げてこれまで以上の取り組みを進めていくとした。

他方、厚労省が実施した▽約4割がマイナンバーカードを常に携行。必要に応じて持ち歩いている方も含めれば7割が携行▽約4割弱がマイナ保険証を利用したいと考えている─との調査結果を踏まえれば、医療機関の窓口や待合室で、「マイナンバーカードをお持ちですか」との声かけにより、約4割の方にマイナ保険証を利用してもらえると期待。

さらに、マイナンバーカードの保険証利用登録をしていない方に対しては、カードリーダーにマイナンバーカードを置くだけで利用申込みができる旨を案内するよう依頼した。

令和6年度診療報酬改定におけるマイナ保険証利用等に関する評価では、マイナ保険証、電子処方箋などを推進する体制を評価する「医療DX推進体制整備加算(初診8点)」を新設し、6年10月からはマイナ保険証利用実績が一定程度以上であることを施設要件とする対応を例示した。

医療機関・薬局に対しては、①窓口にきた患者に、「保険証をお持ちですか」ではなく、「マイナンバーカード(マイナ保険証)をお持ちですか」と声をかける②マイナ保険証利用促進のための患者向けリーフレットなどによる周知、健康保険証の利用申込みに関する掲示等による案内③医療機関等のHPの外来予約・入院手続きのページにおいて、持参するものとして「マイナンバーカード」を案内④利用率の目標設定、担当者の配置やマイナ保険証利用者のための専用レーンの設定⑤カードリーダーの操作に慣れない患者への説明⑥診察券・こども医療費助成などの受給者のマイナンバーカードへの一体化─などにより、マイナ保険証への移行に向けた準備を進めるよう要請した。

医療機関や薬局に
窓口での声かけ依頼

厚生労働省の伊原和人保険局長は、セミナーの閉会にあたってあいさつした。
 令和6年度の診療報酬改定については、「医療分野でも人材確保の観点から、物価に負けない賃上げが必要になっている」との認識を示し、加算措置や賃上げ促進税制の趣旨を踏まえ、物価上昇を上回る賃上げの実現へ理解と協力を求めた。

他方、「日本の医療DXを一歩でも前に進めるためには、できるだけ多くの皆さんにマイナ保険証を利用してもらうほか、電子処方箋が全国各地に行き渡り、紙の処方箋がなくても薬局で薬を受け取ることができる医療のデジタル化を国民に実感してもらうことが重要」と言及。

このため、先月からマイナ保険証利用促進に取り組む医療機関・薬局への支援金制度をスタートするとともに、6年度診療報酬改定では「医療DX推進体制整備加算」を設けることとしたとして、活用を勧めた。

さらに、「4割の国民がマイナンバーカードを常時携行している現状が明らかになっている」と指摘し、医療機関、薬局の窓口で「マイナンバーカードをお持ちですか」との声かけが最も有効な方法との認識を示した。

都内の大学病院を訪問し、マイナ保険証の利用状況などを聴取した際、1月から初診窓口で「マイナンバーカードをお持ちですか」と声かけすると、「1日の初診患者約200人のうち、半数超がマイナンバーカードを提示した」という実例を紹介し、「こうした窓口対応が医療現場をアナログからデジタルへ変えていく契機になる」と発言。

これまで慣れ親しんできた健康保険証からマイナ保険証への切り替えに不安を感じている患者もいるとの認識を示したうえで、まずは医療現場の皆さんが声かけすることが不安への解消につながり、立ち遅れている日本の医療DXを前に進めることになるとした。

窓口・受付での対応やホームページの案内など、マイナ保険証の利用促進支援策のチェックリストを活用して、医療機関、薬局における表示やホームページを点検し、できるだけ多くの方がマイナ保険証を利用する経験に繋がることを期待。

これまで、日本人の4人に3人はマイナ保険証を利用していないとして、「4割の方がマイナンバーカードを常時携行していることからすれば、医療機関や薬局の皆さんの声かけで、利用する方は増えてくる」と強調し、対応を依頼した。

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