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健保ニュース 2021年11月上旬号

宮永会長・基調演説
皆保険維持へ次なる改革が不可欠
世代間の給付と負担の不均衡を是正

健保連の宮永俊一会長は、10月19日の令和3年度健康保険組合全国大会で基調演説した。新型コロナウイルス感染症禍で健保組合の厳しい財政状況が続くなか、団塊の世代が後期高齢者に入り始める2022年度から、すべて後期高齢者となる2025年度にかけて、高齢者医療への拠出金負担が急増するという「構造的な問題は何ら変わっていない」と指摘。「現役世代の負担はもはや限界に達している」と窮状を訴え、過重な負担を軽減し国民皆保険を維持するためには、一定所得以上の後期高齢者の窓口負担2割の早期実施と合わせて、次なる改革が不可欠との考えを強調した。このため、世代間の給付と負担の不均衡を是正して公平性を確保し、「全世代で負担を分かち合う制度へ早期に転換しなければならない」と指摘し、健保組合・健保連の主張を実現する決意を示した。(宮永会長の基調演説は次のとおり)

本日は令和3年度健康保険組合全国大会に出席、また視聴をいただき、感謝申し上げる。
 昨年度の全国大会は、新型コロナウイルスの感染拡大により、やむをえず中止せざるを得なかったが、今年度は2年ぶりに開催することができた。

健保組合全国大会は、全国の健保組合関係者が4000名を超える規模で集まり、団結をさらに強めるとともに、われわれの声を世論に、国政に訴える重要な大会である。私にとっても、昨年4月に健保連の会長に就任して以来、初めての大会となるので、本日、ここに開催できることは大きな喜びであり、また身の引き締まる思いである。

会員組合の熱い声で
万全を期し大会開催

さて、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、健康・医療への不安を招くとともに、社会および経済にも大きな影響を与えている。改めて、新型コロナウイルスに罹患された方やその家族にお見舞い申し上げるとともに、この長い感染症対策に従事している医療従事者の皆さんの尽力に心より敬意を表する。また、医療を保険制度の面で支え、しっかりとその職責を果たしている健保組合の役職員各位にも厚くお礼申し上げる。

現在、ワクチン接種も進み、緊急事態宣言等も全国的に解除されて、足下の感染状況はやや落ちついてきているが、未だ予断を許さない状況にある。

このような厳しい状況にあっても、今年は何としてでも全国大会を開催し、健保組合の団結を確認するとともに、われわれの主張を各方面に訴えていきたいという会員組合の熱い声から、感染対策に万全を期したうえで、開催する次第である。また、ウェブ配信を通じて、全国の健保組合関係者にも参加・視聴いただいており、感謝申し上げる。

さて、今般のコロナ禍によって、われわれ健保組合も事業の執行や運営に大きな影響を受けた。昨年度、2020年度の健保組合全体の財政状況は、コロナ禍の受診控え等により保険給付費が減少し、健保組合全体では小康状態のようにみえるが、給付の減は一時的であり、また売上・収益の大幅な減少に見舞われた業種もあり、保険料の納付猶予も含めた大幅な収入減もあって、非常に深刻な状況が続いている。

構造的な課題は不変
改革の早期検討、実現を

今年度に入ってからは、こうした保険料収入の低迷が継続する一方で、医療費は着実に伸びており、健保組合の保険給付費もコロナ前の水準に戻りつつある。何よりも、いわゆる「団塊の世代」が後期高齢者に入り始める2022年度、すなわち来年度から、その方々がすべて後期高齢者に入る2025年度にかけて、高齢者医療制度への拠出金負担が急増するという構造的な課題は何ら変わっていない。

このまま拠出金が際限なく増え続け、負担に耐えきれず解散に追い込まれる健保組合が相次げば、われわれが中核として支える国民皆保険制度の根幹が揺らぐことは間違いない。

昨年末には後期高齢者の窓口負担2割の一部導入を含む「全世代型社会保障改革案」が決定され、先の通常国会で関連法が成立した。これは、われわれが強く主張してきた改革であり、一歩前進ではあるが、今後想定される拠出金負担の増大を考えれば、十分とは言えない。

今回の改正法の附則にも、全世代型社会保障改革のさらなる推進に向けて「総合的検討」を進めるとの記載があるが、次なる改革は不可欠であり、さらに残されている時間は少なく、早期に検討を開始し、実現していくことが求められる。

一方、今般のコロナ禍では、発熱時であっても適切に外来を受診できない事例や、本来、入院が必要な患者が自宅療養を余儀なくされるなど、「必要な時に必要な医療にアクセスできる体制」が揺らぐ事態が発生した。

これは、医療資源の散在など従来から指摘されていたわが国の医療提供体制の課題が顕在化したものと言える。また、小規模に分散されているからこそ、本来、医療機関の役割分担と連携が重要であるにもかかわらず、それが十分に機能していなかった点も反省材料であり、われわれ保険者は加入者の健康を守るために、こうした課題にもしっかりと取り組んでいかなければならない。

要望、提言を発信
世論・国政に強く訴える

こうした状況を踏まえ、健保連では本年4月から検討を開始し、6月には「骨太の方針2021」に向けての要望を行った。また、その後もさらに検討を進め、健保組合・健保連の提言「安全・安心な医療と国民皆保険制度の維持に向けて」を取りまとめ、世論・国政に強く訴えていく方針である。

さて、本大会のテーマは「未来のため、皆保険を守るため、全世代で支え合う制度の構築へ」である。「団塊の世代」全員が後期高齢者に達する2025年が迫るなか、わが国は少子高齢化のさらなる進展という難局に直面している。また、今般の新型コロナウイルスの感染拡大により、非常時における病床逼迫など医療提供体制の脆弱さが露呈され、医療に対する国民の不安はかつてなく高まっている。

3スローガンを掲げ
組合の主張をアピール

われわれは、これらの困難を乗り越え、誰もが安全・安心な医療を受けられる国民皆保険制度を堅持し、そして未来に引き継いでいかねばならない。こうした強い決意の下、本日の全国大会では3つのスローガンを掲げている。

1点目は「国民が安心できる安全で効率的な医療の実現」である。
 今般のコロナ禍を通じて明らかとなった医療提供体制の課題をしっかりと受け止め、あわせて、今後の人口動態や疾病構造の変化、そして新たな感染症にも対応していくためには、将来の医療需要を見据えた入院医療体制の整備に向けて、地域医療構想を着実に推進する必要がある。

また、国民が身近で信頼できる「かかりつけ医」を持ち、外来医療の機能分化・連携を推進することで、安全・安心で効率的・効果的な医療を実現していかねばならない。

2点目は「現役世代の負担軽減と世代間の公平性確保」である。
 現役世代の負担はもはや限界に達している。この過重な負担を軽減し、国民皆保険制度を維持していくためには、先の通常国会で決定された「一定以上の所得がある後期高齢者の窓口負担2割」を早期に実施するとともに、次なる改革に向けて歩みを進めて行くことが不可欠である。

世代間の給付と負担のアンバランスを是正して公平性を確保し、全世代で負担を分かち合う制度へ早期に転換しなければならない。

3点目は「健康寿命の延伸に向けた保健事業のさらなる推進」である。
 健保組合はこれまでも保険者機能を発揮して、加入者の健康づくりや疾病予防、医療費の適正化などに取り組んできた。現在のコロナ禍においても、加入者の健康を守るという重要な使命を全うすることに変わりはない。

一方、人生100年時代における働き方の多様化やデジタル化の進展など、社会の変革は急速に進んでいる。

われわれ、健保組合は、今後も事業主との連携、加入者との距離の近さを生かし、社会の変革にも対応したさらなる取り組みに努め、現役の頃からの健康づくりの推進・充実を図ることで、加入者はもとより国民全体の健康寿命の延伸に貢献したいと考えている。

制度の持続性を確保
現役の過度な負担軽減

少子高齢化による生産年齢人口の減少と後期高齢者の急増というわが国の構造的な課題は容易に解決できないが、大切な国民皆保険制度を持続可能なものにしていくためには、制度を支える現役世代の過度な負担の軽減等、改革の歩みを止めることは許されない。国民の安心の確保に向けて皆保険制度の崩壊はなんとしても避けなければならない。

こうしたなか、医療の課題解決に向けて取り組み、加入者に安心・安全を届けることは、われわれ保険者の責務である。今こそ決意を新たに、「未来のため、皆保険を守るため、全世代で支え合う制度の構築」に向けて、全力で取り組んでいく必要がある。

国の公的保険である健康保険において、こうしたわれわれの主張を前に進め改革を実現するためには、われわれの主張に理解ある国会議員の先生を増やしていくことも重要である。

奇しくも本日は衆議院議員選挙の公示日である。総選挙は、10月31日投開票で実施される。健保組合を応援してくれる国会議員の先生を1人でも増やすべく、取り組んでいかねばならない。

コロナ禍は未だ続いており、われわれの対外的な活動も、これまでにない、工夫が求められる。知恵を出しあって、しっかりと前に進めていこうではありませんか。われわれの主張実現に向けて、健保組合の関係者の皆さんから、引き続き、絶大な支援・協力を賜ることをお願いして、私の基調演説とする。

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