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健保ニュース 2019年11月中旬号

薬価制度改革を幸野理事にインタビュー
高額薬剤を再評価で適正化
国民・患者の納得する仕組みが必要

健保連の幸野庄司理事に薬価制度改革における課題を聞いた。再生医療等製品をはじめとする高額な革新的製剤の相次ぐ登場を踏まえ、保険収載後に価格を再評価する必要性を指摘するとともに、制度設計の際に国民・患者の視点を重視した、透明性の高い仕組みの構築を課題にあげた。

──幸野理事が中医協委員に就任した平成27年は、C型肝炎根治薬の登場やがん免疫療法剤の肺がん適応取得があり、薬剤費の高騰が社会的に認知される起点となった。その後、様々な薬価抑制策が講じられた。
 がんや難病などの領域で免疫療法、遺伝子治療、再生医療等製品が相次ぎ保険適用され、検査の分野でも遺伝子パネル診断が可能になり、今後、ゲノム医療などが本格化していく。

とくに再生医療は、患者から採取した細胞を改変・培養して体内に戻す〝オーダーメイド〟で、新しい概念と言える。化学合成で大量生産できる低分子医薬品を前提とした薬価算定の仕組みを当てはめることには限界があり、時代に合った新たな算定方法を早急に検討する必要がある。平成30年度改定ではロボット支援下内視鏡技術について、既存技術と同等の有効性・安全性があるものを同等の報酬にした。これも再生医療等製品を評価する方法のひとつだろう。そして、保険収載後にエビデンスが蓄積された段階で再評価する制度も導入の余地がある。

再生医療等製品に限らず高額な医薬品や医療技術は、保険収載後の実態を踏まえて価格を見直すことが重要になる。当初の見込み以上に売れた場合に値下げする「市場拡大再算定」、用法用量の変更によって売上げが伸びた場合に値下げする「用法用量変化再算定」については、最近2回の制度改革で厳格化し、さらに、定期改定を待たず3か月ごとに柔軟に薬価を見直す「四半期再算定」を昨年度から導入した。これにより、ある程度は迅速かつ機動的な対応が期待できる。

イギリスやフランスのように費用対効果も重視したい。

──日本でも費用対効果評価制度が本格導入された。
 3年間の試行的導入で生みの苦しみを味わいつつ、やっと本格導入に漕ぎつけた。諸外国を参考としつつも、日本独自の考え方を志向した結果、対象品目の選定、社会的な配慮、評価の基準値などあらゆる面で不確実性を持って始まった。これから多くの課題が生じることは間違いない。修正を重ねながら確実な制度を構築するとともに、専門家による評価の体制も充実しなければならない。

この制度は、医療保険財政が危機的状況に陥るなか、既存制度を補完する仕組みという位置づけで、高額な医薬品や医療機器が与える財政影響を緩和する観点では「政策」だが、製品が持つ真の価値を評価する「サイエンス」の側面もある。

現在は保険収載後の価格調整にとどまるが、将来的には保険収載の可否判断や新規収載価格の決定に用いることも考えるべき。とくに遺伝子治療や再生医療など、従来の方法で価格算定が難しい製品の価格決定に用いることが考えられる。

保険収載後の価格調整についても、評価体制の充実に合わせて対象範囲を拡大しても良いのではないか。新規収載時の薬価を原価計算方式(製品総原価に営業利益や流通経費を積み上げて薬価を算定する方式)で算定した医薬品は、すべて適用するべきだと思う。

費用対効果評価に患者の視点を反映させることも重要なポイントだと考えている。患者にしか分からない製品の価値は存在するはずで、こうした要素を取り入れるために、患者の参画をガイドラインに明記したり、ワークショップを開催することも必要だろう。価格調整の基準値を設定する際に参考とする患者の「支払い意思額」については、国民調査を見送り、過去の研究結果にもとづいて決められたが、将来的な調査の実施を中医協で改めて検討すべきだ。

──価格に対する国民の納得が重要だと。
 平成30年度薬価制度抜本改革では、厚生労働省が一旦出した案を製薬業界の猛烈な反発により修正し、これを覆すことが事実上できないタイミングで中医協に再提案した。制度を改善する以前に、公の議論を経ない政策決定プロセスの問題点を指摘しておく。

そのうえで制度の中身だが、新薬の当初薬価算定については、原価計算方式の透明性を高める必要がある。原価の開示度に応じて補正加算率に差をつける仕組みを抜本改革で導入したが、それ以降に補正加算が認められた新薬の約6割が開示度50%未満という状況だ。これらは製品総原価の半分以上がブラックボックスのまま、薬価を算定したことになる。

抜本改革で原価の開示度を考慮するようにしたのと同時に、それまで営業利益にのみ補正加算率を掛けていたのを、当初算定額の全体に補正加算率を掛けるように見直したことが背景にあるのではないか。

例えば、原価200円のうち営業利益が30円の製品に10%の補正加算を認めた場合、従来の加算後価格は203円になる。これが現行は、原価開示度50%未満だと加算率が8割減の2%になるが、加算後価格は202円で従来と遜色がない。

このほか原価計算方式については、営業利益率や一般管理販売費率に製薬企業の平均値を用いるために、他産業の水準に比べて非常に高いことにも疑問がある。安定供給の確保やイノベーションの促進という観点から一定の利益や経費を確保する必要はあるが、全産業の平均値などを参考にして妥当性を検証すべきだ。

新薬の薬価算定では、既存薬の薬価に合わせて価格を決める「類似薬効比較方式」にも課題がある。先に開発された既存薬の企業努力を評価した「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」がそのまま反映される場合があるため、この部分は除くのが当然だろう。

──薬価改定については。
 まず、長期収載品(特許が切れた新薬)に課題が残る。基本的には、特許が切れたら後発医薬品に道を譲るべきだ。国をあげた取り組みにより後発品の使用割合が80%に近づくなか、長期収載品の存在価値は確実に薄れつつある。抜本改革で長期収載品を後発品と同じ価格まで段階的に強制値下げすることをルール化したが、特許切れから後発品と同額になるまで16年かかり、スピード感がなさ過ぎる。

特許期間中に薬価引き下げを緩和する「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」も引き続き検討しなければならない。抜本改革で、開発実績等の企業指標を設けて加算率に格差を付けるとともに、対象品目も革新性や有用性が高いものに絞り込んだ。ただ、企業要件が相対評価になっていることに疑問を持っている。

この加算は製薬企業が最もこだわるところで、見直し後の変化を見える化し、要件のあり方を考える必要がある。

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