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企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

株式会社大和証券グループ本社

「信頼の構築」・「人材の重視」・「社会への貢献」・「健全な利益の確保」を企業理念に掲げ、金融業界のリーディングカンパニーとして、イノベーションを起こし続けてきた大和証券グループ。同社では、社員の健康づくりにおいても、革新的な取り組みを重ねています。社員の健康増進を目的とした人事部・健保組合・産業保健スタッフによる三位一体の取り組みが、厚生労働省主催の「第2回 健康寿命をのばそう!アワード」における厚生労働大臣優秀賞の受賞や、経済産業省と東京証券取引所による「健康経営銘柄」の選定につながったことは言うまでもありません。同社の三位一体の取り組みについて、三者それぞれの立場からお伺いしました。

【大和証券グループ健康保険組合の概要】
加入事業所数:20事業所(2015年11月末)
加入者数:2万7731名(2015年11月末) ※被扶養者1万3446名を含む

──社員の健康づくりに力を入れるようになった背景をお聞かせください。


株式会社大和証券グループ本社
人事部 健康経営推進課長(兼)
給与・厚生課長担当部長(兼)
大和証券 人事部 安藤 宣弘さん

大和証券グループ本社 ▼

 きっかけは、2008年からメタボ健診が義務付けられたことです。メタボにどう取り組んでいくかを、人事部と健保組合と総合健康開発センター(以下、医務室)の三者で協議した際に、人間ドックや定期健診のデータ、あるいは健保組合が持っているレセプトデータなどをもとに、社員の健康について分析しました。その結果、当社グループ社員の医療費における上位3疾患は生活習慣病が占めていることが分かりました。さらに、特定保健指導の対象者が全体の14.8%を占めていることや、特定保健指導の対象外であってもリスク保有者が一定数いることが明らかとなり、前掲の三者が強く連携し、「三位一体」で社員の健康管理にあたることが必要だとの結論にいたったのです。

──医務室の体制についてお聞かせください。


株式会社大和証券グループ本社
総合健康開発センター(医務室)
看護師 増田 早苗さん

医務室 ▼

 本社ビルの医務室には、常勤の産業医が1名、保健師、看護師を合わせて6名います。このほかに、非常勤の産業医が2名おり、診療担当の医師10名が平日の午前午後、日替わりの交代制で対応しています。さらに、非常勤の精神科医が2名、カウンセラーが1名います。大阪ビルとグループ会社の大和総研にも分室があり、それぞれに産業医が1名、保健師が1~2名常駐しています。

 なお、医務室とは別に、メンタルヘルスサポート室という部署があり、そこにもカウンセラーが2名交代で常駐しています。

──保健事業としては、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。


株式会社大和証券グループ健康保険組合
常務理事 内野 宏之さん

健保組合 ▼

 保健事業は3つの柱に基づいて実施しています。

  •  1)リスクの早期発見

    定期健診、人間ドック、がん検診など。

  •  2)ハイリスクアプローチ

    保健指導、イエローペーパー、レッドケース直前にいる人に対する重症化予防など。

  •  3)ポピュレーションアプローチ

    全社員が健康づくりに向けた知識や判断力を養い、改善にむけて行動できるようになるための健康情報の発信。

 具体的に実施しているのは次の10項目になります。

  • (1)全社員を対象とした春の定期健診(5月~6月)

    受診率はほぼ100%。期間内に受診していない場合、各部署のライン部長経由で受診勧奨をする。特定保健指導も、あえて支店長や部長を通して、対象者に通知する。

  • (2)35歳以上を対象とした人間ドック(9月~翌年1月)

    標準検査のみ、5万円を上限に補助。女性は婦人科検診を含め5.5万円が上限。受診率は7割。

  • (3)乳がん・子宮頸がん検診

    全額補助。受診率3割。

  • (4)医務室での子宮頸がんワクチンの接種

  • (5)禁煙支援

  • (6)ウォーキングイベント

  • (7)グループ全社員への情報発信

    産業医や保健師から健康情報を月に1~2回程度、イントラネットでグループ全社にアナウンス。

  • (8)腹八分目プログラム(通称:ハラハチ)

    2011年以降に1087名が参加。

  • (9)医務室、職場等でのインフルエンザ予防接種(毎年10~12月)

    被扶養者を含め毎年約1万3000名が利用。

  • (10)Red Case Support Program (高血糖・高血圧等の最重症者への対応)

    イエローペーパー該当者のなかでも重症レベルが高い人たちを産業医が選び出し、保健師が電話とメールで徹底フォロー。検査内容、検査結果、処方された薬の種類、次の通院予定日等について、本人から聞き出し、本人に任せきりにせず、保健師も一緒に取り組む。

 なお、介護と仕事の両立が難しいという社員が少しずつ増えていることから、健保組合主催で介護セミナーを開催しました。同セミナーでは、介護者が知っておくと役立つ制度の話や、いざというときの相談先、介護者の心のケアなどをテーマに、講師を招いて講演をしてもらいました。参加者は50人ほどでしたが、とても有意義なものになりました。身内などの介護の必要がある状況について、会社に言わない(言いたくない)人もいるようですが、会社としては、介護離職を防ぎたいと思っていますので、こうした切り口での社員の心のケアをすることは、大切なことだと考えています。

──2015年から新たに開始した取り組みについて、お聞かせください。


株式会社大和証券グループ本社
人事部 健康経営推進課(兼)
給与・厚生課(兼)
大和証券 人事部 主任 木戸 千晶さん

大和証券グループ本社 ▼

 2015年4月から、ベテラン社員の活躍を目的に、45歳以上の社員を対象とした新しい人事制度を導入しました。これは、資格を取得したり、eラーニングでビジネスに関する知識を深めたりするなど、対象社員の自己研鑽に対してポイントを付与するというものです。このなかに健康増進のための項目も含まれています。

 健康増進関連でポイントを得る方法は具体的に3つです。

  •  1)ウォーキングキャンペーン

    健保組合が主催する本プログラムは、3カ月間の1日平均歩数が1万歩以上になると、ポイントが付与されます。

  •  2)腹八分目プログラム(通称:ハラハチ)

    医務室が主催する本プログラムは、参加希望者に記入シートが配布され、3食の達成状況を自己申告するというものです。3分の2以上がクリアできて、なおかつ体重増が2キロ未満ならポイントが付与されます。

  •  3)eラーニングによる健康知識の向上

    参加者は、健康に関する知識を高めたうえで、テストを受け、合格ラインに達していればポイントが付与されます。

 つまり、自己研鑽の一環として、健康増進にも取り組みたくなるよう、上記項目もポイント付与の対象にしたということです。付与されたポイントが一定基準に達した人については、55歳以降の給与に反映させる仕組みです。

 また、2015年10月からは、健康経営の推進体制を強化するため、以下の3つの施策を新たに開始しました。

  •  1)「CHO(Chief Health Officer:最高健康責任者)」を設置

    CHOは、当社グループの従業員の健康保持・増進に係わる業務全般を統括します。「当社グループが、経営戦略として、社員の健康保持・増進に取り組んでいくことをグループ内に示し、グループ全社が一体となって健康経営を推進するための象徴的な存在」といえます。

  •  2)「健康経営推進会議」を3カ月ごとに実施

    会議のメンバーは、CHO、グループ会社の人事担当役員、産業医、健保組合常務理事となっています。この会議を通して、社員の健康状態を把握し、健康経営における各種施策の検討、効果検証、取り組みの改善を行っていきます。

  •  3)大和証券グループ本社人事部内に「健康経営推進課」を設置

    人事部員が兼務し、当社グループの従業員の健康保持・増進に関する企画・立案及び推進を行います。

──健康増進に関する項目を、ポイント付与の対象にしたことで、どのような成果が得られたとお考えでしょうか。

健保組合 ▼

 ウォーキングイベント(ウォーキングチャレンジ)はポイント付与の制度ができる前から、健保組合主導で実施してきました。そのときは、参加者が1000人弱でしたが、ポイントを付与するようになってからは1200人くらいに増えています。また、以前は、1日1万歩を歩いている人は300人ほどでしたが、現在では1.5倍の450人以上にまで増えました。普通に通勤し、勤務しているだけでは1日1万歩にならない人が大半ですから、やはり意識して歩く努力をしなくてはなりません。そういう意味で、ポイント付与が、1日1万歩を歩くための背中を押す力になっていると思います。

医務室 ▼

 ハラハチは、その名前の通り、食べ過ぎを防ぐことを目的に実施しています。仕組みは単純なのですが、参加者からは、「シートに記入しているだけで太らない」といった声も数多く寄せられています。毎日がマル印にならなくても、腹八分目を意識しているだけで結果が違ってくるので、肥満予防には効果的だと考えています。ハラハチも、ウォーキングキャンペーンと同様、ポイント付与制度が導入される前から実施しているのですが、以前は300人程度の参加者数だったのが、現在は600人弱にまで増えていますので、やはりポイント付与が、参加者のやる気につながっていることは確かです。

──経済産業省と東京証券取引所による「健康経営銘柄」に選定された理由は、どこにあるとお考えでしょうか。


(資料A)イエローペーパー

大和証券グループ本社 ▼

 選定理由は公表されないため、明確には分かりませんが、前述の取り組みに加え、「有所見者受診確認表(通称、イエローペーパー)」の存在もあると思います。

 イエローペーパー(資料A)とは、定期健診の結果、有所見者であるにもかかわらず、放置してしまう社員に医療機関を受診させることを目的としたものです。定期健診の結果が送られる際に、医療機関の受診が必要な人には、イエローペーパーが同封されます。有所見者は、イエローペーパーを病院に持参し、医師の診察を受け、医師に所見を記入してもらいます。そのイエローペーパーは、医務室に提出することになっています。提出期限はイエローペーパーの受領後から2週間以内となっており、未提出者に対しては、医務室の保健師が徹底した受診勧奨を行います。それでも未提出のハイリスク者に対しては、人事部から有所見者の上司に連絡を入れて受診勧奨を実施します。

 イエローペーパーを同封する前は、有所見者の2割程度しか医療機関を受診していなかったのですが、イエローペーパーを同封し、提出を義務付けるようになってからは8割が受診するようになりました。

健保組合 ▼

 私どもでは、「QUPiO(クピオ)」(提供:ヘルスケア・コミッティー株式会社)というWeb版の健康増進サポートプログラムを導入しています。過去5年以上の健康診断の結果をいつでもウェブサイト上で見られるようになっています。また、本ウェブサイトでは、定期健診の結果における数値が意味することや、悪い数値を改善するためにするべきことなどを知ることができます。仮に、正常値の範囲内だったとしても、「このまま放置しておくとまずいな」とか、あるいは「5年前に比べたら歩くようになって数値が良くなっているな」というように、社員一人ひとりが自分の健康状態を把握し、改善するのに役立ててもらうことが狙いです。なお、ウォーキングチャレンジも、このウェブサイトで実施しており、参加者は歩いた歩数を、本サイトに入力することになっています。こうしたウェブサイトの活用も健康経営銘柄への選定理由の1つになっているのではないでしょうか。

──禁煙支援については、どのように実施されているのでしょうか。

医務室 ▼

 禁煙支援については、複数の方法で展開しています。1つ目は、本社ビルの医務室に設置している禁煙外来です。こちらを利用する社員の禁煙成功率は非常に高いといえます。2つ目は、海外にいる社員を含め、本社ビル以外で働いている社員など、禁煙外来を利用できない社員でも参加できるよう考案された「禁煙チャレンジ」です。これは、年に1度、参加者全員で1カ月間禁煙に挑戦しようという取り組みです。禁煙チャレンジ中の1カ月間は、保健師が毎日応援メールを送ります。過去に禁煙チャレンジに参加した人からのメッセージやアドバイスなどを添えて、励ますなどの工夫をしています。これまでに約500名が参加して、その半数程度が成功しています。3つ目は、「支店まるごと禁煙」です。これは支店レベルで実施しているもので、上司が部下に呼びかける形で実施しています。

──保健事業における課題と、その課題解消に向けた取り組みについてお聞かせください。

健保組合 ▼

 課題としては、34歳以下の、乳がん・子宮頸がん検診の受診率が3割と低迷していることです。
そこで2015年から、乳がん・子宮頸がん検診の案内と一緒に「カフェ券」を同封するようにしました。カフェ券とは、提携している健診施設の近くにあるホテルやカフェで利用できるチケットのことです。こうした健診施設に行けない人もいますから、そういう人に対しては、検診の予約をした時点で、全国展開しているコーヒーショップで利用できるプリペイドカードを送るようにしました。そうしたところ、上半期だけで、前年の通期分の人数の受診につながりました。また、受診期間についても、5月から翌3月までと、ほぼ通年受診できるようにしたことも受診者数のアップにつながっていると思います。

 なお、ハイリスクアプローチにおける保健指導については、当社では法定基準よりも、保健指導の対象を広げて実施しています。保健指導を受けた経験者を増やすことにより、社員のヘルス・リテラシー向上につなげたいとの趣旨です。

──「けんぽだより」の内容や活用方法についてお聞かせください。

健保組合 ▼

 「けんぽだより」(A4/16ページ)は、年3回の発行でしたが、今年度から年4回の発行にし、全ページ4色刷りにしました。また、健保組合、人事部、医務室の三位一体で企画・作成するようにしました。

 社員にとって、「ちょっと遠い存在」の健保組合からのお知らせに比べ、本社人事部や、本社内にある医務室の保健師や産業医の顔写真が入る冊子にすることで、より身近に感じてもらえるようになったと思います。

 とくに男性の場合は健康に対して無頓着になりがちなので、「けんぽだより」は、本人に渡す以外に、配偶者の方にも1部お送りするようにしています。健康づくりに向けた食事管理や生活習慣改善において、配偶者の方にもご参加いただきたいとの考えから、そのようにしています。

──これから新しく取り組もうとされていることがあればご紹介ください。

大和証券グループ本社 ▼

 2015年12月に当社独自の「健康白書」を発行しました。今後、定期的に発行していく予定です。「健康白書」には、CHOによる方向性の提示や産業医のコメント、健康経営の推進体制、これまでの健康増進の取り組みの成果と課題、今後の対応方針等についてまとめており、健康経営に関する社員の理解を深め、健康増進の意識を高めることでグループ全体でより効果的な取り組みにつなげていきたいです。

健保組合 ▼

 経済産業省の「平成27年度健康寿命延伸産業創出推進事業」及び厚生労働省の「レセプト・健診情報等を活用したデータヘルスの推進事業」において、私どもの取り組みが推進事業に採用されました。いわゆる、健康と労働生産性の関わりについて可視化することを目的に東京大学と一緒に研究しています。その研究結果を踏まえて、今後の保健事業の内容や展開に生かしていきたい考えです。

──健保組合としての課題はありますか。

健保組合 ▼

 2013年に保険料率を7.5%から8.5%に上げたことに加え、アベノミクス効果もあり、当健保組合の財政は今のところ黒字です。ただし、17年度から後期高齢者支援金が全面総報酬割になってきますので、決して楽観視できる状況ではないと考えています。

 当健保組合における喫緊の課題は、「人材の確保」です。データヘルス計画が開始されて以降、分析作業も兼務で行ってきましたが、できればデータ分析の専門家を配置したい考えです。

──「あしたの健保プロジェクト」に対するメッセージや国に対する要望をお願いします。

大和証券グループ本社 ▼

 事業主が社員に対して、健康づくりを推進することも大切ですが、一人ひとりが積極的に健康に関する基本的な知識を身につけ、健診結果の数値を読み解き、改善行動をするだけの力をつけることが重要だと思います。そのためには、まずは健康に対してより高い関心を持たなくてはなりません。したがって、「あしたの健保プロジェクト」でも、健康の尊さや、健康づくりへの興味・関心が高まるような情報をもっともっと発信していただきたいと思います。

健保組合 ▼

 医療費削減は国をあげて実行しようとしていることなのですから、著名かつ影響力のある人を起用するなどして、国民が健康づくりに関心を持つよう啓蒙活動を積極的に行っていただきたいと思います。

株式会社大和証券グループ本社 人事部 健康経営推進課長(兼)給与・厚生課長担当部長(兼)大和証券 人事部 安藤 宣弘さん
「取り組みの成果はさまざまな数値に現れてきています。当社グループの中年男性の体重がここ数年で減少していることは、社員の健康意識の高まりによるものと考えています。今後も三者で力を合わせ、社員の健康増進に注力していきます」

株式会社大和証券グループ本社 人事部 健康経営推進課(兼)給与・厚生課(兼)大和証券 人事部 主任 木戸 千晶さん
「会社が健康増進に力を入れていることは徐々に浸透しているように思います。社員がいきいきと元気に働けるように、効果的な施策を考えていきたいです」

株式会社大和証券グループ本社 総合健康開発センター(医務室) 看護師 増田 早苗さん
「受診勧奨や保健指導の対象者のなかには、『連絡をくれたから重い腰があがった』と話す社員もいます。社員にとって、なんでも相談できるような身近な存在でありたいと思っています」

株式会社大和証券グループ健康保険組合 常務理事 内野 宏之さん
「保健事業では、スポーツジムを利用した保健指導を行うなど新しい取り組み行っております。今後は、各事業の効果測定をしながら、継続すべきものとそうでないものとを見極め、社員の健康づくりに効果のある事業を実施していきます」

健康コラム
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