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健保ニュース 2020年11月中旬号

新型コロナの健保組合財政影響調査
3年度の実質保険料率が10%超
制度改革は不可避な状況

健保連は5日、記者会見し、新型コロナウイルス感染症の拡大による健保組合の財政影響に関する調査結果を発表した。それによると、給与がリーマン・ショック時の下落率を上回った最悪のケースでは、健保組合全体の令和2年度の経常収支は、当初予算の2316億円の赤字から3675億円の赤字へと赤字幅が約60%増加することが判明した。実質保険料率は9.84%と当初予算の9.71%から0.13ポイント増となり、10%を超える健保組合は580にのぼる。さらに3年度の健保組合財政は、経常収支差引額▲6700億円と2年度より赤字額が4300億円拡大し、健保組合平均の実質保険料率は10.2%と10%を超える見通しとなった。

新型コロナウイルス感染症は、日本国内だけでなく世界的にも感染終息の兆しが見えないなか、さらに経済が低迷すると従業員の給与や賞与の引き下げが予測され、今回健保連が推計した数値よりも悪化する事態が懸念される。今後、政府は年末の全世代型社会保障検討会議の最終報告取りまとめに向けた議論を本格化するが、現役世代の負担軽減につながる改革の実現が不可避な状況となった。

今回の調査は、新型コロナウイルス感染拡大による健保組合の財政影響について、新型コロナ影響後の標準報酬総額の見込み額と法定給付費を推計するとともに、収入・支出の両面から、令和2年度及び今後の健保組合の見通しに関する試算結果をとりまとめた。

新型コロナ影響後の標準報酬総額の推計にあたっては、平成20年に発生したリーマン・ショックを超えない規模での標準報酬月額・標準賞与額の減少を見込んだ「リスクシナリオⅠ」と、リーマン・ショックを超える減少を見込んだ「リスクシナリオⅡ」の2つのケースをもとに、令和2年度の健保組合財政を推計した。

それによると、「リスクシナリオⅠ」の場合、2年度当初予算と比較すると保険料収入は▲3.4%の7兆9376億円。法定給付費は受診控えの影響が緩やかに回復すると見込み▲6.5%の3兆9914億円。拠出金は新型コロナの影響を受けないため当初予算時の金額(3兆5300億円)とした。その結果、経常収支は▲2404億円と当初予算に比べ88億円悪化し、実質保険料率は9.67%となった。

しかし「リスクシナリオⅡ」では、当初予算と比較すると保険料収入は▲5.0%の7兆8105億円。法定給付費と拠出金は「リスクシナリオⅠ」と同額とした結果、経常収支は▲3675億円と当初予算に比べ1359億円、伸び率にして58.7%と赤字額が拡大する結果となった。実質保険料率は9.84%と当初予算に比べ0.13ポイント上がり、保険料率10%を超える組合は580にものぼる。

「リスクシナリオⅠ」をもとにした平均標準報酬月額・平均標準賞与額の減少率をみると、平均標準報酬月額が▲1.6%、平均標準賞与額が▲15.0%。業態別にみると宿泊業・飲食サービス業の平均標準報酬月額▲5.4%、平均標準賞与額が▲50.5%、生活関連サービス業・娯楽業の同▲5.1%、同▲54.7%と落ち込みが大きく、印刷・同関連業(同▲1.3%、同▲27.7%)、運輸業((同▲2.3%、同▲20.9%)、繊維製品製造業(同▲3.2%、同▲19.5%)などが全業態平均を上回っている。

令和3年度経常収支
▲6700億円に拡大

今回の調査では、今後2年間の財政見通しも試算した。3年度は2年度に比べさらに平均標準報酬月額(▲1.2%)、平均標準賞与額(▲6.8%)とも減少するとの前提により試算した結果、経常収入が7兆7800億円と前年度より2800億円減少すると見込んだ。経常支出は、保険給付費が増加に転じるなどの影響で、前年度より1500億円増加の8兆4500億円になり、経常収支差引額は▲6700億円と前年度より赤字額が4300億円拡大する結果となった。実質保険料率は10.2%と10%を超えた。

4年度は平均標準報酬月額、平均標準賞与額とも回復せず低下したまま推移するとの前提で試算した結果、経常収入が7兆7300億円と前年度より500億円減少し、経常支出は、前年度より2200億円増加の8兆6700億円になると見込み、経常収支差引額は▲9400億円と前年度より赤字額が2700億円増え、実質保険料率は10.5%となる。

健保連では昨年9月に、「今、必要な医療保険の重点施策─2022年危機に向けた健保連の提案─」で2022年度(令和4年度)以降の財政見通しを推計していた。

推計では団塊の世代が後期高齢者になり始める令和4年は、後期高齢者医療費の増大に合わせて現役世代の拠出金負担が急増すると見込まれ、4年度の健康保険料率を9.8%と予測していた。これに、介護保険料率2.0%と厚生年金保険料率18.3%を足した料率は、30%を超え保険料負担が過重となり、団塊の世代が75歳になり始めるタイミングと合わせて健保組合の解散が増えると懸念されるため、「2022年危機」として制度改革の実現を訴えてきた。またこのなかで健康保険料率が10%を超えるのは、7年度と予測していた。

今回の試算で3年度の実質保険料が10%を超える結果となったため、その危機が1年以上早まる可能性が出てきた。感染終息の兆しが見えていないなか、新型コロナウイルス感染症が再流行すれば、景気の悪化は避けられず、今回健保連が推計した数値よりも、さらに給与や賞与が引き下がる事態も予測される。今後、政府は年末の全世代型社会保障検討会議の最終報告取りまとめに向け、審議会などで後期高齢者医療の窓口負担の見直しなどの議論を本格化するが、現役世代の負担軽減につながる改革の実現が不可避な状況となった。

新型コロナウイルス感染拡大による健保組合の財政影響に関する調査報告(PDF)

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