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健保ニュース 2020年11月下旬号

厚労省が後期2割負担導入に複数の基準
佐野副会長 一般区分すべてを対象に
財政影響試算 支援金軽減は最大でも1430億円

厚生労働省は19日の社会保障審議会医療保険部会で、後期高齢者の自己負担見直しについて、現行の1割から2割に引き上げる対象の所得基準を「機械的な選択肢」として5つのパターンを提示した。本人の負担能力のみに着目した分類となっており、後期高齢者の約52%を占める現在の一般の該当者のうち、機械的な選択肢では2割となる対象者は最大で37%にとどまる。健保連の佐野雅宏副会長は、現役世代の過重な負担を緩和する観点から、一般の該当者すべてに2割を適用すべきと強調し、機械的な選択肢に一般区分のすべてを加えるよう強く要望した。所得基準については、世帯単位で考える必要性を指摘した。また、厚労省は各パターンの財政影響試算も示した。それによると、後期高齢者支援金の軽減額は最大でも1430億円で、支援金の総額約6.8兆円規模に対して2%程度の効果となっている。

厚労省は、5つの所得基準について、具体案ではなく、あくまでも機械的な選択肢であって、議論する際の材料として示したものと位置づけている。

後期高齢者の自己負担は、現在、高額療養費制度における所得区分で現役並み所得(後期高齢者の約7%)に該当する75歳以上が3割、一般(同約52%)と低所得(同約41%)は1割。

このうち自己負担の引き上げは、一般に該当する一定所得以上の後期高齢者を2割とする方針で、対象者の範囲を決める基準の線引きが最大の論点だ。健保連など被用者保険者や経済界の代表委員は、一般の該当者すべてに適用するよう求めている。

「機械的な選択肢」は、①介護保険の2割負担対象者の割合と同等②現行2割負担である70~74歳の平均収入額を上回る水準③平均的な収入で算定した年金額を上回る水準④本人に課税対象所得がある水準⑤本人に住民税の負担能力が認められる水準─で、①が対象者を最も絞る基準であり、以下、順次、拡大する。

①の所得基準は、本人の課税所得64万円以上、収入で240万円以上。この基準に当てはまるのは、介護保険制度と同じ割合の被保険者全体の所得上位20%の範囲で、このうち現役並み所得を除いて一般の該当者の13%までの約200万人が2割に引き上がる。

以降、対象者が段階的に増え、②の基準が本人課税所得45万円以上、収入220万円以上、対象者は上位25%、ここから現役並みを除いて一般のなかの18%相当の約285万人。

③は、本人課税所得28万円以上、収入200万円以上で対象者は上位30%から現役並みを除く一般の23%相当の約370万人。

④は、本人に課税所得があって収入170万円以上、上位38%から現役並みを除いて、一般該当者の半数を超える31%相当の約520万人が対象。

⑤は、本人所得35万円超、収入155万円以上で、被保険者全体では上位44%、ここから現役並みを除く37%相当の約605万人が対象となる。

2割への引き上げによる財政影響については、後期高齢者支援金の負担軽減額が①で年間▲470億円、②が▲670億円、③が▲880億円、④が▲1220億円、⑤が▲1430億円と試算した。

機械的な選択肢では、2割引き上げの対象者が最も多い⑤のケースでも、一般のうちの37%で一般全体の52%には届かない。

これは、本人が低所得の住民税非課税であっても、同居する子など家族が課税であると一般となるが、機械的な選択肢の対象基準は、同居家族と連動する形で一般に区分される本人はこれまでと同様の1割に据え置いたうえで、⑤の住民税の負担能力のある者を最低ラインに、①~④の課税所得のある者を含めて個人単位で2割を適用しているため。

厚労省保険局の本後健高齢者医療課長は、政府の全世代型社会保障検討会議の中間報告では2割に引き上げる対象者を「一定所得以上」としていることから、「一般区分の全員を対象とするのは難しい」との認識を示した。

健保連の佐野副会長は、この説明に納得せず、⑤の基準でも不十分であり、一般区分すべてを2割とする必要性を指摘したうえで、機械的な選択肢に一般区分すべてを加えるよう要請した。

2割の対象は「世帯単位の所得基準で考えるべき」と指摘し、その理由に「個人として所得がなくても世帯内に別の世帯主がいる場合、世帯主の所得水準によって負担能力には差がある」として、例えば、同居している子が世帯主で相当の所得がある場合は、世帯としての負担能力が高まる点を踏まえる必要性に言及した。こうした観点から、「2割負担をベースとして世帯収入が低い場合を例外扱いとすることを検討すべき」と提起した。

今回の見直しは、「現役世代の負担上昇を抑えることにどれだけ寄与するのかが大きなポイントとなる」と強調し、厚労省が試算した後期高齢者支援金の軽減効果額に対して、「今後見込まれる後期高齢者の医療費の増加とそれに伴う現役世代の負担増の提示がないと、いわば分子の数字だけで分母がないようなものだ。今後見込まれる負担増の金額を示してほしい」と述べた。

安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は、「高齢者の給付費を賄うための拠出金が保険者の財政を圧迫している」と窮状を訴え、団塊の世代が後期高齢者に入り始める2022年から高齢者医療給付が急増することを射程に入れ、「自己負担の見直しについては、今回が待ったなしの最後のチャンスと思っている。70~74歳の2割を引き継いで、原則2割とすべきだ」と主張した。

藤原弘之委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会長)は、「社会保障制度の持続性を確保するためには、高齢者に偏りがちな給付を見直して、現役世代の負担増を抑制し、子育て分野の充実を図る。世代間の給付と負担のアンバランスを是正して、全世代型の社会保障を構築する。この原点に立ち返って議論すべき」と指摘し、こうした観点から、原則2割として一般すべてを対象とする必要性を強調した。

藤井隆太委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は、「今、痛みを伴う改革に手を付けないと将来にわたって保険制度を維持できない。現役世代の保険料のさらなる上昇は、個人消費の低迷や企業の投資意欲の減退、経済の停滞につながる。現役世代が将来不安を抱えることで少子化が加速する」と懸念し、高齢者に応分の負担を求めた。

厚労省
2割導入に「配慮措置」
月最大4500円増に抑制

また、厚労省は、2割への引き上げに伴う自己負担の増加額を抑える配慮措置の考え方を示した。

一般区分の外来の自己負担限度額が月1万8000円であることを踏まえ、月9000円の外来の自己負担が2割となると最も増加することから、9000円増の半分に相当する4500円の増加額に抑えることを提案した。

これは急激な負担増を抑制するための、2年間の経過措置として実施する方針。団塊の世代全員が後期高齢者となる2025年までには本則の負担を適用する考えだ。

厚労省の試算では、一定所得以上の後期高齢者の自己負担が、現行の1割から2割に引き上がると、1人当たり平均で年額11.5万円(外来7.6万円、入院3.9万円)となり、現行の8.1万円(同4.6万円、同3.5万円)に比べて3.4万円増加する。3.4万円増のうち、ほとんどは外来の影響となっている。

これに配慮措置を講じると、外来が7.6万円から7.2万円に0.4万円軽減され、自己負担が11.1万円に抑えられる。

藤原委員は、「配慮措置は一定程度理解するが、2年間の期限を順守してほしい」と延長とならいようクギを刺したうえで、2割負担導入から新たに75歳となる後期高齢者は70~74歳時の2割が継続されるので、「配慮措置の対象にすべきではないと考えている」と指摘した。



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