企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

株式会社アスペア

健康経営の効果で社員の健康意識が向上

Webサービス向けコンサルティング、システム構築、運用・保守、業務支援などの事業を行っている株式会社アスペアは、1991年の創業当初から、体も心も健康で活き活きと明るく働くことができる職場環境を目指している。2019年に「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」に認定され、その後、20年、21年と3年連続で認定されている。フレックスタイム制や勤務間インターバル制度を導入し、長時間勤務にならない効率的な働き方を実現している。また、スポーツ大会への参加費の一部を支給する制度、外部講師を招いたセミナーなどを実施しており、社員の健康に対する意識が向上しているという。同社の加藤雄一代表取締役社長に話を聞いた。

【株式会社アスペア】
設 立:1991年3月1日
所在地:東京都町田市原町田1-2-3 アーベイン平本ビル2F
代表取締役社長:加藤 雄一
従業員数:20人(2021年3月末現在)

会社の創業当初から社員の健康が第一
──健康経営に取り組まれるようになったきっかけを伺います。


株式会社アスペア
代表取締役社長 加藤 雄一 さん

加藤さん ▶

 私は、会社を創業する前、IT業界でエンジニアとして働いていました。当時のIT業界は「ブラック」といわれており、深夜まで仕事をする、土日も仕事をするのが当たり前でした。

 そういった働き方を続けているうちに、体が悲鳴を上げてくるという経験をしました。「一生これが続くのか。このまま働いていると病気になるのではないか」と強く感じました。

 1991年に会社を創業することになり、「社員にはそういうつらい思いをさせたくない。体も心も健康で活き活きと明るく働くことができる職場環境をつくりたい」と考えました。

 そのため、創業直後から、時間を限定せずに働ける制度をつくりました。10〜15時をコアタイムとしたフレックスタイム制です。制度をつくるだけではなく、積極的に利用するように推奨し、実際に社員は気兼ねなく利用しています。コアタイム中でも子どもの用事があれば外出できるようにするなど柔軟に運用しています。

 当社では、お客様のところに社員がチームで常駐して仕事をしています。もちろん、労務管理は当社がしていますが、お客様のプロジェクトのチームの一員として動くため、お客様にもご協力をいただきながら、制度を運用しています。

 また、体調が悪いときは無理して仕事をするのではなく、早く帰って体調を整える。会社にとっても社員にとってもそれを優先すべきであると伝えています。

 このように社員の健康を第一に考えて会社を経営してきた中、2017年の暮れに経営者同士の勉強会に参加し、「健康経営優良法人認定制度」という仕組みがあることを知りました。19年の認定を目指し、18年から早速取り組みを始めました。

 これまでも健康経営を意識していましたから、認定に向けて大きな苦労はありませんでしたが、取り組みを体系的に整理し、文書にして社員に周知する良い機会になりました。

 経営者が1度言えば、社員に浸透するほど甘くはありません。最初は、認定にあまり関心のない社員もいましたが、これまでの取り組みの「見える化」である旨を全体会議などで何度も説明し、オンラインのコミュニケーションツールでも繰り返し伝えました。

 その結果、19年に初めて「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」に認定していただき、20年、21年も引き続き認定していただいております。

──具体的にどのような取り組みをされていますか。

加藤さん ▶

 私自身がヨガやジョギングなど運動してストレスを発散し、健康的に働いています。そうした姿を社員にみせながら、運動を推奨してきました。そうした中で、社員から提案があり、スポーツ奨励制度を創設しました。スポーツ大会に参加する際に、参加費の一部を支給する制度です。

 外部の専門家を講師に招いたセミナーも実施しています。例えば、どういった食材から順番に食べると体に良いのかを学ぶ食事の取り方のセミナー、効果的な筋トレの方法を学ぶセミナー、心のケアをするメンタルヘルスのセミナーなどです。参加した社員からは、専門家の話を聞くことができてよかったという前向きな感想がありました。

 健康診断については、総務部門の担当者から必ず受診するように強く勧奨しており、昨年も受診率100%を達成できました。また、感染症の予防接種は全額会社が負担しています。

 働き方の面では、近年、勤務間インターバル制度を導入し、長時間勤務にならないように配慮しています。有給休暇の取得を促しており、取得率が98%になった年もあります。長期休暇の取得も促しています。

 当社の基準勤務時間は1日7・5時間ですが、20年度の月平均残業時間は19・5時間であり、IT業界ではかなり短いと思います。

──喫煙対策についてはいかがですか。

加藤さん ▶

 私は若いときに禁煙しており、創業時からオフィスは禁煙にしています。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大でテレワークを開始
──健康経営の効果をどのように感じていらっしゃいますか。

加藤さん ▶

 健康経営に取り組んだことによって収益がいくら上がったというように定量的な効果を測定するのは難しいのですが、社員の健康に対する意識が確実に向上してきていると感じています。社員から、こういう運動をしていますとか、これまで運動不足でしたが、トレーニングジムに通うようになりましたという報告を受けています。

 こういった意識の変化はすぐに起きるものではなく、継続的に働きかけることが大切です。特に中小企業では、社員任せではうまくいきません。経営トップ自らが声をかけ、実践する。そして、何回も手を変え、品を変え、呼びかける。それが肝だと思います。

 運動も続けることが大事で、私はヨガを10年以上続けています。続けるコツは、家族や友人たちと一緒に始めること、それができなくても宣言してから始めることです。サボっていると、「どうしたの?」と聞かれるため、効果があります。

 社員の意識の変化という点では、メンタルヘルス関係の資格を取り、社内の健康管理の責任者になりたいという社員がでてきました。嬉しく思っています。

 当社の社員数は20人でストレスチェックの実施は義務化されていませんが、メンタルが傷つきやすい職種でもありますから、ストレスとうまく付き合っていけるように、ストレスチェックを実施できる体制を整備したいと考えています。

──新型コロナウイルス感染症の影響はありますか。

加藤さん ▶

 新型コロナウイルス感染症が発生する前に、テレワークの制度はありませんでしたが、家で仕事をしなければならないようなケースでは個別にテレワークを認めていました。例えば、小さい子どもが熱を出して帰宅したが、症状が落ち着いたので仕事をしたい。しかし、もう一度出社するのは大変、というようなケースです。

 今後、親の介護をする社員がでてくるなど、テレワークが必要なケースが増えてくるだろうと想定していたところに、国内で新型コロナウイルス感染症が発生しました。それを契機に昨年2月にはテレワークを制度として開始し、走りながら問題点を修正してきました。

 今は多くの社員がテレワークをしており、それによって分かったことがあります。家族のいる社員はよいのですが、1人暮らしの社員は、仕事上の打ち合わせ以外で人と話す機会がほとんどなく、疎外感や孤独感を感じてストレスがたまりやすいということです。

 そのため、勤務時間内に社員間で雑談をする「雑談タイム」を設け、ストレスがたまらないようにコミュニケーションを取るようにしています。また、運動不足にならないように、家の中でできる筋トレやヨガの動画などの紹介もしています。

健保組合の協力により健診結果の集団的な傾向をフィードバック
──健保組合との関係はいかがでしょうか。

加藤さん ▶

 社員は自分の健診結果は分かっていますが、それとは別に、当社の集団的な傾向を伝え、認識を高めてほしいと考え、健保組合に相談したところ、統計データをまとめていただきました。非常に助かっています。

 健康についてさまざまな角度から伝え、意識付けをすることが大切であり、統計データをもとに20歳代はこういう傾向、30歳代はこういう傾向といったようにフィードバックしています。

 また、健診の結果、再検査が必要になった社員等には、総務の担当者から必ず受けるように強くアナウンスしています。

──今後の取り組みについて伺います。

加藤さん ▶

 わが国の年間医療費は40兆円を超えており、これからも増加していくでしょう。病気になってから治療をするのではなく、できるだけ病気にならないように、日頃から気を付けることが大切です。それにより、医療費の増加をある程度は抑制できるでしょうし、本人や家族も幸せに生活ができます。

 当社は、今後もさらなる健康経営を目指し、取り組みを継続していきます。効率の高い働き方を実現し、創造性を発揮しながら、高品質な業務を提供したいと考えています。

 神奈川県で健康経営に関心のある経営者は、まだ少ないと思います。まずは、私の取り組みを同じIT業界に発信したい。健康経営に取り組む企業を増やし、社会に広げることに貢献していきます。


神奈川県情報サービス産業健康保険組合
田沼聡常務理事

神奈川県情報サービス産業健康保険組合
田沼聡常務理事(談)

 私ども「神奈川県情報サービス産業健康保険組合」は1981 年に設立され、お陰様で2021 年度に40周年を迎えることとなりました。設立当初は加入事業所62社でスタートしましたが、その後、優良な事業主様に恵まれ、現在では620社にまで拡大することができました。株式会社会アスペア様も1996年に加入いただいて以来25年間、当健保組合を支えていただいた主要な事業主様です。そして、当健保組合の各種保健事業をご活用いただき、健康経営を実現されていることは、健保組合職員として大変ありがたく、また今後より一層保健事業に励まなければいけないと痛感しているところです。

 私どもでは40周年の記念事業の1つとして、加入事業主様の健康経営をより一層サポートさせていただくため、健康経営認証取得に向けた支援事業を検討しています。認証取得に向けた申請書作成のお手伝いや、認証取得後のさらなるステップアップに向けた改善点への取り組み指導など、幅広い支援活動を計画しております。

 今後1社でも多くの事業主様が健康経営を通じて働きがいのある職場作りを目指していただけるよう、私ども健保組合も全力で知恵を絞り、お手伝いさせていただきたいと考えております。

健康コラム
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