HOME > けんぽれんの刊行物 > 健保ニュース > 健保ニュース 2020年9月下旬号

健保ニュース

健保ニュース 2020年9月下旬号

産科医療補償見直し検討会が初会合
対象基準や財源のあり方が論点
年内に検討結果を厚労省へ報告

日本医療機能評価機構の「産科医療補償制度の見直しに関する検討会」(柴田雅人座長)は11日、初会合を開催し、補償対象基準や財源のあり方の議論に着手した。検討会は、▽制度の運用方法▽補償対象者数の推計▽保険料の水準▽掛金▽補償対象基準▽財源のあり方▽補償水準─などをテーマに月1回程度開催し、年内を目途に検討結果を取りまとめ、厚生労働省に報告する。健保連の幸野庄司理事は、出産育児一時金として産科医療補償制度の保険料を拠出している保険者は今後、さらに厳しい財政状況となることが想定されるなか、「財源の担保なく補償対象基準の拡大は行えない」と訴えたうえで、▽補償対象者推計▽剰余金の返還方法▽事務経費の見える化─の検証を優先して行うべきと問題提起した。

産科医療補償制度は、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児とその家族の経済的負担を速やかに補償するとともに、脳性麻痺発症の原因分析を行い同じような事例の再発防止に資する情報を提供することで、紛争の防止・早期解決や産科医療の質向上を図ることを目的に平成21年1月に創設された。

制度創設時の「補償対象」は、▽出生体重2000g以上かつ在胎週数33週以上、または在胎週数28週以上で低酸素状況を示す所定の要件を満たして出生▽先天性や新生児期の要因によらない脳性麻痺▽身体障害者手帳1・2級相当の脳性麻痺─であることを基準とし、「掛金」は1分娩あたり「3万円」、「補償水準」は「3000万円」とした。

6年後の27年1月に制度改定を行い、出生体重の基準を「1400g以上」、在胎週数の基準を「32週以上」、掛金額を「1万6000円(保険料は2万4000円だが、剰余金から8000円充当)」へ見直した。

30年7月には、産科医療補償制度運営委員会委員長から厚生労働省医政局長に対し、「補償対象基準の見直しに関する要望書」が提出され、「個別審査では約50%が補償対象外となっている」、「同じような病態であっても補償対象、補償対象外となっており不公平感が生じている」などの課題について早急に改善を図る必要があるとされた。

見直しから5年以上が経過し、今後も産科医療補償制度を効果的かつ安定的に運営するためには、必要に応じて見直しを図ることが重要との観点から、制度の実績を検証するとともに、見直しに関する検討を行う場として医療関係団体、患者団体、保険者等の関係者の参集を得て、日本医療機能評価機構の下に検討会を設置した。

初会合では、事務局から検討会立ち上げの経緯や産科医療補償制度の運営状況・実績について説明があり、そのうえで、制度のあり方などに対するフリーディスカッションが行われた。

産科医療補償制度の運営実績については、▽審査件数に対する補償対象者数の割合は71・6%▽脳性麻痺の訴訟件数のみならず、発症件数も減少▽胎児心拍数聴取、子宮収縮薬使用事例における用法・用量等で改善─などの結果が示された。

さらに、制度の収支状況をみると、▽補償対象者数は21年419人、22年382人、23年355人、24年362人、25年351人、26年326人▽返還保険料(剰余金)は同143億円、同176億円、同176億円、同169億円、同180億円、同186億円─で推移。掛金充当額は今年5月末までに約400億円を保険料に充当している。

制度発足当初の補償対象者数推計値500~800人程度に対し、確定した補償対象者数が360人程度と大きく下回ったため、返還保険料(剰余金)は約650億円程度まで積み上がった。

一方、事務経費は、制度見直し後の直近5年間は25億円程度で推移している。
 検討会は、月1回程度開催し、▽制度の運用方法▽補償対象者数の推計▽保険料の水準▽掛金▽補償対象基準▽財源のあり方▽補償水準─などについて議論するほか、必要に応じて検討会の構成員や構成員以外の専門家からのヒアリングを実施する。

12月を目途に検討結果を取りまとめ、厚労省に報告。厚労省は、検討結果を踏まえ、必要な対応を進めていくこととした。

健保連の幸野庄司理事は、産科医療補償制度における拠出者の立場から、議論の順序としてまずは制度の運用のあり方の妥当性を検証・総括し、内容を見直したうえで補償対象基準の検討に着手することを要望した。

仮に、補償対象が拡大することになれば、「その財源をどう確保するのかが拠出者として何よりの課題である」と問題提起。出産育児一時金として産科医療補償制度の保険料を拠出している保険者は、今後、さらに厳しい財政状況となることが想定されるなかで、「財源の担保なく補償対象基準の拡大は行えない」と訴えた。

さらに、検証に際しては、①補償対象者推計②剰余金の返還方法③事務経費の見える化─の3項目を優先順位の高い内容に位置づけ、①は確定補償対象者数が補償対象者数推計値を大きく下回り、約650億円の保険料剰余金が積み上がっている現状の妥当性に関し、「実績データからの推計人数を示したうえで、制度運営に見合った適正な保険料について検討会の結論を得る必要がある」と強調した。

②は剰余金の長期的な推移を含めた精緻なシミュレーションを示したうえで、保険料への充当方法を見直し、剰余金の適正な水準を維持すべきと指摘。また、③は複数の保険会社の業務内容における重複の可否が不明確であり、業務の棲み分けを見える化したうえで見直すべき点を改善すべきとの考えを示した。

中島誠構成員(全国健康保険協会理事)は、費用を負担する立場から、今後の保険料水準のあり方や制度運営にあたっての事務コスト効率化の検討に資するデータを示すよう要望した。

けんぽれんの刊行物
KENPOREN Publication

2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年