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健保ニュース 2020年6月中旬号

河本常務理事インタビュー
医療保険制度改革 主張実現へ的確に対応
新型コロナ財政支援も重視

健保連の河本滋史常務理事は本誌のインタビューで、健保組合を取り巻く最近の情勢を語った。医療保険制度改革への対応については、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、全世代型社会保障検討会議の最終報告の取りまとめ時期が当初の6月から年末に延期されたことで、今秋以降に政党や関係審議会での改革論議が本格化すると予測し、今後の動向に注視しながら、重点的に主張実現活動を展開していく考えを強調した。また、新型コロナウイルス感染拡大に伴う健保組合の保険料収入の減少など財政悪化を強く懸念し、こうした観点から、今後、健保組合の財政影響調査を行い、補正予算や令和3年度本予算の編成に向けた財政支援など要請活動を展開する考えを示した。

政府・国会等の動き

・医療保険制度改革について

政府の全世代型社会保障検討会議が昨年末にまとめた中間報告では、一定所得以上の後期高齢者の2割自己負担化や大病院における外来受診時定額負担の拡大の方向性が示された。

これを受けて、厚生労働省の社会保障審議会・医療保険部会で今年1月から改革論議を始め、個別項目に関して論点を詰めるなどの一巡目の議論を行ったところで、新型コロナウイルス感染拡大に対する緊急事態宣言が政府から発出されて、4月から審議が中断している。

全世代型社会保障検討会議や経済財政諮問会議での医療保険制度改革に関する議論や社保審・医療部会での審議も中断となっている。

われわれとしては、3月までは関係審議会での主張展開に加えて、今年の「骨太方針2020」に向けての与党内の調整や議論の本格化に備えた対応も進めてきた。自民党との政策懇談会、公明党との政策懇談会をはじめ、与党有力議員にも要請をしてきたが、緊急事態宣言の発出後は要請活動を凍結した。

こうしたなかで、全体としてのスケジュールが大きく動いている。当初6月に予定されていた全世代型社会保障検討会議の最終報告の取りまとめ時期は、12月に延期されることとなった。これに合わせて、医療保険制度改革関連法案の審議も今秋の臨時国会が当初予定されていたが、来年の通常国会となる方向だ。

また、骨太方針2020の策定も当初の6月から7月に延期されるうえで、後期高齢者の自己負担2割など医療保険制度改革の項目は継続検討中の取り扱いとなる見通しである。

・補正予算について

令和2年度第1次補正予算が4月30日に成立した。医療関連では、病床の確保や医療機器の導入支援など医療提供体制の整備のための都道府県向けの交付金である、「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」が創設された。これも含めて医療関係では約6700億円の予算がついた。

続いて5月27日に閣議決定された第2次補正予算案では、一次補正で1500億円規模だった新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金に2兆2370億円が計上された。このうち医療分が1兆6279億円であり、重点医療機関の病床確保や医療従事者への慰労金の支給、PCR検査の体制強化、ワクチン・治療薬の開発、医療用資源の確保・配布などが予定されている。

また、福祉医療機構の無利子・無担保融資の拡充や同機構の融資を受けるまでの臨時的な対応として6月に審査支払機関からの一部概算前払いも行われる。診療報酬での対応は重症、中等症状の新型コロナウイルス感染症患者への評価を3倍に引き上げる。

なお、2次補正に先立ち、診療側は政府に広範な財政支援を要請した。新型コロナウイルス感染症に直接対応する医療機関への支援だけでなく、受け入れをしていない医療機関への受診控えの支援も要請し、与党の一部も理解を示した。

また、2次補正をめぐる議論のなかで最終的には実現しなかったが、減収補てん的な色彩の強い初・再診料など基本診療料の引き上げの議論が出ており、病院団体等も引き続き要望している。

受診控えは様々な要因があると想定されるが、患者のセルフメディケーションや不急の受診を控えるという側面もあり、そういったなかで安易に患者や保険者に負担を転嫁することは看過できない。今後も受診控えが継続する場合、再度、診療報酬での補てんの議論が惹起されるリスクがあり、動向を注視しながらしっかりと反論の準備を行っていく必要がある。

新型コロナの影響

・健保組合財政悪化を懸念

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う大幅な経済の悪化によって、健保組合の財政は、リーマンショックを上回る大幅な悪化が懸念されている。リーマンショック時は保険料収入が約4000億円減少した。一方で、保険給付費の今後の動向は、現時点では読みにくい状況となっている。

こうしたなか、健保連は5月12日、令和3年度政府予算概算要求に向けた要望書を厚生労働省保険局長あてに提出した。新型コロナウイルスの発生・拡大に伴う経済活動の急速な悪化によって健保組合財政にかつてない甚大な悪影響が生じることが見込まれるため、介護保険料も含めて今年度から必要な予算を確保し、支援措置を早急に実施するよう要望した。

健保組合全体の財政影響については、収入面では夏の賞与等の保険料への影響が見えてくるのが7月以降、支出面では少なくとも6月までの医療費動向が見えるのが8月以降となるが、状況を速やかに把握しつつ、そのエビデンスを踏まえて健保組合への財政支援の要請を行っていきたい。

保険料収入の減少は、企業の業績悪化、給与・賞与減という形となって、これが保険料に反映されるという経過をたどることから、影響が現れるのにタイムラグが発生する。リーマンショックのときも年収がボトムになるまでに1年以上、回復に転じるまでには2年以上かかっている。

一方、医療費は4~5月で大きく減少した後に徐々に回復することが想定される。今年度だけでなく、来年度、再来年度も視野に入れた試算をベースに要請を行っていく。

現時点で見える健保組合の保険料収入への影響は、事業主の保険料納付猶予の実績が3月納付で合計0.8億円、4月納付で7.9億円、5月納付では4月の数倍となる見込みで、6月以降も猶予額が大幅に拡大していくのではないかと懸念している。

一方、健保組合全体の医療費の動向だが、今年3月の医科医療費は前年同月に比べてマイナス7.94%となっている。人材派遣や日生協の大規模健保組合の解散に伴う加入者数減少の医療費への影響が約2%あるので、実質的には6%程度のマイナスと想定される。4月診療の医療費は未だ全体の統計が明らかになっていないが、3月の倍程度の落ち込みになるのではないか。

健保組合の業務関係

健保連は3月18日に新型コロナウイルス感染症による健保組合の事業運営等に予想される影響を踏まえ、緊急要望書を厚労省保険局長あてに提出した。

緊急要望書の柱は、▽健保組合の業務停止時への対応▽特定健診・保健指導をはじめとする保健事業への対応▽オンライン資格確認等の導入への柔軟な対応▽健保組合の財政悪化への対応▽予防対策および適切な受診行動の情報発信─の5項目である。

業務停止時の対応では、非常時における事業継続のためのガイドラインの提示や組合会などの書面審議・議決などの容認を要望した。

これについて、4月の段階で厚労省保険局保険課から「健保組合における事業継続について」と題する事務連絡が発出された。

ポイントは、▽健保組合は外出自粛要請がされた場合も急を要する業務は遂行する▽非常時においても適用、給付、徴収、経理事務を行える体制を確保する▽組合会の書面審議を特例的に認める─など。実地指導監査についても当面見合わせることを保険課から地方厚生局に連絡された。

緊急事態宣言解除後の対応については、外出自粛要請がされた場合の特例的な対応は都道府県知事の外出自粛要請にとどまらず、事業主の出張の原則禁止等の場合も含まれる。実地指導監査は、状況をみて再開の可否を検討するが、再開する場合でも十分に準備期間をとれるような措置を講じる予定となっている。

特定健診・保健指導を中心とした保健事業への対応については、緊急事態宣言中の4月には特定健診・保健指導に加えて、対面形式や集合形式の保健指導を行わないこととする通知が保険課から出されたが、宣言解除を受けた5月26日付の通知で、地域における感染状況等を鑑みるとともに、関係者と適宜相談のうえで実施することとなった。

なお、再度、緊急事態宣言が発出された場合は、対象地域における密を生じる集団で実施するセミナー、イベントは原則実施を延期し、密を生じない個別で実施する健診・保健指導などは実施して差し支えないとされている。

特定健診・保健指導のインセンティブ制度の弾力的な運用については、様々な場で要望している。「感染症による実施率等への影響を踏まえて、関係者と調整しつつ検討する」との回答を得ており、今後も健保組合に不利益が生じないよう引き続き強く要請していく。

ICT関連

オンライン資格確認など現在、準備が進行中のICT関連の施策については、現状の各関係者の準備状況を詳細に確認のうえで、ICT委員会の意見を頂きながら、厚労省に対して新型コロナウイルス対応での影響も踏まえて、必要な要望を行っていく予定だ。

オンライン資格確認は10月の初期登録に向けて、組合の基幹システムベンダーがシステム開発中だ。また、医療側に提供される認証端末等の調達準備の段階である。端末の調達や医療機関窓口の習熟も含めて、スケジュールありきで現場の混乱をきたすことのない様な対応を求めていきたい。

電子申請環境の構築については、現在、内閣官房でシステムを開発している。実施に当たっての事務処理手続等について、関係者間の調整を行っている。また、事業主側の準備状況も明らかでないため、厚労省に対して実態把握とそれを踏まえた対応を要請している。なお、中間サーバーのリプレイスについては、各健保組合とも準備を終えており予定通り6月15日に実施する。

今後の進め方

・医療保険制度改革関連

前述の通り、全体のスケジュールが大きく後ろ倒しになっている。全世代型社会保障検討会議の最終報告が12月、国会審議も今秋の臨時国会から来年の通常国会の形となる。この間、継続的に要求実現活動をしていくこととなるが、12月に最終報告となると、その前の10~12月に与党の戦略本部等が開催され、実質的な議論が進んでいくことになる。医療保険部会の議論は秋以降に本格化すると見込まれており、そうしたスケジュールを睨みながら、タイミングを逃さずに重点的に対応していきたい。

・新型コロナ財政支援関連

リーマンショックを超える財政悪化が懸念されるなかで、健保組合への財政支援を訴えていくためには財政状況のエビデンスが必要である。影響が数字に現れてくるには一定のタイムラグが生じることはやむを得ないが、できるだけ迅速にエビデンスを収集して要請につなげていきたい。

先ずは、6月中を目途に新型コロナウイルスの影響による財政影響調査を実施する。新型コロナウイルスの財政影響が特に大きいと想定される150組合ほどにご協力をいただいてアンケート調査を行い、収入面を中心に賞与減、保険料減などの実態を把握したい。9~10月になるともう少し全体の数字が見えてくるので、新型コロナウイルス影響全体推計をさらに精緻化することを考えている。こうしたエビデンスを2次補正の予備費の活用や、3次補正、さらに3年度本予算の編成に向けた財政支援などの要請活動に活用したいと考えている。

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