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健保ニュース 2021年11月下旬号

健保連・松本理事インタビュー
患者、保険者が納得できる診療報酬へ
4年度改定 コロナで顕在化した問題解決

中央社会保険医療協議会の支払側委員に10月30日付で就任した健保連の松本真人理事は、本誌のインタビューで、医療を受ける患者や給付する保険者が納得できる診療報酬になるように、長期的かつ俯瞰的な視点も重視しながら中医協の議論に臨む考えを示した。直面する令和4年度改定については、新型コロナウイルス感染症で顕在化した問題の解決を課題にあげた。

──委員就任にあたり

医療保険財政は非常に厳しく、それがさらに増そうという時に、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、保険者だけでなく国民の注目も医療に集まっている。こうしたなかで診療報酬の決定に関わることになり、非常に身が引き締まる思いであり、山積する課題を解決するために、健保組合の代表として、そして国民の代表として役割を精一杯果たしたい。


──議論に臨む基本的な姿勢

医療の世界は提供者の影響力が非常に強い。患者や保険者は情報量が圧倒的に少なく、通常の商品やサービスを需要者が選ぶように、治療の内容を判断することが難しい。しかし、診療報酬は患者が受けた医療サービスの対価であり、費用の負担に納得は欠かせない。単純な需要と供給の均衡とはならないが、被保険者に適切な医療を給付するために妥当な価格の水準、医療費の配分はどうあるべきかを主張し、適正化につなげたい。

例えば、ICTを活用する場合、普通は効率化をまず考えるが、医療では病院や診療所のコストをどうしようという話から入る。やはり最初に効率化があって、そのうえで医療の質が高まるのであれば、付加価値をどう評価しようかというのが議論の順番だろう。

もうひとつ、診療報酬を考えるうえで、個別の点数項目だけでなく、全体のバランスも重視したい。これも例示だが、小児の患者は成人に比べて気を付けなければならないことが多いから、診療報酬を手厚くしてはどうかということが、たびたび議論になる。小児の患者にきめ細かな配慮が必要であることには、まったく異を唱えるものではない。ただ、一連の医療行為や点数項目のどこで小児と成人で差を付けるべきか、全体をみて総合的に判断すべきだろう。


──コロナ禍を受けた改定

新型コロナウイルス感染症への対応については、補助金・交付金と診療報酬の役割を切り分けて考える必要がある。病床確保や医療機関の減収補填といった診療行為が発生しない部分は補助金・交付金で対応し、コロナ患者を受け入れた場合は診療報酬で対応することが大原則だ。

医療機関の感染防止に必要な「かかり増し経費」は、診療報酬で一定期間対応してきたが、10月から補助金による措置に移行した。これにより役割分担が一層明確になり、政府の重要な方針転換だと受け止めている。

コロナ禍によって医療機能の分化・強化や連携が不十分であることも改めて浮き彫りになった。この問題は、ぜひ令和4年度改定で解決したい。


──入院医療の再構築

日本は人口当たりの病床数が世界で最も多く、感染者が比較的少ないにもかかわらず、コロナ対応病床が足りなくなる事態が発生した。医療現場の奮闘には敬意を表するが、高度な医療を濃密に提供する体制と、急性期を脱した患者を後方支援病床で引き受ける仕組みが不十分という、システム上の問題が大きな理由のひとつだと考えられる。

高度急性期・急性期の病床を集約して医療資源を重点化するとともに、回復期、慢性期、在宅が円滑に連携できれば、効率的・効果的な医療につながるとともに、新型コロナウイルス感染症対応にもつながる。

この考え方は、人口減少社会のなかで団塊の世代がすべて後期高齢者になることを見据え、病床機能を再編・統合する「地域医療構想」の方向性とも合致する。

令和4年度改定では、特に急性期医療の入院料について、重症患者の割合に加え、高度な医療の提供実績を新たな切り口として取り入れ、病床機能の分化・連携を加速させることが望まれる。


──かかりつけ医の推進

外来医療では、コロナ感染に対する不安の増大やワクチン接種の必要性から、かかりつけ医に対する国民の関心が高まったのではないか。日頃から医師とつながりがあれば、慢性疾患の継続的な管理だけでなく、急な疾病の罹患や体調不良時の対応などで、安心感はぐっと高まる。必要な時に必要な医療を受けられるために、かかりつけ医を起点とした外来医療の構築は急務と言える。

利便性の観点から注目されるオンライン診療や、先の健康保険法改正で実施が決まった大病院受診時定額負担の拡大とも、かかりつけ医は密接に関係する。支払側の全委員と認識を共有しながら、令和4年度改定がかかりつけ医の普及に向けた重要な節目となるようにしたい。


──医薬品の適正使用

後発医薬品の使用については、数量割合が約80%まで来たが、メーカーの不祥事を発端とする供給不足により、国民の信頼感が揺らぎ始め、健保組合も加入者への対応に苦慮している。極めて深刻な問題だと認識している。

ただし、限りある医療保険財政のなかで、後発医薬品の重要性は変わらない。令和4年度改定でも、引き続き後発品の普及策を講じるべきだ。そのためにも国を挙げた信頼回復に期待したい。

さらに、先発品を同一成分の後発品へ置換えるだけでなく、フォーミュラリによる薬物治療の標準化を推進し、薬剤費の伸びを適正化したい。

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