企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

株式会社ダスキン

社員・家族の幸福を願い会社・健保・労組が一体で健康づくり推進

清掃用品のレンタルや、家事代行などの役務サービスおよびフードサービスを展開する 株式会社ダスキンは「働きさん一人ひとりの幸福を願って」※という「ダスキン健康宣言」の実現に向け、生活習慣病の重症化予防、健康意識(ヘルスリテラシー)の向上など、社員とその家族の健康維持・増進に、会社・健康保険組合・労働組合が三位一体の体制で取り組んでいる。これらが評価され「健康経営優良法人」の大規模法人部門で2017年から4年連続認定を受けている。同社のこれまでの取り組みについて、執行役員 品質保証・リスク管理部担当兼人事部長の橋本幸子さん、人事部 人事労務室 健康経営担当の舩戸真さん、ダスキン健康保険組合 常務理事の石井善子さん、同事務長の永野修さんに話を聞いた。

※ダスキンでは傍(はた)を楽にするという意味の「傍(はた)楽」に由来し、社員のことを「働きさん」と呼んでいます。

【株式会社ダスキン】
創 立:1963年2月
本 社:大阪府吹田市豊津町1-33
代表取締役 社長執行役員:山村輝治
従業員数:1,974人(2020年3月31日現在)

──社員と家族の健康の維持・増進が重要


執行役員 品質保証・
リスク管理部担当兼人事部長
橋本 幸子 さん

橋本さん ▶

 創業して間もなく、当時の社長であった鈴木清一が、社員の幸福を願い、家族ぐるみでの健康管理を実現するため、健康保険組合を立ち上げました。ダスキンには、早い時期から健康経営に取り組む素地がありました。

 本格的な健康経営への取り組みは、2016年に健保組合財政の悪化を契機に対策を検討したことから始まりました。「社員の健康を維持・増進することが最も重要」という結論に至り、健康経営を推し進めることを決定。翌17年には正式に「健康づくり推進会議」を組織し、運営を開始しました。


人事部人事労務室 健康経営担当
舩戸 真 さん

舩戸さん ▶

 健康経営に対しては、当初から会社・健保組合・労働組合の三位一体で取り組みを進めています。それぞれの組織から選ばれたメンバーが、健康経営施策の立案と実行について検討し、経営層に適宜報告しています。さらにブレイクダウンした組織として「健康づくり実務担当者会議」を設置し、具体的な取り組み内容を決定しています。

橋本さん ▶

 18年1月には、「ダスキン健康宣言」を行い、社員とその家族の健康維持・増進に取り組むというトップコミットメントを示しました。

 宣言の実現のため、①生活習慣病の重症化予防、②がん検診の受診促進、③メンタルヘルスへの取り組み、④健康意識(ヘルスリテラシー)の向上、⑤健康白書の公表――を重点テーマとして取り組んでいます。

舩戸さん ▶

 健康経営の取り組みは非財務的なことでもあり、当初は社員への浸透度が低く、ヘルスリテラシーの向上が課題となっていました。

 このため、既存の組織である安全衛生委員会の活動をベースとして浸透を図ることにしました。最初の取り組みとしては、19年11月に、安全衛生委員会とのコラボで健康経営のセミナーを開催し、NPO法人健康経営研究会理事長の岡田邦夫先生にご講演いただきました。講演はeラーニングを活用し、いつでも視聴できるようにしました。非常に分かりやすく、また法令・制度的な面もカバーした内容で、社員の健康経営に対する理解を深めることにつながったと思います。

橋本さん ▶

 顕彰制度について、当社は、健康経営優良法人(大規模法人部門)の認定を、20年まで4年連続で受けています。20年は関係会社18社が大規模法人部門、中小規模法人部門で認定を受けました。

 今後3年間で、関係会社27社が大規模、中規模法人部門で認定を得ることを目指します。認定には「健康宣言」に基づく取り組みが必要になりますので、健保組合にそのサポートをしていただいています。


ダスキン健康保険組合 常務理事
石井 善子 さん

石井さん ▶

 関係会社の経営者、現場の管理責任者は全員が推進に前向きで、親会社と連携しながら取り組みを進めています。大規模法人部門に申請する会社にとっては、親会社の取り組みがモデルとなるからです。健保組合は、その規模に至らない中小規模の関係会社の取り組みを支援して、水平展開につなげることを目標にしています。

舩戸さん ▶

 徐々にではありますが、グループ内で健康経営の認知は向上していると思います。特に関係会社では、健康優良法人の認定を受け、社員の健康を意識している会社であることを示すことで、人材募集がしやすくなったとの話も聞いています。健康経営が、人材確保にもつながるということです。

──健康意識向上のためポータルサイトを活用

舩戸さん ▶

 具体的な取り組みとして、当社では、生活習慣病の重症化予防については、高リスク層を対象に「生活習慣改善プログラム」を実施し、生活習慣の見直しによる健康リスクの軽減を図っています。また、40歳未満も含めた「心・血管疾患発症予防プログラム」、喫煙者を対象とした「オンライン禁煙プログラム」、61歳以上の社員に対する「ロコモフレイル予防プログラム」なども用意しています。

 定期健康診断については、17年度から19年度まで3年連続で100%受診を達成しています。20年度は新型コロナウイルスの影響で100%到達は年度末になる可能性もありますが、引き続き、受診勧奨に努めています。


ダスキン健康保険組合 事務長
永野 修 さん

永野さん ▶

 健診の結果、分析はクラウドシステムで一元管理できる「健康管理システム」を導入しています。各関係会社と健保組合で情報共有し、緊急性が高い受診者には、関係会社と健保組合の双方から医療機関への受診勧奨を行っています。

舩戸さん ▶

 要精密検査、要治療となった者の二次健診受診率は17年には35%程度でしたが、現在では65%まで上昇してきています。

永野さん ▶

 「オンライン禁煙プログラム」は、スマホやタブレット端末、PCを使って、仕事の合間や自宅で禁煙のためのオンライン診察、継続的なサポートを受けることができるもので、費用は健保組合で負担しています。

舩戸さん ▶

 禁煙プログラムの効果もあり、喫煙者数や喫煙者1日当たりの喫煙本数は減少傾向にあります。

 社長の山村輝治は健康に対する意識が高く、日本健康生活推進協会の「健康マスター」の認証も取得しています。禁煙に向けた取り組みも山村の後押しで、進めてきたという経緯があり、本社ビルでは20年4月から勤務時間内禁煙をスタートしました。今後、全事業所で実施していきたいと考えています。

石井さん ▶

 株式会社ダスキンにおいて、働き方改革に取り組んでいる人事担当執行役員の橋本が健保組合の理事長を務めていることもあり、健保組合としても女性の活躍推進や、年齢に関係なく活躍できる環境づくりといった視点での保健事業に取り組めています。

 例えば、被保険者に対する定期健診では、40~73歳の方は3年ごとに人間ドックと同じコースの健診を受けることができる「節目健診」を設定していますが、今年から、被扶養者の家族健診にも3年ごとに人間ドックのコースを導入しています。

橋本さん ▶

 メンタルヘルスへの取り組みは、社内の相談窓口を設置し、希望者は、カウンセラー・精神科医による面談を実施する体制を整備しています。何かあれば相談できるところがあることが、とても大切だと思います。ストレスチェックの提出率は100%となっており、集団分析の結果を用いた職場改善も行っています。

石井さん ▶

 健康意識の向上については、被保険者・被扶養者を対象に、ICTを活用した健康ポータルサイトを提供しています。自分の健康データをスマホなどで確認でき、日常の健康管理に活用できます。その中で、仲間とチームを作り、チーム間で歩数を競うことで、楽しみながら運動習慣を身に付けてもらう取り組み「みんなで歩活(あるかつ)」というイベントを年2回実施しており、労働組合の熱心な協力により毎回参加者は増加し、大変盛り上がっています。

──関係会社と足並みを揃えて健康経営推進

舩戸さん ▶

 当社は、これまで以上にオピニオンリーダーとして取り組みを進めていかなければならないと考えていますが、当社だけで健康経営に一生懸命取り組んでも、その他の関係会社が足並みを揃えていかなければ、全体としての健康維持・増進、ひいては医療費抑制、健保組合の保険料率の低減にはつながりません。

 健保組合においてさまざまな対策を講じ、健康経営を牽引(けんいん)していただいています。年々、社員の平均年齢が上昇し、60歳以上の再雇用者も増加傾向にありますので、高齢層向けの対策にも、当社と健保組合が連携して取り組んでいきたいと思います。

永野さん ▶

 健康に対する意識、知識があるか、ないかで、その人の人生が大きく変わることになるかもしれません。健康の維持・増進には、特に40歳以下の若い時代からの準備が大切だと思います。その意味でも、健保組合と会社とのコラボで取り組みをさらに進めていきます。

 また、健保組合財政は現在、ギリギリの状態にあります。まず、被保険者の健康を守っていかなければ、それは保険料率にも跳ね返ってくることにもなります。そうした状況は何としても避けなければなりません。

石井さん ▶

 19年度に厚生労働省が実施した第1回「上手な医療のかかり方アワード」において、ダスキン健保組合は保険者部門で優秀賞を受賞しました。受賞につながった取り組みは、健保組合の電話相談などの連絡先、緊急時や困ったときの健康相談窓口について、健保組合の広報誌「Sante(サンテ)」の裏表紙やホームページなどを活用し、周知・定着を図ったことでした。

 その後、健康経営の浸透を図るため「ダスキン健康宣言」の内容や健康相談窓口の連絡先を記載したカードを制作し、「Sante」に同封して組合員全員に送り、携行できるようにもしています。

 健康経営の推進については各企業や団体の、先進的な取り組み、好事例が共有され、日本全国に広がっていくことが大切だと思います。ダスキンから発信できるものがあれば、積極的に協力していきたいと思っています。

橋本さん ▶

 会社と健保組合は侃々諤々(かんかんがくがく)、話し合いをしながら取り組みを進めており、非常に良い関係が構築でき、効果が出せていると思います。

 当社の社章は、よつ葉のクローバーからデザインしたものです。そこには、社員が、仕事、家庭、趣味、信仰のバランスが取れた幸せな人生を送れるようにという創業者の思いが込められています。健康経営も、さまざまな働き方改革も、全て4つのバランスが取れることを目指したものです。それに向けて会社も健保組合も労働組合も協力して取り組むこと。それこそがダスキンの健康経営だと実感しています。

健康コラム
KENKO-column