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健保ニュース 2021年3月上旬号

幸野理事インタビュー
コロナ特例報酬の検証を
次期診療報酬改定 医薬品適正処方など論点

健保連の幸野庄司理事は、新型コロナウイルス感染症の対応に終始した令和2年度の中央社会保険医療協議会の議論を振り返り、一連の臨時的・特例的措置が医療機関の経営や人員体制の整備などにどのような効果をもたらしたのか、しっかりと検証する必要性があることを、本誌のインタビューで語った。今年4月に実施される毎年薬価改定については、当初見通していた品目数より多くの医薬品が対象となり、医療費ベースで約4300億円(国費1000億円)の削減となるなど、平成30年度の薬価制度抜本改革の最大の成果と評価した。また、令和4年度の次期診療報酬改定については、新型コロナウイルス感染症に伴う診療報酬上の臨時的・特例的措置の検証に加え、前回改定の柱となった医療従事者の働き方改革の扱いやフォーミュラリを含めた医薬品の適正処方などが議論の焦点になるとの見通しを示した。

令和2年度の中医協を振り返って

令和2年度診療報酬改定は新型コロナウイルスの感染拡大で掻き消された感がある。改定となる2年4月に感染が急拡大し、診療報酬上の臨時的・特例的措置が矢継ぎ早に発出され、2年度の中医協の議論は新型コロナウイルス感染症対応に終始した。

今年は4年度の次期改定に向けた議論が始まるが、その前のどこかの時点で、一連の臨時的・特例的措置が医療機関の経営や人員体制の整備などにどのような効果をもたらしたのか、また医療費にどう影響を与えたのか、しっかりと検証すべきである。

毎年薬価改定の実施について

平成30年度からスタートした薬価制度抜本改革の一環として、2年に1度であった薬価改定を、市場実勢価格へ適時に反映するよう、中間年においても必要な薬価の見直しを行うという毎年薬価改定の方針が示された。

この方針を受け、中間年にあたる令和3年度は薬価改定を実施する方向で進められてきたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により、その対応に追われる医療現場の負担を考慮し、毎年薬価改定の実施を延期すべきという意見が診療側からあげられた。さらに、毎年薬価改定を実施するのであれば、対象品目をできるだけ限定し、新型コロナウイルス感染症の最前線にいる医療機関・薬局等への配慮を行うべきという主張もあげられた。

毎年薬価改定を実施する目的は、国民皆保険制度の持続可能性を高め、国民負担を軽減することだ。これは平成28年12月に当時の塩崎恭久厚労相、麻生太郎財務相、菅義偉官房長官、石原伸晃経済・財政相の4大臣が合意した「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」がベースとなっている。

これまで2年に1度の診療報酬改定に合わせ、薬価が決まると、薬の卸会社から仕入れる際の実勢価格は、医療側との交渉で決まるため、基本的に薬価を下回る。その差額は、国民が払っている。毎年薬価改定は、その差額を解消するための政策であり、国民負担を軽減するうえでも不可欠なものだ。

中医協では新薬、長期収載品、後発品と偏りなく価格と乖離のあるすべての品目を実施するべきと主張した。今般、毎年薬価改定のために行われた薬価調査の結果、平均乖離率は8%であった。毎年薬価改定の政府方針は、「乖離率の大きな品目について改定を行う」ことであったことから、業界や診療側、厚労省でさえも8%~16%の乖離のある品目が対象になると想定していたが、政府により5%以上を対象とすることが決定された。これは正直、支払側も意外であったが、思い切った判断であり大いに評価したい。

これにより約1万6000品目の医薬品の約7割が薬価改定の対象となり、医療費ベースで約4300億円(国費1000億円)が削減される。これが診療報酬改定の中間年に毎年実施されれば医療費統制に大きく貢献し、薬価制度抜本改革の最大の成果といえる。

高額医薬品について

昨年は、1億円を超える希少疾患・難病治療薬「ゾルゲンスマ」が保険収載された。今年に入ってから、再生医療を活用した医薬品の薬価収載に向けた手続きが始まっている。

今後、特にがん領域においては、遺伝子組み換え、再生医療、がんゲノム医療等が主流となり、医薬品の概念、製法も異なってくる。これらは製造工程・品質管理が異なるうえ、対象患者が少ないため高額とならざるを得ない。

今までの医薬品は低分子医薬品が主流で、化学反応により製造されるため大量生産を可能としているが、再生医療は個人の細胞を採取し遺伝子組み換え等を行ったうえで培養する、いわゆる患者ごとの「オーダーメイド」の医薬品である。

このように医薬品の概念、製法が異なってきているにもかかわらず従来の低分子薬、大量生産を前提とした現行の薬価算定方式を無理やりあてはめるやり方には限界があるのではないか。従来の概念と異なった医薬品に対応するためには、制度も時代に適合したものに見直して行くべきである。そのため、新たな薬価算定方式を早急に検討していく必要がある。

また、薬価が決定したらそれで終わりではなく、費用対効果の観点からしっかりと評価・検証を行うことも不可欠だ。特に高額な医薬品については、個別の保険者に与える財政影響は決して少なくない。

次期診療報酬改定について

繰り返しになるが、まずは新型コロナウイルス感染症に伴う診療報酬上の臨時的・特例的な措置の検証が必要だ。今回ばかりは2年度診療報酬改定の影響を見極めるのはほぼ困難であると思われる。医療経済実態調査においては、通常の調査に令和3年度の単月調査も加え検証すべきではないか。

また、前回改定の柱となった医療従事者の働き方改革も引き続き大きな論点になる。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で検証は難しいと思われるが、改定で投入した財源がどのように活用され、病院勤務医の負担軽減や処遇改善に関する計画がどう進捗し、どのようなアウトカムがあらわれているかについて、検証しなければならない。加えて入院、外来ともに医療機能の分化・強化・連携を進めていく必要があるが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による遅れを取り戻す必要がある。

さらに、前回、導入できなかったフォーミュラリを含めた医薬品の適正処方も重要な項目であり、生活習慣病領域における経済性を含めた処方のあり方、あるいは医薬品の保険給付範囲の見直しについて、中医協をはじめとする関係審議会で、議論すべきである。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大で、患者の受療行動も変化した。この事実は今後の医療機関との関わり方を検討していくうえで重要なエビデンスとなるであろう。健保連もしっかりと分析を行いたいと思っている。

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