企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

リンナイ株式会社

 リンナイ株式会社は、1920(大正9)年に、「林内商会」として加圧式石油コンロの製造・販売から始まり、それ以降、総合熱エネルギー機器メーカーとして、「熱と暮らし」に関わる多様な商品を提供してきました。同社の企業理念を構成する『リンナイ行動規範』には「安全かつ心身ともに健康で働きやすい職場環境を築きます」と記されています。創業当初から社員とその家族の健康づくりに地道に取り組んできた同社の皆さんにお話を伺いました。

【リンナイ健康保険組合の概要】
加入事業所数:6事業所(2016年3月末)
加入者数:1万40名(2016年3月末) ※被扶養者4506名を含む

──いつ、どのような理由から、社員の健康づくりを始めたのでしょうか。


リンナイ株式会社 管理本部 人事部
次長 高村 和治 さん

リンナイ ▼

 当社では、企業規模がまだ小さかった時代から、社員とその家族の健康づくりに取り組んできました。1973(昭和48)年にリンナイ健康保険組合が設立されてからは、当社と健保組合と従業員組合が三位一体で従来の流れを踏襲し、今日に至ります。したがって、特別な理由やきっかけがあったわけではありません。

 1970~80年代には、社員の健康づくりを目的に、社員の家族にも参加してもらう運動会を実施していました。現在では、その流れを継承し、従業員組合が主導で、会社と健保組合も協賛する形で年に1度のスポーツフェスティバル(2015年度は1840名が参加)や、ウォーキングフェスティバル(2015年度は1304名が参加)を開催しています。スポーツフェスティバルは、ソフトボールやフットサルといった本格的な試合をするスポーツから、ボールを投げるスピードを計測して競い合うゲーム性のあるものまで、幅広い内容になっています。小さな子どもたちが遊べるボールプールやふわふわゴリラなども設置するので、家族総出で体を動かす1日になります。また、数十年続いている始業前のラジオ体操は当社の日課になっています。


スポーツフェスティバルの様子


ウォーキングフェスティバルの様子

──どのような保健事業を実施していますか。また、保健事業を実施するうえで、工夫されていることや、保健事業の効果についてお聞かせください。

健保組合 ▼

  • ①特定保健指導

    実物大を目で見ることができるため、適量をイメージしやすいといったメリットもあるフードモデルを使用している
    フードモデル

     生活習慣病の予防に向けて、当社ではメタボ対策を重点として、特定保健指導の実施率向上に力を入れてきました。特定保健指導は外部事業者に委託していますが、個別面談あるいはグループ面談など形式を変えて実施することで、より多くの社員が指導を受けられるようにしています。また、社員がより関心を持つことができるよう、食事の説明をする際にはフードモデルを使用しています。フードモデルとは食品サンプルのことで、実物大を目で見ることができるため、適量をイメージしやすいといったメリットがあります。例えば、1回の食事で摂る白米の適量を把握するときに、グラム数だけで説明されるよりも、実際の量を目で見るほうが深い理解につながると考えています。ほかにも、脱メタボのモチベーションを高めるために、特定保健指導の対象者には、翌年度の定期健診の実施月まで、毎月1度、メールでの支援をしています。こうした工夫もあり、2008年度の特定保健指導実施率は30.6%でしたが、2014年度には56.7%にまで向上し、メタボおよび予備軍の該当率は2008年度が27.2%だったのに対して2015年度には23.6%に減少しました。

  • ②定期健診

     各年度の5月から7月までの3カ月間を受診期間にしており、社員の定期健診の受診率はほぼ100%です。定期健診は人事部と健保組合の連名で案内し、5月末までに各事業所で受診日を決め、健保組合に連絡をするよう体制を整えることで、未受診者が出ないように徹底しています。また、会社としても定期健診の受診を推奨していることを社員に分かってもらうために、就業時間内の受診を認めています。


  • リンナイ株式会社 管理本部 人事部 
    保健師 伊藤 千佳 さん

    ③被扶養者の特定健診

     当健保組合では、被扶養者の特定健診にも力を入れています。被扶養者宅近くの医療機関で受診できるようにしているほか、2008年度からは、公共施設などを会場として、健診車を巡回させる巡回レディース健診も実施してきました。案内の方法は、家族へ直接郵送するほか、社員にも案内し、社員からその家族へ定期健診の受診を促すようにしてもらっています。こうした努力を重ねてきたのですが、なかなか受診率が上がらなかったため、巡回レディース健診については、2次募集を実施し、受診の機会を増やしました。2014年度における被扶養者の特定健診受診率は約48%だったので、50%を超えるようにすることが当面の目標です。

  • ④メンタルヘルス

     外部から講師を招き、メンタルヘルスセミナーを定期的に実施しています。階層別での実施が有効との考えから、セミナーは「管理監督者向け」と「社員向け」そして「メンタルヘルスの部門毎担当者向けの上級コース」の3段階に分けて実施しています。なお、セミナー以外にも、電話相談ができるよう外部事業者と契約しています。

  • ⑤感染症予防

     2008年度から、会社と健保組合の共同事業としてインフルエンザの予防接種を開始しました。2015年度は1700名近い社員が予防接種を受けました。これは、各自が医療機関で接種するというもので、会社から1600円、健保組合から1000円の補助が出るようになっています。


  • リンナイ株式会社 管理本部 人事部
    保健師 最所 夕貴 さん

    ⑥がん検診

     定期健診時に、胃がん、前立腺がんの検診も同時に実施しています。これに加え、郵送検診という形で大腸がん、子宮頸がんの検診と、ピロリ菌の検査を実施しており、被保険者、被扶養者ともに利用が可能です。被扶養者の乳がん検診については、被扶養者の巡回レディース健診時に受診できるのですが、社員には乳がん検診がないため、女性社員は健保組合へ申請したうえで、自宅近くの医療機関で受診できるようになっています。

  • ⑦人間ドック

     今年度から生活習慣病予防として、これまでの人間ドックのメニューに、脳ドック、心臓ドックの専門ドックメニューを選択肢に加えました。

──データヘルス計画には、どのように取り組んでいますか。

健保組合 ▼


リンナイ健康保険組合
常務理事 小木曽 隆 さん

 2015年度からデータヘルス計画が始まり、当健保組合としては次の3つを、主力事業としています。

  • ①糖尿病重症化予防指導

     糖尿病重症化予防指導については、データヘルス計画が開始される前から取り組んできました。糖尿病は自分で気づきにくい病気であるため、糖尿病の未治療者や治療中断者に対し、2011年度から、重症化予防に向けた糖尿病性網膜症の対策として眼底検査を実施しています。2012年度からは腎不全対策としてクレアチニン検査を実施しています。2013年度には健康支援室を設け、健康面談や健康相談を開始しました。また、健保組合で特定保健指導に力を入れた甲斐もあり、糖尿病判定者は少しずつ減少傾向にあります。

     2015年度からの糖尿病重症化予防指導の目標については、糖尿病の未治療者および治療中断者の数が横ばい状態であることを受け、そうした人たちをレセプトから抽出し、外部委託の保健師が糖尿病に関する知識の啓蒙を行いつつ、継続治療の勧奨をすることとしています。

  • ②若年層向けの特定保健指導

     現在の法定規則では、特定保健指導の対象は40歳からになっていますが、当健保組合では35歳からを対象にしています。40歳未満のメタボ該当者を減らし、特定保健指導の新規加入者を減らすことが目的です。


  • リンナイ健康保険組合
    事務長 天野聡さん

    ③55歳以上の家族を対象とした健康訪問

     健康訪問とは、外部委託の保健師が、社員の家族を訪問し、健康に関する相談にのっています。以前は、65歳以上の家族を対象に実施してきた健康訪問を、2015年度からは55歳からにしました。その理由は、データヘルス計画に取り組むうえで、家族のデータを分析したところ、55歳からの医療費が急増することが明らかになったためです。55歳から生活習慣を変えれば、その分、健康寿命が延びることが期待できることから、まずは社員の両親を対象に実施しています。

──コラボヘルスには、どのように取り組んでいますか。

リンナイ ▼

 労働安全衛生法の関係で、健康診断は会社、特定健診は健保組合という役割分担はしていますが、会社側と健保組合の間に明確な境界線は設けていません。したがって、どんな取り組みにおいても協力しあっています。健康づくりに付随した行事についても、企画をするのが会社のときもあれば健保組合のときもあります。費用面においても、会社が企画したことに対して健保組合が協賛したり、従業員組合が企画したことに、会社と健保組合が協賛したりと、明確な役割分担をすることはせずに、三者が協力しあって進めています。

 なお、当社は「健康経営銘柄2016」にも選定いただきましたが、会社と健保組合のみならず、従業員組合も含めて三位一体で社員の健康づくりに取り組んできた点が、評価のポイントになったのではないかと考えています。

──社員の皆さんからは保健事業に対して、どのような声が寄せられていますか。

リンナイ ▼


 3年に1度、従業員組合が中心となり、全従業員を対象としたアンケート調査を実施しています。設問は健康への取り組みも含め多岐にわたりますが、保健事業に対する不満の声は見受けられません。ただし、「20歳代から30歳代を対象としたメタボ予防セミナーを実施してほしい」とか、「感染症予防のセミナーをしてほしい」といった健康に関する要望は寄せられています。社員のほうから健康づくりに関する要望が出るということは、健康意識の高い社員が育っていると捉えています。すべての要望に応えられるかどうかは別として、保健事業を企画・実施するうえでの参考にしています。

──健康保険組合として抱えている課題と、その対策についてお聞かせください。

健保組合 ▼

 特に前期高齢者の納付金が健保組合財政を圧迫しており、当健保組合も、2015年度に保険料率を8.19%から8.80%に引き上げました。それでも、経常赤字が続いており、2016年度も積立金の繰り入れや、繰越金でなんとか凌いでいる状況です。2017年度は後期高齢者支援金も全面総報酬割になることが決まっているため、健保組合の財政は厳しくなる一方です。健保組合としてできることは、対策可能な疾病である生活習慣病予防への取り組みだと考えています。


リンナイ健康保険組合
奥村 香織 さん

 財政面以外での課題としては、メンタル不調者の早期発見に向けた仕組みの改善です。現状の仕組みでは、メンタル不調者はまず有休を利用して休職するため、健保組合が休職の理由を把握することができず、早い段階でフォローすることができません。個人情報の問題があるため、慎重に進める必要がありますが、メンタル不調も早期発見に越したことはないので、この仕組みを改善することが課題の1つだと考えています。

──「あしたの健保プロジェクト」に対するメッセージや国に対する要望をお願いします。


リンナイ ▼

 健保組合の財政にもっと余裕があれば、より有益な保健事業に、三位一体で取り組めると思います。私たちも一丸となって健康経営に取り組んでいきますので、国には納付金の負担が軽減されるような仕組みを考え、実行していただきたくお願いいたします。

健保組合 ▼

 本来、保険料とは、受益と負担の関係が明確になっているものにあてられるべきではないでしょうか。そのためにも、健保連には、前期高齢者医療費へ公費を投入していただけるよう、「あしたの健保プロジェクト」のタイトルにもある「高齢者医療の負担構造改革の実現」に向けて、国に働きかけていただきたいと思います。

リンナイ株式会社 管理本部 人事部 次長 高村 和治 さん
「今回、『健康経営銘柄2016』に選定いただきましたが、当社としては従来から当然のことに取り組んできたに過ぎません。したがって、その『当然』を評価していただけたのだとしたら、それはとても嬉しいことです」

リンナイ株式会社 管理本部 人事部 保健師 伊藤 千佳 さん
「社員の健康づくりに対する取り組みは、定期健診をはじめ、さまざまな保健事業を含めて、昔から実施してきたことなので、社員は、そうした取り組みがあって当然のものだと思っているようです。そのためか、保健事業に対しても非常に協力的で、保健師としてはとても助かっています」

リンナイ株式会社 管理本部 人事部 保健師 最所 夕貴 さん
「普段会社のために尽力されている社員の方がたが、健康で安心して働くことができるように、また“リンナイに勤めていてよかった”と思って頂けるような保健事業を、健保組合と連携しながら行っていけたらと思います」

リンナイ健康保険組合 常務理事 小木曽 隆 さん
「多くの健保組合が事業主と力を合わせ、なんらかの納付金対策に取り組んでいますが、当然のことながら健保組合や企業レベルでは対策不可能な部分もありますので、どうか国にも抜本的な納付金対策を考えていただきたく思います」

リンナイ健康保険組合 事務長 天野 聡 さん
「生活習慣病は対策可能な疾病ですから、健保組合としては、会社とのコラボヘルスにてしっかりと医療費削減に取り組み、医療費削減に貢献していきたいです」

リンナイ健康保険組合 奥村 香織 さん
「ご家族の方の健康もとても大切であるとの考えから健康訪問を実施しています。健康訪問では、健康相談以外にも、健診の案内やジェネリック医薬品の説明などもさせていただいています。保健師が丁寧に対応することで、医療機関の適正な受診への効果もあると考えています」

健康コラム
KENKO-column