企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

日本通運株式会社

総合物流国内最大手の日本通運株式会社では、従業員の健康を守るために1975年から全国の支店に保健指導員を配置してきました。日本通運を母体とする日本通運健康保険組合では、日通グループが持つ全国の保健指導員を有効に活用しながら、社員の健康づくりを推進しています。今回は、「あしたの健保プロジェクト」に積極的にご協力いただいている日本通運株式会社の総務・労働部の高原博専任部長と、日本通運健康保険組合の名賀直行常務理事に、従業員の健康づくりのための取り組み内容や今後の展望についてお話を伺いました。

【日本通運健康保険組合の概要】
加入事業所数: 175事業所(2014年3月末)
加入者数: 114,119名(2014年3月末)

──日通グループにおいて、従業員の健康づくりのために行っている取り組みと、その背景・経緯などについてお聞かせください。

 母体の日本通運が営む運送業は、労働集約産業であり、従業員の健康が、サービスや経営に影響が出やすいことから、以前から従業員の健康管理に高い意識を持ち、従業員の健康づくりのための保健事業を行っています。

 たとえば、日通グループでは、全国の各営業所において従業員の健康管理ができるよう、各地に保健指導員を配置し、従業員の保健指導や健康相談を行っています。当健保組合では、こうした全国の保健指導員をはじめとして、母体企業の力を借りながら、さまざまな保健事業に取り組んでいます。


名賀 直行 常務理事

 具体的には、
1)データヘルス計画の推進
2)特定健康診査・特定保健指導の実施率向上
3)各種検診の受診率向上
4)疾病予防の拡充
5)メンタルヘルス対策の推進
6)各種衛生教育の実施
7)直営保養所の効率的な運用
といったものです。

 また、当健保組合が発行している加入者向けの広報誌(「KENPOだより」)を通じて、健康保険のしくみや当健保組合の厳しい財政状況を、協会けんぽと比較するなど、分かりやすく伝える努力をしています。さらに、加入者一人ひとりが健康を意識し、健康診断を受けてもらうなど、病気や病気の重篤化を未然に防ぎ、医療費を増やさない努力も必要であることを加入者に伝えたいと思っています。

──日通グループの保健指導員は、どういった役割をしているのでしょうか。


総務・労働部 高原 博 専任部長

 日本通運は、小規模の事業所を各地に配置して事業運営しているところから、一括した健康管理は難しいのが実情です。そうした背景から、1975年より保健指導員を全国に配置し始め、1979年にはこれを制度化しました。当健保組合は、この制度を活用して、保健事業を行っています。現在、全国で200名ほどの保健指導員が配置されており、従業員の健康相談を行ったり、健康診断や各種検診などの結果によって、保健指導をしたり、受診勧奨をしています。

 その際、対象者への保健指導は基本的に対面で行うようにしています。対面式で直接顔を見ながら指導することで、本人が自身の健康に対して意識を持ちやすくなると考えています。

 また、職場の健康づくりを行っていくうえでは、メンタルヘルスへの対応も求められます。メンタルヘルスに関しては、職場で一緒に仕事をしている上司の気付きが重要になります。しかし、メンタルヘルスを扱うには、専門的な知識が必要となってくることから、日通グループでは3年かけて、職場の管理職に対して、メンタルヘルスの研修会を行い、教育しました。

 日通グループの健康づくりは、大きく「メンタルヘルス対策」と「生活習慣病対策」の2つに重点を置いて、事業主と健保組合が、それぞれの役割を明確にして分担して取り組んでいます。双方の取り組みは、全国の保健指導員や産業医などを通じて実施しています。

 日頃から事業主と連携した健康づくりを行っていますが、今後はデータヘルス計画によるコラボヘルスなど、ますます事業主との連携が重要になってきます。個人情報保護など、課題は多々ありますが、これまで以上に、コミュニケーションを図って進めていきたいと考えています。

──日本通運健保組合は政府が「日本再興戦略」の1つに掲げる『データヘルス計画』のモデル組合に選定されていますが、今後どのような取組みを展開していく予定ですか。

 当健保組合では、これまでも分析を行っていますが、今回システムを改修し、より詳細な分析ができるように準備しています。そして、事業所ごと、統括支店ごとに分析するなど、職種や地域の特性を把握して、より効果的・効率的な保健事業を推進しようと思っています。たとえば、「A支店はメタボ率が高いから栄養教室を開催してはどうか」といったフィードバックをして、保健指導員や事業主と連携して、従業員をはじめ、加入者の健康を守り、ひいては医療費の抑制につなげていきたいと考えています。

──日本通運健康保険組合では、「あしたの健保プロジェクト」に賛同し、従業員の皆さんに健保VOTEへの投票を呼び掛けていただいております。改めて、国や制度に期待すること、また、「あしたの健保プロジェクト」へのメッセージをお願いします。


 どこの健康保険組合も財政的に厳しい局面を迎えていると思います。当健保組合では、健康保険料率を10.1%に設定しています。協会けんぽの平均保険料率が10.0%ですので、それ以上ということになります。保険料率を引き上げてもなお赤字であり、2013年度の決算では、13億600万円の赤字となりました。この最大の要因は、保険料支出の49.7%を占める高齢者医療への納付金・拠出金として国に納めているからです。

 健保組合では、保健事業を推進して医療費の適正化に努めており、今後もデータヘルス計画に注力するなど、さらに強化していきます。しかし、医療保険制度については、健保組合ではどうにもできない課題がたくさんあります。高齢者医療への拠出金がその代表例と言えます。現在の高齢者医療制度のように取れるところから取って、その財源を他の保険者に回すといったやり方では、いつか制度が持たなくなることは目に見えています。

 そのため、高齢者医療の負担構造改革といった制度の部分を、健保連が健保組合の代表として、国に向けて要求していくことや、社会全体に医療保険制度の理解促進を図ることは当健保組合も強く賛同します。そうした活動に対して健保組合ができることは、加入者にむけて理解促進を図ることだと思いますし、あしたの健保プロジェクトでいえば、たくさんの声を集めて、大きな声にしていくために、事業所や加入者に周知することだと思いますので、できることは積極的にやっていきたいと思っています。

 今回の健保VOTEへの投票の呼び掛けは、母体企業の総務・労働部から日通グループ全体に通知をしています。これからも、ほかの健保組合を牽引していけるような姿勢で、「あしたの健保プロジェクト」に協力していく所存ですので、健保連としても、主義主張を明確に打ち出して、頑張ってください。

 日本通運株式会社 総務・労働部 高原 博 専任部長
厳しい局面を乗り切るには、個人レベルでも、組織レベルでも自助努力が大切だと思います

 日本通運健康保険組合 名賀 直行 常務理事
従業員が保険料の問題に理解と関心が持てるよう、健保組合としても努力していきます

健康コラム
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