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健保ニュース 2023年2月下旬号

名古屋大でワークショップ
特定健診受診率向上の取り組みを発表

名古屋大学予防早期医療創成センターは2日、同大学内の野依記念学術交流館で第11回ワークショップを開催し、昨年度から開始した健保連愛知連合会の治療中患者に対する特定健診受診率向上に向けた取り組みをテーマにパネルディスカッションを実施した。モデレーターに吉田安子同センター特任教授を迎え、パネリストに愛鉄連健保組合の井﨑茂常務理事、デンソー健保組合の永井立美常務理事、健保連愛知連合会の吉田雄彦常務理事、株式会社あまの創健の山本顕博健康管理事業部長が、それぞれの立場でこの取り組みに対する評価や今後の展望を語った。

昨年度、愛鉄連健保組合とデンソー健保組合は、厚生労働省の高齢者医療運営円滑化等補助金を活用し、治療中を理由に特定健診が未受診となっている被扶養者の受診率を向上させる取り組み(治療中患者の特定健診受診率向上(あいちモデルの構築))を開始。特定健診・特定保健指導は、40歳以上75歳未満のすべての被保険者・被扶養者を対象に実施され、治療中であっても実施対象者に含まれる。しかし、治療中を理由に特定健診を受診しないケースが多く発生し、各健保組合では、その対応が課題となっている。今年度は11健保組合に参加組合を拡大し、特定健診の受診率向上に取り組んでいる。

この日のパネルディスカッションのなかで、井﨑常務理事はこの取り組みを始めた経緯について、厚労省の「特定健診・特定保健指導の円滑な実施に向けた手引き」に記載された、治療中患者の検査結果の提供について医師会等と連携するという枠組みを活用し、被扶養者の特定健診の受診率が低い現状を打開するために始めたと説明。その結果、対象となった被扶養者の受診率が向上する成果が表れたとその効果を強調した。

永井常務理事は、愛知県医師会の全面的な支援のもと、県下の医療機関に協力を依頼する通知が出されるなど患者・健保組合・医療機関との間で、非常によい関係を構築できたと報告。そのうえで、この取り組みを全国に広げるとの目標を明らかにするとともに、かかりつけ医の実践的なイメージ作りに役立つとの考えを示した。

吉田常務理事は、国民皆保険制度の崩壊が懸念されるなか、さまざまな課題に医療保険者の垣根を越えて総力戦であたらなくてはならないと現状に対する危機感を表明。そのため、この取り組みを健保組合だけでなく、他の保険者にも広めることで、医療費の適正化や重症化予防などに効果を発揮すると、今後の展望に期待を寄せた。

山本健康管理事業部長は、この取り組みの実績として、治療中で特定健診は不要と考えていた被扶養者に、治療中以外の疾病のリスクを発見できたうえ、生活習慣を見直す契機にもなったと評価した。(パネルディスカッションでの井﨑常務理事、永井常務理事、吉田常務理事の発言の概要は以下のとおり)

特定健診受診率を10ポイント以上向上
愛鉄連健保組合 井﨑茂常務理事

全国の健保組合にとっては、特定健診・特定保健指導の受診率・実施率の引き上げが必須である。少子高齢化を背景に、政府は健康寿命の延伸について医療保険者もその一端を担うよう求めてきたのを契機に、特定健診・特定保健指導が義務化され、スタートした。血圧や血糖値などの検査結果をもとに、保健指導によって生活習慣を改善し、健康寿命を延伸させる取り組みだ。

特定健診・特定保健指導の実施をすべての医療保険者に義務化するということは、40歳以上の加入者の健康状態を把握できるという画期的な取り組みである。今後は、健診データとレセプトデータとの活用が課題だ。

令和2年度の特定健診の受診率をみると、国の目標値である「70%以上」に対しすべての医療保険者の平均は53.4%。市町村国保では、33.7%と低いが、健保組合は77.7%と高い。しかし、これは労働安全衛生法にもとづき、従業員は健康診断の実施が義務づけられて、その健診結果を特定健診に転用できていることが背景にある。その一方で、被扶養者にはそうしたものがなく、特定健診の受診率は低くなっている。健診データがないと次の特定保健指導に進めないので、各医療保険者は、特定健診の受診率の引き上げに頭を悩ませているのが今の実態だ。特定健診を受診し、特定保健指導を受けて、生活習慣病の発生を抑制・撲滅すれば、健康面だけでなく、保険料の負担の引き下げにつながり加入者に還元できる。

厚労省がまとめた「特定健診・特定保健指導の円滑な実施に向けた手引き(第3.2版)」には、治療中の患者は特定健診を推進するという観点から、本人同意のもとで治療中の検査結果の提供が可能とされている。さらに、医療保険者は必要性と地域の実情に応じて医師会等と連携して進める必要があると記載してある。この枠組みを使って特定健診の受診率を向上させたいと考えていたところ、デンソー健保組合も一緒に参加する意向を示したので、昨年度、厚労省の補助金事業を活用しモデル事業として2組合でスタートした。実施にあたっては、治療中の患者の検査結果を提供してもらうため、医師会の協力が不可欠である。そこで愛知県医師会に協力を依頼したところ、快く引き受けていただいた。

この概要については、2健保組合の加入者のうち、治療中を理由に特定健診を受診していない被扶養者を抽出し、治療中の検査結果の提供を依頼する案内状と検査結果の入力票を送付する。対象となった被扶養者はそれを持って、治療を受けているかかりつけ医に渡し、医師が検査結果を記入した入力票を、事業を請け負う事務局(あまの創健)に送付。健診データをまとめ、各健保組合に特定健診データとして納入する流れとなっている。

この取り組みの結果、対象となった治療中の被扶養者の受診率は、対象にならなかった治療中の被扶養者の受診率よりも10ポイント以上高くなり、大きな成果が表れた。これまでに様々な特定健診の未受診者対策に取り組んできたが、ここまで効果のあったのは初めてだ。健保組合を含め、すべての医療保険者は特定健診の受診率の向上への取り組みに苦慮しているので、この取り組みが愛知から全国に広がり、生活習慣病の発生が抑制され健康寿命が延伸されるのを期待している。

かかりつけ医の実践的イメージ作りにも効果
デンソー健保組合 永井立美常務理事

特定健診の被扶養者の受診率はなかなか上がらないので、愛鉄連健保組合と共同でこの取り組みを開始した。令和3年度は2組合だったが、4年度は愛知県内の他の健保組合も参加したいということで11組合に増えた。その結果、この事業の対象となる医療機関は三河地区だけだったが、4年度は愛知県全域の約5000に拡大した。いずれは愛知県内の全健保組合、そして全国に拡大するという目標がある。

4年度に愛知県全域の医療機関に対象を拡大する際には、愛知県医師会の柵木充明会長に協力要請に行き、全面的な支援の回答を得て、愛知県医師会から県下の医療機関に協力を依頼する通知が出された。かかりつけ医に受診しているから特定健診を受診しなくてよいと思っている加入者である患者、特定健診の受診率向上を図りたい健保組合、日頃患者の治療にあたっているかかりつけ医。この取り組みを実施することで、3者ともWIN・WINの関係を構築でき、非常によい状況にあると認識している。

今回の取り組みにより、かかりつけ医を通じた治療や予防の定着した社会になって欲しいと期待している。マイナンバーカードの健康保険証が普及し、マイナンバーカードの健康保険証を持ってかかりつけ医に通院した際、ポータルサイトから健診が未受診であると指摘してもらう。あるいは、定期的な検査値から別の疾病が疑われるので検査をする。こうした取り組みが、特定健診の受診率に寄与するとともに、健診結果がポータルサイトにも蓄積されていく。その積み重ねによって、病気になってから治療するのではなく、早期にリスクを発見し治療しやすくなり、健康寿命の延伸につながって、重症化による医療費の高騰を防ぐ。これが定着すれば、健保組合だけでなく患者自身にも幸せな人生を送るうえで理想的な社会を創ることができる。

かかりつけ医については、政府内で検討が進められ、制度整備が進むものと見込まれるが、われわれからすると、どうやって実践的な価値を享受できるかが最大のポイントだ。愛知県にある健保組合の加入者は、すべて愛知県内にいるわけではなく、全国にいる。そのため今回の取り組みが、愛知県内だけで充実しても他県の加入者にとっては満足できないので、全国47都道府県に、こうした取り組みが広がることを望んでいる。それによって、かかりつけ医のイメージを、より実践的なものに作り上げるのに役立つと思われる。

電子レセプトに始まって、電子カルテ、電子処方箋など医療DXが進んでいる。そこから得られる情報と、日々の生活のなかで得られる体重や歩数といった情報を蓄積し、患者、医療保険者、医療機関の三者がまとまって、社会を変えていく力となる。

この取り組みを他の保険者に拡大
健保連愛知連合会 吉田雄彦常務理事

健保連愛知連合会では、加盟する94の健保組合を対象に、特定健診・特定保健指導などデータヘルス計画に関連する事業を「データヘルス共同事業」として、来年度から実施することとしている。レセプトや健診のデータを利活用するという観点から、データを突合したり分析したりすることで、その健保組合の加入者の疾病構造が判明し、課題解決のためどのような対策を実施したらいいか、事業を計画するうえでの材料になる。愛知連合会で「データヘルス共同事業」に取り組む理由として、1つは多くの健保組合が参加することによるコストダウンの実現。もう1つがデータの信頼性を高めるということだ。

国民皆保険制度を構成する医療保険者として健保組合以外には、協会けんぽ、市町村国保、共済組合がある。日本国民である以上、必ずいずれかの医療保険者に加入しなければならない。各都道府県には保険者協議会があり、各医療保険者の代表者が参画し、連携を図る仕組みがある。保険者協議会としては、データヘルスの推進やマイナンバーと健康保険証の一体化などさまざまな課題に取り組まなければならない。医療保険者の垣根を越えて総力戦でこの課題にあたっていかないと、国民皆保険制度が崩壊してしまう恐れがある。

特定健診の受診率をみても、国保、健保組合とも目標の値には達していない。健保組合や協会けんぽ、共済組合といった被用者保険者は、労働安全衛生法により、被保険者である従業員に健康診断の実施が義務づけられている。そのため、100%ではないものの、高い受診率を維持できているが、被扶養者の受診率は低い。被扶養者の受診率を引き上げることが目標達成の鍵となっている。

そうした課題に対応するため、昨年度からこの取り組みを開始し、医師会とタッグを組んだ。これは、新しいことに挑戦できる枠組みでもある。この取り組みを健保組合だけでなく、他の保険者にも広めることにより、新しい疾病が見つかった際に、連携して素早く対応できるうえ、医療費の適正化や重症化予防などにも効果を発揮すると考えている。


特定健診受診率向上テーマにパネルディスカッション

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