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健保ニュース 2022年8月下旬号

かかりつけ医機能の実装テーマ
佐野副会長 保険者の立場で講演
必要な医療へのアクセス体制を

一般社団法人未来研究所臥龍(香取照幸代表理事)は2日、「かかりつけ医機能をいかに実装するか」をテーマにパネルディスカッションを開催した。このなかで、保険者の立場から講演した健保連の佐野雅宏副会長は、全国民が身近で信頼できる「かかりつけ医」を持ち、外来医療の機能分化・連携を強化することで、安全・安心で効率的・効果的な医療を実現することが最終目標と強調。「かかりつけ医」機能を明確化し、国民が「かかりつけ医」を選ぶために必要な環境整備を進め、必要な時に必要な医療にアクセスできる体制を堅持するよう訴えた。(佐野副会長の講演要旨は次のとおり)

健保組合・健保連は昨年10月、「安全・安心な医療と国民皆保険制度の維持に向けて」と題する「提言」を発表した。そのなかでも、「かかりつけ医」の推進を柱の1つに位置づけ、現在も検討を進めている。

健康保険法が制定されて100年という節目の年に、「かかりつけ医」という今後に向けた新たな一歩を踏み出していければと考えている。

保険者の立場で発言するが、健保連としての最終的な方針が固まっていない部分もあるので、個人の意見も入っている前提でお聞きいただきたい。

保険者としては、高齢者や生活習慣病等の慢性疾患だけでなく、幅広い年齢層・疾患で現状に問題が生じていると認識している。

以前から指摘されている▽はしご受診・コンビニ受診▽お薬受診、重複投薬・残薬、ポリファーマシー▽重複検査▽大病院に患者が集中▽長期入院・社会的入院─などの問題。

新型コロナウイルス感染症禍で、▽不適切な受診控え▽発熱患者の診療中止▽ワクチン接種の制限▽コロナ専用病床の逼迫─などの問題も生じた。

問題の背景には様々な要素があるが、高齢者がピークを迎え、医療資源が不足するなか、2040年を見据えた姿がコロナ禍で顕在化したと考えているので、単に有事だけではなく、平時も合わせた問題の解決を図っていく必要がある。

国民・患者は、▽フリーアクセスを「いつでも、どこでも」と認識▽薬や検査が多くても、それが適切なのか不明▽不安感、情報不足による大病院志向▽保険給付を含めたコスト意識が希薄─と考えられる。

フリーアクセスを「必要な時に、必要な医療に」と認識し、受療行動を変革することが求められ、正しい情報と信頼できる「かかりつけ医」の役割が極めて重要となる。

医師・医療機関は、▽総合診療機能、休日・夜間の相談機能▽専門医・専門医療機関を含めて、他の医師・医療機関と連携し、医療全般をコーディネートする機能▽在宅医療やオンライン診療等への対応─などが考えられ、こういった役割を担う「かかりつけ医」の実効的な制度整備が求められる。

こうした国民・患者と医師・医療機関を結び付けるのが保険者の役割だと認識している。
 国民が身近で信頼できる「かかりつけ医」の推進という場合に、われわれが考える最終目標は、全国民が身近で信頼できる「かかりつけ医」を持ち、外来医療の機能分化・連携を強化することで、安全・安心で効率的・効果的な医療を実現することだ。

コロナ禍で国民から「かかりつけ医」に対する期待・関心が高まっており、コロナ後も見据えた「かかりつけ医」機能を明確化したうえで、国民が「かかりつけ医」を選ぶために必要な環境整備を進めることが重要と考えている。

国民が身近で信頼できる「かかりつけ医」を起点とした医療提供体制の構築と適切な受診行動を進め、国民にとって最も重要な「必要な時に必要な医療にアクセスできる」体制を堅持することが求められる。

そういう意味で、「かかりつけ医」に求められる要素は、▽患者をよく知っている▽患者の多様なニーズに応えられる▽国民・患者に選ばれる─という3点が重要だ。

「かかりつけ医」制度の整備に向けた当面の課題として、患者と医師の信頼関係の好循環をいかに構築するかがポイントであり、▽かかりつけ医機能の明確化▽医師・医療機関の届出・認定▽可視化・情報公開▽国民・患者による選択─という一連の流れを機能させる仕組みが必要と考える。

医師・医療機関は国民・患者に選ばれた責任を果たすための体制や機能の向上へ、人材育成・情報共有・設備の充実を行う必要がある。

国民・患者、保険者、行政は医師・医療機関が選ばれて責任を果たすための費用を負担することとなり、報酬・評価が必要となる。費用負担については、合理性・納得性が極めて重要なポイントになると考える。

「かかりつけ医」の制度整備に向けた当面の課題のうち、「かかりつけ医機能の明確化」は「国民がかかりつけ医について共通認識を持てる」、「医師・医療機関の届出・認定」は「医療の質が担保される」、「可視化・情報公開」は「地域における医療提供体制の実態の見える化や医療機能分化と連携の促進につながる」ことが重要だ。

それを踏まえ、「国民・患者による選択」は、▽国民・患者が自ら選ぶなかで意識の変革が進む▽患者の権利と医師・医療機関の責任が明確になる▽患者は「有事でも診てもらえる」安心が高まる▽かかりつけ医が医療全体を調整することで、医療が効率化される─といった効果が期待される。

制度のための環境整備に向けた課題でいうと、全ての関係者に共通の役割として、患者情報を一元的に把握・共有するための基盤整備が大前提となる。また、合理的な報酬の支払いについても検討する必要がある。

保険者は、▽かかりつけ医の選択を加入者に促進▽かかりつけ医と連携・協働により予防や適正受診の加入者教育▽保険者が実施する保健事業との関係整理や医師・医療機関との連携のあり方─などの役割が今後の検討課題となる。

行政は、▽入院から外来まで一気通貫で医療体制を見直す計画の作成・実施▽計画の実現に向けた指導・監督の強化や医療資源の地域偏在への対応▽人材育成や設備投資への補助、検査やワクチン接種等への支援─が役割となる。

医療団体・学会は、各団体・学会の研修について、一定の水準が担保されるよう、内容の充実をお願いする。

外来医療提供体制の姿では、「フリーアクセスのパラダイム転換」が大きなポイントとなる。「いつでも、どこでも医療を受ける時間と場所の保障」から「必要な時に必要な医療、肝心な時に医療を受けられることの保障」へ、機能分化と情報共有を図ったうえで「かかりつけ医」が地域連携の要となる姿が理想と考えている。

あくまでも、起点は国民・患者に置き、システマチックに機能する仕組みを地域単位で構築することが極めて重要だ。

医療・介護需要がどんどん増大するなかで、社会的コストの最適化をどう図っていくのかも大きなポイントとなる。

海外事例を見ると、日本でそのまま使える仕組みはないので、日本型の制度構築しかないと考えている。

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