ほっとひと息、こころにビタミン vol.88
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
全力尽くした体験は こころの支えになる
各地で夏の甲子園大会に向けて地方大会が開催されています。選手たちが躍動する姿にこころを打たれます。その一方で、職業柄、正選手に選ばれなかった人たちの気持ちが気にかかります。それに、正選手に選ばれたとしても、将来プロになって生活できる人は一握りです。正選手やプロになれなかった人たちは、その後の人生で挫折感を抱いたまま生きていくのでしょうか。
私が親しくしている公認心理師は、必ずしもそうとは言い切れないと言います。その時その時にどれだけ全力を尽くすかが大事なのだと。その方は数年前に、強豪の高校のサッカーチームの寮長になりました。監督から、夫婦で部員の心身両面のサポートをしてほしいと頼まれたからだそうです。
寮長としての体験から、練習でも試合でも全力を尽くすことが、その後の生活に生きてくるのだと言います。結果は、その時の条件で変わってきます。しかし、全力で取り組めば、その姿がこころの中に残ります。その体験を言葉で表現できればなお良いでしょう。そこに、公認心理師という職業が生きてくるのです。
別の高校スポーツの強豪校は、同じ目的で私が提供しているサイト「こころのスキルアップ・トレーニング」を導入しました。私からのメールマガジンに加えて、教員やコーチからのメッセージが毎週生徒に届きます。
生徒たちは、それを読んで自分の体験を振り返ることができます。全力を尽くす体験とその振り返りの大切さは、スポーツに限ったことではありません。日々確認できた自分の体験は、時間が経った後も変わらず、こころの支えとして残っていきます。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる!うつの人が見ている世界』(池田書店)など。