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健保ニュース 2021年10月下旬号

健保組合・健保連が提言
かかりつけ医の推進、制度を構築
高齢者医療改革など 現役世代負担軽減を引続き重視

健保連は19日、健保組合全国大会終了後に記者会見を開き、「安全・安心な医療と国民皆保険制度の維持に向けて」と題する健保組合・健保連の新たな提言を発表した。保険給付範囲の見直しなど医療の重点化・効率化や、後期高齢者の窓口負担の原則2割化など現役世代の負担軽減に資する施策を引き続き重視するとともに、今回の新型コロナウイルス感染症禍に伴う医療提供体制の課題を踏まえて、国民が身近で信頼できる「かかりつけ医」を推進する必要性を強調した。このため、まずは、かかりつけ医の要件(機能)を法令等で明確にするなど普及への環境整備をしたうえで、制度化することを提起した。また、保健事業を中心とする健保組合の価値向上に取り組む方針も示した。今回の提言は、常任理事会・要求実現対策本部の下に設置した要求実現対策チームで検討を重ね、8日の常任理事会・同本部で了承、決定した。

提言の趣旨は、団塊の世代全員が75歳以上となる「2025年」が迫り、超高齢社会で皆保険の財政危機が一層深刻化しかねない状況に直面しているなか、こうした危機を乗り越えるための改革の必要性や、さらにコロナ禍の経験を踏まえて健保組合・健保連としての考え方とその対応をまとめた。

健保組合・健保連は、平成29年に「2025年度に向けた医療・医療保険制度について」をまとめ、高齢者医療費の負担構造改革を中心に医療保険制度の抜本改革を提言した。これに続く今回の提言は、その後の社会情勢の変化やコロナ禍を踏まえたものとなっている。

今回の提言の医療提供体制のあり方と制度的な対応についての基本的方向を総括すると、「誰もが必要な時に必要な医療にアクセスできる体制とそれを支える皆保険制度を維持するためには、地域医療構想の実現をはじめとする『質の高い医療提供体制の構築』と、社会情勢の変化に対応した『全世代で支え合う制度への転換』が急務である」と指摘している。

提言の柱は、①コロナ禍を通じて明らかになった課題と対応②社会情勢の変化に応じた課題と対応③健保組合の価値向上へ取り組む課題と対応─の3つで構成されている。

このうちの①コロナ禍を通じて明らかになった課題と対応は、医療提供体制に関して、かかりつけ医の推進を軸に外来医療の機能分化・連携を強化することで、安全・安心で効率的・効果的な医療の実現をめざす。

コロナ禍において顕在化した課題については、入院・外来ともに医療提供体制の硬直性・脆弱性、医療資源の散在などを問題視し、医療に対する国民の不安が増していると懸念。

一方で、国民のかかりつけ医への期待・関心は高まっているとし、▽かかりつけ医機能を明確化して、国民がかかりつけ医を選ぶために必要な環境整備を進めることが重要▽かかりつけ医を起点とした医療提供体制の構築と適切な受診行動を進め、国民にとって最も重要な「必要な時に必要な医療にアクセスできる」体制を堅持することが求められる─との基本認識を示した。

こうした観点から、健保連におけるかかりつけ医に関する検討の進め方を2段階に分けて整理した。

令和3年度の第1のステップでは、かかりつけ医を起点とする医療の大きな流れをつくるための環境整備と位置づけ、健保連としてかかりつけ医の「基本的な考え方」を取りまとめ、かかりつけ医の要件(機能)の法令等での明確化や国民への情報提供・開示の強化の必要性を発信していく。

かかりつけ医の要件(機能)は、「患者をよく知っている」(患者の情報を一元的に把握、生活・家庭背景を理解等)、「患者の多様なニーズに応えられる」(オンライン診療、リフィル処方、在宅医療等)、「国民・患者に選ばれる」(必要に応じ専門医療を紹介、幅広い診断・治療が可能等)を提起した。こうしたかかりつけ医は、将来的に総合診療専門医を基本とする考えを示した。

要件(機能)の明確化で見込まれる効果については、国民・患者の側は、かかりつけ医の機能や必要性の理解が進み、かかりつけ医を選択する指標となる。医師にとっては、かかりつけ医となることの促進や専門医等との差別化・機能分化が進む。

国・保険者などでは、制度化が進みやすくなることや、医療提供体制の構築、機能分化・連携、強化のベースとなること、さらに、かかりつけ医拡大のための施策の促進、かかりつけ医を持つことを加入者に推奨する取り組みをあげた。

また、4年度診療報酬改定に向けて、かかりつけ医機能の評価を再構築し、全国民がかかりつけ医を持つという将来に向けた足掛かりを作る。

第2のステップは、4年度以降の展開として、かかりつけ医制度の構築をめざす。このため、健保連として「制度化の考え方」を取りまとめ、主張していく方針だ。

かかりつけ医の認定・登録・管理・人数や医師の偏在対策、かかりつけ医以外を受診した場合の定額負担、総合診療専門医の育成促進など、具体的な制度のあり方については引き続き検討する。

入院医療体制では、急性期機能の強化が感染症対応力の向上にもつながるとし、入院医療の機能強化・分化、連携を目的とする地域医療構想を、6年度からの第8次医療計画を見据えて着実に推進すべきと主張した。

②社会情勢の変化に応じた課題と対応は、従来から抱えている問題とそれへの対応を示したもので、国民皆保険制度の持続性の確保に向けて、医療費の増加を抑制(医療の重点化・効率化)するとともに、現役世代に過度に依存する制度から全世代で支え合う制度への転換が必要であると強調した。

具体的に医療の重点化・効率化では、スイッチОTC化の推進でセルフメディケーションを行える環境を整えつつ、ОTC薬で代替可能な市販品類似薬の保険給付範囲からの除外や給付率の見直しを提言した。

薬剤費の伸びの抑制では、フォーミュラリを普及し、安全性や有効性に明らかな差がない場合は低価格の医薬品を選択する考えを徹底すべきとした。慢性疾患など長期間の薬物治療が必要で症状が安定した患者には、リフィル処方の早期導入を提言した。

また、医療費適正化計画の取り組みを強化する必要性も指摘した。

現役世代の負担軽減
後期高齢者の保険料
負担割合見直しを提起

全世代で支える制度の構築に関しては、世代間のアンバランスの是正や現役世代の負担軽減に着目し、後期高齢者の保険料負担割合(後期高齢者負担率)の見直しなど後期高齢者医療制度の見直しを中心とする対応を示した。

後期高齢者の保険料負担割合は、給付費のうち後期高齢者の保険料で負担する割合を表すもので、現在、2年ごとに後期高齢者と現役世代の人口比に応じて改定している。その際、高齢化と現役世代の減少という人口構成のトレンドを踏まえ、現役世代の人口減少に伴う負担の増加については、世代間の負担の不均衡を是正するために、後期高齢者と現役世代で折半して負担する仕組みとなっており、後期高齢者負担率をその分引き上げることとなっている。

制度発足時(平成20・21年度)の後期高齢者負担率は10%、後期支援金負担率は約40%。その後、後期高齢者負担率は段階的に上昇し、直近の令和2・3年度は11.41%となっている。

保険料の推移をみると、令和元年度の後期高齢者の平均保険料額が月5857円で、平成20年度に比べて1.10倍の増加。一方、現役世代1人当たりの後期支援金保険料相当額は月4534円で、同1.91倍増と後期高齢者を上回る保険料の伸びとなっている。

提言は、こうした実態に着目して、後期高齢者と現役世代の負担の伸びの均衡を図るよう後期高齢者負担率を見直す必要性を提起。後期高齢者負担率のあり方については、「少なくとも、現役世代の1人当たり負担額の伸び率を、後期高齢者の1人当たり負担額の伸び率の同程度以下にすべき」と主張した。

また、後期高齢者の窓口負担については、今年の通常国会で成立した改正健保法等にもとづき、令和4年10月から5年3月の間に単身で課税所得28万円以上かつ年収200万円以上の75歳以上を対象に現行1割から2割へ引き上げることとなっており、後期高齢者の約23%に相当する約370万人が2割に該当する見込みだ。

そのうえで、窓口負担に関する提言は、4年度後半に施行される予定の2割負担の早期実施と合わせて、今回の改正では現役世代の負担増抑制効果が限定的であることから、低所得者を除いて原則2割負担とする必要性を強調し、こうした方向で対象範囲の拡大の検討を継続すべきとした。

3割負担が適用される現役並み所得者については、その対象範囲の拡大と現役並み所得者の給付費への公費投入の必要性を訴えた。

社会保険の保険原理が適正に機能する仕組みとしては、▽高齢者医療への拠出金負担の上限設定、前期高齢者財政調整の見直し▽拠出金負担の見える化(後期高齢者支援金、介護納付金の保険料率を国が審議会の意見を聞いて定めるよう見直す)▽社会保障のための財源確保等の検討(税財源確保、年金控除や非課税年金の見直し)─を提言した。

拠出金負担の上限設定は、拠出金負担増を一定程度抑える現行の「負担調整」「特別負担調整」の仕組みを改正し、義務的経費に占める拠出金の負担割合について、負担調整は50%、特別負担調整は48%とそれぞれ上限を設定するとともに、これによる減額分は公費負担として高齢者医療に充当すべきとした。

このほか、金融資産も加味した高齢者の自己負担割合の判定、介護保険制度の給付と負担の見直し、前期高齢者と介護保険制度の年齢区分を現行65歳から70歳への引き上げなどを検討課題とした。

健保組合の価値向上
健康寿命を延伸し
“well-being”向上

③健保組合の価値向上へ取り組む課題と対応は、健保組合は事業主との密接な連携のもと、保険者機能を発揮し、疾病予防や重症化予防など様々な事業を展開しており、現下のコロナ禍においても加入者の健康を守るという重要な使命は不変であることを強調した。

健保組合は引き続きコラボヘルスによる健康経営の推進、加入者への健康教育・広報によるヘルスリテラシー向上等に努めるとともに、社会環境の変化に応じた先駆的な取り組みを実践し、国民全体の健康度を高め、健康寿命の延伸を図ると宣言。人生100年時代における働き方の多様化にも対応した保健事業の推進が求められているとし、健康寿命の延伸に向けた健保組合のさらなる取り組みで、肉体的・精神的・社会的の3つの要素が調和した真の健康である“well-being”の向上にも貢献していく意欲を示した。

健保組合・健保連の新たな提言『安全・安心な医療と国民皆保険制度の維持に向けて』

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