HOME > けんぽれんの刊行物 > 健保ニュース > 健保ニュース 2022年7月下旬号

健保ニュース

健保ニュース 2022年7月下旬号

河本常務理事が情勢報告
2024年度 制度改革のターゲット年
年末まで半年間の活動が重要

健保連の河本滋史常務理事は8日の理事会で、最近の情勢を報告した。政府が6月7日に閣議決定した「骨太方針2022」に、健保連の主張が多く盛り込まれた点を評価する一方、出産育児一時金の増額など新たな負担への懸念も示した。診療報酬と介護報酬の同時改定や医療提供体制の見直しなどが実施される2024年度を当面の制度改革のターゲット年に位置づけ、年末までの半年間が重要と強調。2024年度改革に向けての対応など3点を当面の活動として掲げ、健保組合・健保連の主張を反映していく考えを示した。(河本常務理事の情勢報告要旨は次のとおり。)

「骨太方針2022」への
健保連の主張反映を評価

当面の政府等の動向と健保連の対応、医療費動向について報告する。
 6月7日に、今後の政府の方向性を明示した「骨太方針2022」が閣議決定された。

健保連では昨年10月にまとめた「提言」をベースに、「骨太方針2022」に向けて、厚生労働省と議連に対し働きかけてきた。「骨太方針2022」には、健保連が主張してきた多くの内容が盛り込まれており、その点は評価できると考えている。一方で、新たな負担への懸念等、注視すべき内容もある。

健保連はこれまでも少子化対策には賛成だが、現役世代による保険料財源だけでなく、全世代で支えていくべきだという主張を展開してきた。

「骨太方針2022」には、「妊娠・出産支援として、出産育児一時金の増額を始め経済的負担の軽減についても議論を進める」といった記載がある。

また、岸田文雄首相は、通常国会閉会時の記者会見で、出産育児一時金の大幅な引き上げを表明している。

この件については、秋以降、関係審議会で検討される見通しだが、健保連は従来から出産費用の実態把握、増加や地域差の要因分析をしっかり行って費用の適正水準を検証するなど、エビデンスを踏まえて増額の必要性を検討するよう求めてきた。

今後、国による出産費用等の調査結果の報告も踏まえた検討も行われることになると想定しているが、年末の令和5年度予算編成過程で決着するというようなことも報道されている。

本件は、岸田首相の肝煎り案件ということもあり、仮に増額等の方向になった場合、影響の大きい健保組合への財政支援等を要望していきたいと考えている。

出産育児一時金は、平成21年10月に38万円から42万円に引き上げられたが、その際には影響の大きい健保組合に対し補助金による支援が行われた。ただし、一般会計でなく、企業からの拠出金である企業手当勘定からの財源補てんという形をとった。ハードルは必ずしも低くはないが、いずれにしてもそうした要望を強くしていきたい。

全世代型社会保障の構築の「負担能力に応じた負担」の項目では、「給付は高齢者中心、負担は現役世代中心というこれまでの社会保障の構造を見直し」や「給付と負担のバランスや現役世代の負担上昇の抑制を図りつつ、後期高齢者医療制度の保険料賦課限度額の引き上げを含む保険料負担のあり方等、各種保険制度における負担能力に応じた負担のあり方の総合的な検討を進める」と記載された。

われわれは、後期高齢者の保険料負担割合や介護保険制度の負担の見直し等を訴えてきたが、「骨太方針2022」の記載は、健保連の主張に沿ったものと考えている。

「かかりつけ医」の項目では、「機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進める」、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」と明記された。

昨年10月の「提言」では、国民が身近で信頼できる「かかりつけ医」の推進とかかりつけ医制度の構築を求めており、「骨太方針2022」はそれに符合する記載になっている。

今秋以降、「かかりつけ医」のあり方について、国で具体的な検討が進むと見込まれるなか、健保連の発信力強化を目的として、「かかりつけ医」の推進に向け集中的な検討を行う小委員会を政策委員会の下に設置することが了承された。7月から9月にかけて集中的に検討を進めていく。

「オンライン資格確認」の項目は、「医療機関・薬局に2023年4月から導入を原則として義務づける」、「2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入をめざし、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止をめざす」と明記された。

健保連は、▽工程管理を含めたスピードアップが必要▽費用負担については稼働率が一定割合に達するまでは公費を投入▽メリットの周知、拡大、保険証とマイナンバーカードの一本化─などを主張しているが、それに沿った記載となっている。

「全国医療情報プラットフォームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」、「診療報酬改定DX」の3項目については、詳細な内容がはっきりしない部分が多いが、健保連の主張はデジタル化の推進に賛成の一方、メリットが見えないなかでの費用負担には反対の立場である。

オンライン診療については、コロナ禍で得た教訓を踏まえ、適切な普及・促進を図る方向性を明確化すべきと主張してきたが、「オンライン診療等」の項目は、それに沿った内容が記載されたと考える。

症状が安定していると医師が判断した場合に3回使用が可能な「リフィル処方箋」は、患者が医師の診断を受けることなく薬局で薬を受け取ることができ、患者の大幅な利便性向上につながると期待される。

「骨太方針2022」では、「良質な医療を効率的に提供する体制の整備」、「リフィル処方箋の普及・定着のための仕組みの整備」が記載された。

「リフィル処方箋」の導入は、健保連が以前から求めていた内容であり、従来は日本医師会の強い反対で実現していなかったが、昨年末の大臣合意により令和4年度診療報酬改定で導入された経緯がある。医療費0.1%相当の400億円程度の医療費削減効果を見込んでいる政策だ。

生活習慣病等症状が安定している場合で、リフィルによる処方が可能と医師が判断した場合に限られる。薬局では、薬剤師の健康観察の取り組みという仕組みになるので、医師と薬剤師の適切な役割分担によるタスクシフトや働き方改革にも資する。

そもそも高齢者を中心に、診察を受けずに薬を出すという「お薬受診」が蔓延している実態のなか、健保連としては「リフィル処方箋」の普及促進に努めていきたいが、特に診療所の医師が再診料の減収に繋がる部分もあり、多くが非協力的だ。

日本保険薬局協会が5月末に行ったアンケート調査では、「リフィル処方箋」の受付実績のある薬局は18%、逆に言うと82%は「リフィル処方箋」を受け取ったことがないという統計も出ている。また、処方箋の受付回数に対する「リフィル処方箋」の割合はわずか0.5%という状況にあり、今後の普及促進、認知度向上が極めて重要だ。

「歯科健診」は、いわゆる国民皆歯科健診を検討する方向性が打ち出されたが、参院選の前の政治状況のなか唐突に入ってきたものであり、その意味するところははっきりしない。健保連は、口腔ケアの重要性について総論的に賛成であるが、国民皆歯科健診に対しては慎重に主張していきたい。

5年度予算概算要求など
3点を当面の対応課題に

2024年度は、診療報酬と介護報酬の同時改定や第9期介護保険計画、第4期医療費適正化計画が改革のタイミングとなる。

さらに、第8次医療計画や第4期特定健康診査等実施計画、第3期データヘルス計画も2024年度で切り替わる。

そういう意味では、2024年度は当面の制度改革のターゲット年とも言える。
 法改正が必要な項目は来年の2023年の通常国会での審議・成立が必要であり、2024年度からスタートといっても、実質的な検討の時期は参院選挙終了後から年末までの半年間に、全世代型社会保障構築会議や各種審議会・検討会が走り出すことになる。

この半年間に、「骨太方針2022」に明記された項目や、負担と給付の見直しや財源論など、選挙前には詳らかにされていない項目も含め、一体的な議論・検討が行われることになると想定している。

もちろん、全世代型社会保障構築会議で、2040年を視野に入れた制度改革議論も行われると思うが、いずれにしてもこの半年間は大変に重要と考える。

こうした状況を踏まえ、健保連の当面の活動として3点を挙げたい。
 1点目は2024年度改革に向けての対応である。
 2024年度をターゲットに、「骨太方針2022」を踏まえ、少子化対策や全世代型社会保障の構築、負担能力に応じた負担、医療提供体制における機能分化と連携の強化、かかりつけ医機能の制度整備、医療のICT化の推進といった観点から、医療保険制度、医療提供体制、介護保険制度などの見直しの検討にわれわれの主張、意見を反映させていくことが重要だ。

健保連としても関係委員会での意見を伺いながら、関係審議会・検討会の場に反映をしていきたいと考えている。

2点目は、令和5年度政府予算概算要求、あるいは9月以降に予想される臨時国会における4年度の2次補正予算を視野に入れた対応だ。

5年度政府予算概算要求に向けては、今年の3月以降、「骨太方針2022」に関する要請と合わせ、議連とも連携しながら対応してきた。9月以降の臨時国会では、令和4年度2次補正予算が検討される可能性がある。

5年度政府予算概算要求は、高齢者医療運営円滑化等補助金や少子化対策に絡む。仮に出産育児一時金が増額された場合の対応に加え、補正予算での獲得も視野に入れた臨機応変な対応が必要になる。

秋の臨時国会では、コロナ禍を踏まえ有事の医療提供体制を強化する「感染症法」の改正案が想定されている。

有事における自治体の権限を強化し、公立・公的医療機関などに有事を想定した病床確保計画の策定を求め、自治体と医療機関が協定を締結する義務を課す。これに合わせ、有事における対応医療機関への財政支援のやり方も検討される可能性もあり、財源問題も含めしっかりウォッチして主張していくことが必要と考えている。

3点目は、リフィル処方箋の周知・広報、オンライン資格確認関係のアンケートについてだ。

リフィル処方箋の推進やオンライン資格確認については、審議会等の主張だけでなく、健保組合の加入者の皆さんも巻き込んだ活動を行い、いわば医療費を負担する側から推進していくことが必要と考えている。

7月の決算理事会・組合会に間に合うよう、PR用のコンテンツを用意して欲しいという意見をいただいており、リフィル処方箋の加入者PR用コンテンツを6月20日に健保連のイントラネットに掲載した。

加入者のリフィル処方箋に関する認知度を上げるとともに、受診時に医師に話を切り出す契機として活用していただくことも想定している。

健保組合の意見を伺いながら第2弾のPR等の調整をしているので、ご意見・要望を寄せていただきたい。

合わせて、健保連のホームページ内に「リフィル処方箋普及特設サイト」を開設した。チラシに張り付けたQRコードからアクセスできる形としているので、何卒、協力のほどお願いする。

なお、協会けんぽとの協議の結果、協会けんぽも同様のコンテンツを用いて加入者PRを行う方向で調整が進んでいる。

「骨太方針2022」のなかで、医療機関等に2023年4月からオンライン資格確認の導入を義務づけることが明記されているが、導入率は6月の時点で24%程度にとどまっており、遅れが生じている状況だ。

これについては、7月4日のICT委員会でもこれを懸念する意見を多数いただいており、引き続き医療機関での普及促進へのペースアップに向けての追加施策の展開を医療保険部会やオンライン資格確認検討会の場で求めていく。

これに加え、医療機関におけるオンライン資格確認の導入状況や、マイナンバーカードの保険証利用に関する意識等を把握することを目的にアンケート調査を実施した。

今年の1月から6月中旬まで医療機関を受診した健保組合関係者の意見等は545サンプルだった。アンケート調査は9月末まで実施しているが、ご協力をいただいた関係者の皆さんに感謝申し上げる。

調査結果のポイントを申し上げると、回答者の約7割が「マイナンバーカードを保険証として利用できなかった」と回答。回答者の8割は「利用したい」、「使える医療機関が増えたら利用したい」と回答している。

また、「利用したくない」と回答した方の約5割が「持ち歩きたくない」、約2割が「窓口負担額の増加」を理由とした。

回答者の約8割がマイナンバーカードの保険証利用に肯定的な一方で、マイナンバーカードを使える医療機関等が少ないなどを理由に利用へ結び付いていない状況が明らかになり、今後、▽医療機関・薬局における導入の加速化・義務化▽マイナンバーカードのメリットや紛失時等の安全性の周知▽利用しやすくするための診療報酬上の加算の見直し▽保険証の廃止に向けたより具体的な取り組み─を求めていくとした。

こうしたアンケート結果の内容を審議会・検討会や厚労省に紹介し、普及促進のプレッシャーとしていきたいと考えている。

アンケートは9月まで実施しているので、回答への協力をお願いする。

3年度1人当たり医療費
現役と高齢者で動向に差

医療費動向について、令和元年度と3年度の1人当たり医療費を比較すると、被用者保険4.48%増、健保組合4.28%増で、現役世代は従来の年率2%程度の2年分に相当する伸びとなっている。

2年度の新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う受診控えによる減少を挽回し、従来ベースに戻りつつあるように見える。

一方で、後期高齢者は1.38%減と元年度の1人当たり医療費の水準まで戻っておらず、現役世代と高齢者の医療費動向に差が生じている。

コロナ関連の医療費は3年度で4428億円、被用者保険の医療費は約13兆円であるので、構成比は3.4%程度と高い率になる。2年度と比較すると3.6倍も増加した。

概算医療費は、4年2月までの数値しか出ていないが、傾向は同じで、2年前と比較し、現役世代の伸びが高く、高齢者はマイナスの伸びとなっている。

コロナ禍による受診控えが世代間の違いがあるものの概ね解消する一方、若人を中心にコロナ医療費の増大が顕著になってくると医療費の動向も流動的になり、読みにくいところもあるが、できるだけ的確な言い方ができるよう情報収集に努め紹介していきたい。

けんぽれんの刊行物
KENPOREN Publication

2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年