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健保ニュース 2019年9月下旬号

協会けんぽ新収支見通し
現実的推計で5年後に経常赤字
準備金は10年後にピーク時の約半分

全国健康保険協会(安藤伸樹理事長)は10日、協会けんぽの新しい収支見通しを運営委員会に提出した。令和3年度以降に賃金水準が最近の動向どおり年0.6%ずつ上昇した場合、全国平均の保険料率を現行どおり10%に据え置くと、5年後の6年度に単年度赤字に陥ると試算した。2年度から平均保険料率を9.9%に引き下げると赤字化は1年早まり、9.8%だと2年早まる。

運営委員会は同日、2年度の平均保険料率に関する検討を開始した。収支見通しは議論の重要な根拠となる。協会けんぽの直近実績を踏まえ、賃金上昇率を元年度は0.8%増、2年度は0.9%増とし、3年度以降は3段階の値を置いた。

このうち最も現実的な中位推計は、標準報酬月額の上限見直し効果を除いた過去7年間の協会平均から、賃金0.6%増を想定した。平均保険料率10%を維持しても、単年度収支差は悪化し続け、元年度に5300億円の黒字なのが6年度に400億円の赤字に転落する。粗い試算で準備金残高は4、5年度に保険給付費の5か月分でピークを迎え、6年度から取り崩しが進んで10年後の11年度に2.6か月分まで目減りする。仮に2年度から平均保険料率を9.9%にすると、11年度に準備金は保険給付費の2か月分を下回り、さらに平均保険料率を9.8%にした場合、11年度に準備金は法定水準である保険給付費の1か月分を割り込む。

上位推計には、過去10年間で最高だった平成30年度の賃金1.2%増を採用した。平均保険料率が10%だと単年度収支差はしばらく黒字を維持し、準備金残高は令和11年度でも給付費の5か月分を超える。平均保険料率が9.9%だと6年度まで単年度黒字を確保できるが、平均保険料率を9.8%に引き下げると6年度に単年度赤字になる。

下位推計は、賃金がまったく伸びないと仮定したもので、平均保険料率10%でも、5年度に単年度赤字となり、その後、準備金が早いペースで減少し、11年度に法定水準を満たせなくなる。

当面5年間の収支均衡保険料率は、いずれの賃金前提でも2年度の9.5%から徐々に高まり、上位推計だと6年度で9.8%にとどまるものの、中位推計だと6年度に10.0%まで戻り、下位推計だと5年度に10.1%、6年度に10.3%となる。
運営委員は安定性を優先 料率引下げ論はみられず。

2年度の平均保険料率をめぐり運営委員会では、中長期的な視点で2年度も10%に据え置くべきとの意見が相次いだ。

神奈川県商工会連合会の関戸昌邦会長は、「労使負担10%が限界」とし、「後期高齢者支援金がこれからも増えるなかで、医療費適正化策を100%実施してもインパクトは極めて小さく、根本的な解決にならない」と指摘した。

全国赤帽軽自動車運送協同組合連合会の小林則夫会長は、「企業経営者からみると保険料率を下げることは歓迎されるが、一度下げると、上げ幅が大きくなる。慎重な検討が必要」と述べた。

全国社会保険労務士会連合会の小磯優子理事は、均衡保険料率にもとづいて引き下げても翌年度から引き上げが必要になるため、「保険料率が変化すると制度の信頼性にも影響する。中長期的に安定した保険料率にすることが大事」と主張した。

群馬県社会保険委員連合会の西安津子理事は被保険者の立場から、「賃金上昇に不透明な部分がある」として、保険料率10%維持に賛成を表明した。

法政大学の菅原琢磨経済学部教授は、高額技術の保険収載や短時間労働者の被用者保険適用拡大などを念頭に、健全な財政基盤を確立することを重視した。

安藤理事長は平均保険料率について、昨年9月の時点で「基本的には中長期的に考えさせてもらいたい」と表明している。

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