ほっとひと息、こころにビタミン vol.86
精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。
【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕
悩んでいるときは自然に接する
親しい人が精神的な不調を経験しているのを目にするのはつらいものです。だからといって、軽々しく声をかけることもできません。その人をさらに傷つけることになるのではないかと心配になるからです。
そのようなとき、私は、自然に接するように勧めています。「自然に」というのは、共感しながら、問題があれば一緒に取り組むという意味です。親しい人と会話をしている場面を想像してみてください。何かがうまくいかなかったと打ち明けられたとき、「がっかりしたんだろうな」とその人の気持ちを瞬間的に感じ取って、「大変だったね」と声をかけて、寄り添うでしょう。
それだけで、相手の人は気持ちが少し軽くなるはずです。信頼できる人がそばにいると分かるだけで、心強く感じられるからです。悩んでいる人はずいぶん安心できますし、問題に目を向けて取り組んでいく力が湧いてきます。そうすれば、実際に何が起きたかを聞きながら、一緒に問題に取り組んでいくことができます。
もちろん、いつも気持ちに寄り添えるわけではなく、気持ちを読み違えることがあります。そのことは、相手の人の反応から読み取ることができます。もし相手の人が「でも」とか「しかし」と言ったり、そのようなそぶりをしたりしたときには、自分の声かけが必ずしも当たっていないということが分かります。
そのことに気づいた場合には、もう一度、その人の気持ちに目を向けて、寄り添い直してください。自分の気持ちを理解して一緒に問題に取り組んでくれる人がそばにいると分かるだけでも、こころはずいぶん楽になるものです。
大野 裕(ゆたか)
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる!うつの人が見ている世界』(池田書店)など。