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ほっとひと息、こころにビタミン vol.72

精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。

【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕

ちょっと立ち止まる勇気が、こころの余裕に

「失敗は成功のもと」と言われたり、「ピンチはチャンス」と言われたりしますが、それは失敗をうまく自分のために生かすことができたときのことです。しかし、多くの人にとって、何かミスをしたり間違ったりしたと気付いたとき、それを素直に受け入れるのは難しいものです。ミスをした自分、間違った自分がダメな人間のように思えて、それを見たくないという気持ちが働くからです。

それは、自分を守るための瞬間的な自己防衛本能ともいえます。自分で失敗に気付いたときはもちろんのこと、人から失敗を指摘されたりすると、気持ちが動揺してしまい、その現実を受け入れるこころの余裕がなくなってしまうのです。その結果、人間関係が悪くなったり、自己嫌悪に陥ったりすることがあります。

少し冷静に考えれば、きちんとミスを認めて謝った方が自分にとっても良いと分かるはずですが、瞬間的な反応ですので、かなりこころの余裕がないとそうした考えができるようにはなりません。ですから、何か耳の痛いことを言われたときには、瞬間的に反応しないで、少しだけでも時間的余裕を持つようにすると良いでしょう。時間的な余裕は、こころの余裕につながります。

思うようにことが進んでいないときや、人間関係がうまくいっていないように感じたときに、立ち止まるのは勇気がいります。自分の失敗を目の当たりにすることになるからですが、そのときの自分の立場を考えると、自分の違和感を大切にして、ちょっと立ち止まる勇気を持つようにすると、失敗やミスをその後に生かすことができるようになります。

大野 裕(ゆたか)

ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。

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