企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

株式会社タニタ

「我々は、『はかる』を通して世界の人々の健康づくりに貢献します」これは健康総合企業として知られるタニタの経営理念です。1944年設立の同社は、長年にわたって培った高い技術力で、1992年に世界初となる「乗るだけで計測できる体脂肪計」を製造・販売し、国内外にタニタの名前を浸透させました。また、1990年に社員食堂の前身となる肥満予防・改善を目的とした減量指導施設「ベストウエイトセンター」を本社内に開設。同施設は1999年にその役目を終えましたが、そのノウハウを活用して、食事や運動による健康づくりのソリューションを提供。現在、健康計測機器の製造・販売と一体となって健康づくりのトータルサポート事業を展開しています。今回は、タニタが実施している社員の健康づくりへの取り組みと、同社が加入している計機健康保険組合の保健事業の取り組みや今後の展望について話を伺いました。

【計機健康保険組合の概要】
加入事業所数:452事業所(2015年3月末)
加入者数:6万950名(2015年3月末)※被扶養者2万9486人を含む

──計機健康保険組合(計機健保)では、どのような保健事業を行っていますか。


計機健康保険組合
常務理事 大山 和雄 さん

計機健保 ▼

 健診事業を中心とした保健事業を実施しています。たとえば、人間ドックや生活習慣病健診、婦人科健診などは、なるべく個人負担を少なくして、受診率の向上を目指しています。いわゆる健康診断については、昨年から対象を16歳まで引き下げました。また、1人につき1つ選ぶことができる各種健診では、乳がん、子宮がんなどのオプション検診に加え、加入者からの要望が多かった腫瘍マーカー検査、ピロリ菌の検査を今年度から追加しました。

 基本的に健診は、当健保組合が持っている診療所で実施しています。しかし、全国に事業所があり、診療所で受けられない方も多いため、全国の契約医療機関で受診できるようにしています。また、事業所の要望に応じて、検診車での巡回健診も実施するなど、被保険者が受診しやすいように工夫しています。

 また体育奨励として、野球大会、ボーリング大会やテニス講習などを実施しています。野球大会には、タニタさんも出場いただいています。さらに、レクリエーションとして、潮干狩りやテーマパークの利用助成などを実施しています。

──被保険者の皆さんからは、どのような意見や感想が寄せられていますか?

計機健保 ▼

 健診の自己負担額が比較的軽いこと、また、オプション検診が充実していることは、皆さんに喜んでいただいています。

 当健保組合では、年4回発行している機関誌を通じて、読者である被保険者の皆さんから意見や要望が寄せられます。そのなかで、がんのオプション検診を増やしてほしいといった要望が多かったため、最初は乳がん検診、子宮がん検診から始めました。今年度はさらに、腫瘍マーカー検査やピロリ菌検査を導入しました。初年度は、当健保組合の診療所のみで実施しましたが、評判がいいので、その他の契約医療機関についても来年度から開始したいと思っています。

 また、事業所には、検診車による巡回健診が大変喜ばれています。当健保組合の事業所は工場が多いこともあり、社員が一度に業務を止めることができません。そこで、検診車による巡回健診が、事業所のニーズにあっているのです。財政が厳しくなり、保険料率が上がっていくなかで、経費削減のために検診車による巡回健診を廃止する健保組合もあると聞いています。当健保組合も財政は厳しい状況にありますが、保健事業の柱として構える健診事業は重要であることから、今後も継続していくつもりです。

 タニタさんからは、機関誌に「タニタ食堂のレシピ」をご提供いただいています。これも被保険者からの要望に応じる形で連載を開始したのですが、大変好評です。

──計機健保では、株式会社タニタの健康に対する取り組みについて、どのような感想を持っていますか?

計機健保 ▼

 健保組合は、疾病予防を目的として、さまざまな保健事業に取り組んでいますから、事業主が自発的かつ積極的に疾病予防のために活動してくださることは、大変ありがたいことです。特にタニタさんは健康に対する意識が高く、独自の健康プログラムにも熱心かつ真摯に取り組まれています。2013年にタニタさんが、厚生労働省主催の「健康寿命をのばそう!アワード」で厚生労働大臣最優秀賞を受賞されたのも、その成果だといえます。

 健保組合全体で見ると、例えば、昨年度の医療費はわずかに下がってはいるものの、保健事業と医療費との因果関係を単純に論じることは難しいのが現状です。タニタさんには引き続き健康経営に取り組んでいただき、当健保組合でもそのデータをもとに医療費を抑制する効果的な保健事業を検証していきたいと考えています。その事例は、データヘルス計画にも活用できると期待しています。

──株式会社タニタでは、社員の健康について、どのように考えていますか?


株式会社タニタ秋田
代表取締役 社長 田口 和美 さん

タニタ ▼

 昨今、国も「健康経営」を標榜していて、経済産業省では産官学が連携して「次世代ヘルスケア産業協議会」を立ち上げるなど、健康寿命の延伸を目指して取り組まれています。次世代ヘルスケア産業協議会には、弊社も参画させていただいています。中小企業である弊社が、こうした国の取り組みに協力をさせていただくことになったのは、やはり、いち早く健康経営の観点をもって、社員の健康づくりに着手したことが評価いただいたためだと考えています。弊社では、社員の健康は、医療費の削減に通じると同時に、社員のQOLを高めることにもなり、ひいては仕事やプライベートの充実につながり、その結果、企業の成長が促されると考えています。

 弊社がこうした健康経営に着目したのは、2008年に現社長の谷田千里が社長に就任したときからになります。社員を見渡した谷田が、「健康をはかる機器を売っているタニタなのに、お腹が出ている人がいる。まずは社員自らがからだの状態や運動量などをはかって、健康になろう」と決断しました。そのタイミングがちょうど特定健診・特定保健指導が始まるタイミングでもあったことも、全社を挙げて取り組みを開始した理由の1つになっています。

──「第2回健康寿命をのばそう!アワード」において、厚生労働大臣最優秀賞を受賞された「タニタの健康プログラム」の概要についてお聞かせください。


株式会社タニタ
経営会 社長補佐 兼 事業戦略部長
丹羽 隆史 さん

タニタ ▼

 タニタでは、健康の三要素といわれている食事、運動、休養の健康サイクルをバランスよくとるうえで、はかって可視化することが、健康づくりの基本と考えています。「はかって、わかって、気づいて、変わる」というPDCAを回す仕掛けです。例えば、まず体重をはかります。その結果5kg増だとわかったとします。それに対して、食べすぎたのか、飲みすぎたのか、運動不足なのか、などに思いを巡らせることで気づきにつながります。ただ、ここから実際に、増えてしまった5kgを落とすために実践できる方は、意志の強い3割くらいです。したがって、残りの7割の方に状況改善に向けた努力をしていただくためには、会社が少し後押しをしてあげる必要があります。


「健康寿命をのばそう!アワード」
厚生労働大臣 最優秀賞

 このプログラムを社内に導入した当初は、健康計測機器をつくるタニタの社員でも、「え、こんなことするの?」という反応でした。からだに不調を感じていない人に、健康を目的に頑張りましょうと言ってもまず響きません。そこで健康になる、あるいは健康であることのインセンティブを考えることにしました。例えば、旅行が好きな方であれば「健康だからこそ旅行が楽しめる」、お酒好きな方であれば「からだを壊していたらおいしく飲むことができない」といった動機づけを行ったうえで、取り組み内容は、できるだけ簡単で楽しく、続けたいと思えるように工夫しています。

──具体的には、どのようなことに取り組まれたのでしょうか。

タニタ ▼

 実際に取り組んでいる内容は、大きく3つに分かれます。


 1つ目は、体組成計と血圧計による計測を週に1回以上することです。通信機能を搭載した体組成計や血圧計を休憩スペースに設置し、気軽に計測してもらえるようにしています。また、人前では計測したくないという女性社員に配慮し、パウダールームにも設置しています。さらに、つい立てを置くなど周囲から見えないように工夫しています。

 2つ目は、全社員に活動量計(当初は歩数計)を配布しました。これにはFeliCaチップが内蔵されており計測時に、リーダーライターに活動量計をかざすだけで、本人を認証してくれます。体組成と血圧を計測したデータと一緒に歩数や活動量などのデータは、自動的に専用サーバーに送信される仕組みになっています。サーバーに蓄積された情報は、各自がスマホやパソコンなどで確認できます。サーバー側で計測していない人を検出し、自動的にアラートメールが送られる仕組みにしています。

 活動量計を渡されたときは、モチベーションも高く頑張るのですが、3カ月もすると飽きてしまう人もでてきます。そこで、モチベーションを維持してもらうために3カ月に1度の頻度で歩数を競う「歩数イベント」を実施しています。個人対抗はもちろんのこと、部門間でも競争しています。私や田口は社長の谷田と同じ所属なので、他部署に負けないようにお互い声掛けをして、「みんなで頑張ろうと」という意識付けをしています。イベントの結果はWebサイトにアクセスして確認できますが、全社員がITに明るいわけではないため、アナログではありますが、ランキング表を食堂前の掲示板などに掲出して、自然に目に入る工夫もしています。

 3つ目は健康指導プログラムです。健診データを元に健康に懸念のある社員を対象にしており、集団と個別で指導を行います。運動プログラムは、スポーツクラブや手ごろに取り組めるウオーキングなどがあり比較的取り掛かりやすいのですが、食生活の改善は個人ではなかなか難しい傾向にあります。そこで、集団指導で食事の摂取傾向などを管理栄養士と一緒に確認してもらいます。そうすると、栄養バランスや野菜不足に気づくことができます。本人に気づいてもらったうえで、管理栄養士が具体的な指導をすることで効果が上がると実感しています。

 その他にも、始業前に毎朝ラジオ体操を行うなど、社員の健康づくりに対する意識を高めるようにしています。

──取り組みによる結果や、社員からの声にはどういったものがありますか?

タニタ ▼

 医療費を見ると、総体的には下がる傾向も生じていますが、実際には多少の変動があり、何が主な要因かといった分析まではできていません。ただ、取り組み前と現在を比較すると、社員におけるBMI値による適正体重の人の割合が5%以上増えています。これが総体的な医療費削減につながっているとは言い切れませんが、適正体重の人が増えたという部分においては、明らかに効果が出ています。

 本社の社員については、スタートしてから6年が経ち、体組成や血圧などの活動量計で計測したデータをサーバーに蓄積し、パソコンなどで定期的にチェックすることが習慣化されてきました。習慣化してしまえば、毎朝、歯を磨くのと同じような感覚で計測し、自分の体重や体脂肪率などの増減や運動量の状況について把握することができます。自分のからだの状態を知り、よくないと気づけば、いい状態に戻そうと意識することができるのだと思います。健康プログラムへの社員の参加状況は、出張等で計測できないなどの特別なケースを除けば、ほぼ100%の人が計測を続けています。

 また、社員が自身を計測していくなかで、「こんな機器があったら疾病予防につながるかもしれない」と思い、商品開発につながることもあります。

──工場での取り組みについてはいかがでしょうか。

タニタ ▼

 都心部の人は主な移動手段が電車ということもあって、意外と歩いています。一方、地方になるほど、車での移動が多くなり、極端に歩かなくなります。秋田にある弊社工場の社員も例外ではありません。そこで昨年、本社で実施している健康プログラムを導入しました。

 工場の社員数は190人弱です。取り組んでいる内容は基本的に本社と同じですが、工場内に1キロ程度のウオーキングコースをつくり、意識して歩くようになりました。

 工場の社員の人間ドックや健診の受診率は100%です。特定健診も、対象者は全員受診しています。このように健康に対する意識は高いのですが、生活習慣を改善するまでには至らないのが実情です。そこで、本社が企画する「歩数イベント」への参加を促すなど、改善できるところから試してもらおうと考えています。歩数イベントにおいては、個人や部署ごとの順位に、やはり興味があるようで、早く掲出してほしいと要望が出ることもあります。まだ健康プログラムを始めて1年未満ですので、これが習慣化して、出勤率や作業効率などの改善データなどが出てくると、工場における健康づくりの効果的な事例としてプログラム化できるかもしれません。

──「タニタの健康プログラム」について、今後の展望があればお聞かせください。

 健康づくりのために、なんらかのプログラムに取り組まれている自治体や企業は数多くあります。ただ、何が効果的かという点で、悩みを抱えているところも多いと聞いているので、弊社のノウハウを活用して、今後も提案していきたいです。また、健康経営やデータヘルス計画の取り組みついては、コンサルティングやツール提供をしていきたいと考えています。

 タニタ食堂については、レシピ本のヒットをきっかけに、多くの読者から「実際に食べてみたい」とのご要望をいただきました。しかし、社員食堂にはお招きできませんので、一般の人でも利用できるレストランとして東京・丸の内に「丸の内タニタ食堂」を出店しました。その後、他の地域からも同様のご要望があるため、現在、さまざまな地域で提携店を展開しているところです。

──計機健保とタニタとで連携している部分はありますか?

タニタ ▼

 健康づくりのための取り組みや、疾病予防事業は単一健保のほうがやりやすいと認識しています。複数の事業主が集まって運営する総合健保は、いろいろな意味で連携が難しいのが実情です。そうした状況下で、タニタでは、まず事業所が自ら取り組み、そのうえで何かしらの成果を世の中にアピールしていきたいと考えています。

 

 まずは、計機健保に所属をしている他の事業主が「そんなに効果があるなら、自分たちもやってみたい」と思っていただけるような健康づくりを実施したいと思っています。ただ、同じ計機健保に属していても事業環境が異なりますので、それぞれの事業主に合った形のデータヘルス計画を総合健保と事業主との間で相談できるようになるのが理想だと考えています。弊社がその先駆けとして、計機健保と連携していきたいと考えています。

──計機健保においても、財政は非常に厳しいと思いますが、何かご意見があればお願いします。また、事業主としての意見があればお聞かせください。

計機健保 ▼

 当健保組合では、収入に対して約5割を高齢者医療に拠出しています。そのため、保険料率を引き上げて対応せざるを得ない状況です。当健保組合の保険料率の推移は、2008年当時で7.3%だったのに対し、2011年には8.5%に引き上げ、その翌年の2012年は9.5%に引き上げています。このままいくと、2019年には保険料率が10%を超えることが想定されます。

 医療費はこれからさらに上がっていくでしょうし、社員の急激な増加や、被保険者の標準報酬額が大きく増えることも見込めません。そうなると、医療費を抑制する努力をしながら、保険料率を上げて対応するしかありません。

 こうした状況下で、当健保組合としてできることは、健診の充実を図り、重症化予防をすることやジェネリック医薬品の利用促進などを進めながら、加入者の皆さんに、健康に関心を持っていただけるよう努力をしていくことだと考えています。

タニタ ▼

 医療費削減、つまりは疾病予防に本気で取り組むのなら、民間企業が官や医療機関と連携していくことが不可欠だと思います。全体で手を携えていかないと、社会的な運動までにしていくのは難しいと思います。さらに言えば、子どものころからの教育も大事です。不健康な人を減らすためには、小中学生くらいから食育などを通じて、健康づくりへの意識を高めていく必要があります。そうしないと、成人してから乱れた生活習慣になりがちで、それがいずれは生活習慣病などの疾病につながり、やがては医療費や介護費に影響するからです。

──あしたの健保プロジェクトへのメッセージをお願いします。

計機健保 ▼

 この健康経営 事例紹介のように、健保組合と事業主がどのように疾病予防に取り組んでいるかがわかるツールがあると、健保組合にとっても事業主にとっても、健康面および経営面で得るものがあるように思います。

タニタ ▼

 健康づくりへの取り組みは一朝一夕に結果は出ません。したがって、本当に小さなことでいいので、健康づくりに関する小さな輪を広げていくことが大切なのだと思います。各自があるいは各事業主が、今より少しでも改善を目指す気持ちで努力していくことが疾病を予防し、結果的には医療費の削減にもつながると思いますので、健保連には、そうしたメッセージをどんどん発信していただきたいですね。

 株式会社タニタ秋田 代表取締役 社長 田口 和美 さん
「歩数イベントのランキングで他部署より劣っていると、私も本気で悔しいんです。それが『みんなで頑張ろう』という声掛けにもつながります」

 株式会社タニタ 経営会 社長補佐 兼 事業戦略部長 丹羽 隆史 さん
「健康をはかるタニタとしては、多くの事業主さんが導入してみたいと思えるような、機器とサービスを組み合わせた健康づくりのソリューションを開発し、実績を積み上げていきたい考えです」

 計機健康保険組合 常務理事 大山 和雄 さん
「被保険者の皆様からの医療に対するご要望には、費用対効果も鑑みたうえで、可能な限り応え、皆様の健康づくりをしっかり支えていきたいと思っています」

健康コラム
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