企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

凸版印刷株式会社

やる気・元気・本気の3つの「気」を重視し 健康経営を推進

「印刷テクノロジー」をベースに「情報コミュニケーション事業」「生活・産業事業」「エレクトロニクス事業」を幅広く展開する凸版印刷株式会社は、「健康経営銘柄2021」に選定され(2018年に続き2回目)、「健康経営優良法人2021(ホワイト500)」にも選定されている(17年から5年連続)。同社では、従業員・家族の健康の保持増進のため、生活習慣病リスクの低減、健診・検診受診率向上等のKPI(重要業績評価指標)を設定し、事業所ごとの健康課題をデータにより把握して、対策を講じている。同社の健康経営の取り組みについて、凸版印刷株式会社人事労政本部労政部長の奥村英雄さん、トッパングループ健康保険組合専務理事の加藤博信さんに話を聞いた。

【凸版印刷株式会社】
設 立: 1900年1月
本 社: 東京都文京区水道1-3-3
代表取締役社長: 麿秀晴
従業員数: 連結52,401人
(2021年3月末現在)
2015年10月に「健康経営宣言」

──生活習慣病リスクの低減等でKPIを設定


凸版印刷株式会社
人事労政本部労政部長
奥村 英雄 さん

奥村さん ▶

 当社では、創業以来、「人間尊重」の基本理念に基づき、従業員の健康に関するさまざまな取り組みを、会社および健保組合を中心に進めてきました。積極的に挑戦する「やる気」、心身ともに健康で活力に満ちた「元気」、最後までやり遂げる「本気」という3つの「気」を重視し、この3つの「気」を持って仕事に取り組むためには、従業員が心身ともに「健康」な状態であることが必要という観点で、2015年10月に社長名による「健康経営宣言」を制定しました。これは、当社全従業員さらにはトッパングループ全体に対しての宣言となります。

 宣言には、従業員とその家族の健康づくりを推進していくことと、当社が実施する健康関連事業により広く社会に貢献していくことの2つの軸があります。

 具体的には、①職場の活性化施策や、幅広い健康施策に積極的に取り組むことで、心身の健康を保持・増進する、②「こころ」と「からだ」のコンディションを整え、一人ひとりのパフォーマンスの向上を図る、③安全教育やリスクアセスメント活動を強化し、労働災害を減少させる、④健康診断受診及びその結果に基づくフォローアップの徹底により、従業員とその家族の疾病を予防する、⑤糖尿病や高血圧症等を中心とした重症化予防に取り組む、⑥労働時間短縮、年休取得促進、育児・介護支援等、仕事と家庭の両立への取り組みを推進する、⑦会社、健康保険組合をはじめ、トッパンが持つ様々なノウハウ・機能を活用して、健康で安心な社会づくりに貢献するヘルスケア領域の事業を推進する、という7つの重点項目があります。

 当社では19年11月に「TOPPAN SDGs STATEMENT」を策定・公表しました。そのマテリアリティ(最重要目標)には、「全社活動マテリアリティ」「事業活動マテリアリティ」の2つの軸があり、「全社活動マテリアリティ」の中に、「従業員の健康・働きがい」を盛り込んでいます。この中で、70歳まで健康で働くためにはどうあるべきかという観点で、肥満リスク、高血圧リスク、糖尿病リスク、脂質リスク、婦人科検診受診率、家族特定健診受診率の各目標値を設定して、対外的にも発表しています(表)。これらは、健康経営推進のためのKPIとして、30年までの目標を設定しています。


トッパングループ健保組合
専務理事 加藤 博信 さん

加藤さん ▶

 「健康経営宣言」以前から、コラボヘルス的な取り組みはありましたが、宣言によって、「コラボヘルス」あるいは「データヘルス」について、会社と健保組合の間で改めて認識を共有することになりました。宣言を機に、会社と健保組合の連名の「トッパンの健康経営ハンドブック」を全従業員に配布し、コラボヘルスに取り組む方針を明確に示しました。

 当健保組合では、52カ所に診療所を設置し、全国にある140事業所の従業員の健康をサポートしてきました。その意味で、もともと全国の事業所ごとにコラボヘルスの土壌があったのだと思います。診療所には全国で80人程度のスタッフを配置しています。また、各事業所の総務系の担当者を「ヘルスケア推進委員」として委嘱し、それぞれの事業所において〝現場中心〟の取り組みを展開しています。

 「データヘルス」に関しては、従来は紙ベースのデータで、有効活用されていない面がありましたが、健康経営に本格的に取り組む中で、健保組合において健診データ等を集積、分析し、それを見える化して、各種施策や個人への働きかけなどに活用しています。もちろん個人ごとのフィードバックも行っていますが、「事業所ヘルスケアReport」を作成し、事業所の従業員の健康度レベルを正しく数字で理解していただいています。課題や問題点をデータによってピンポイントで把握することで、事業所としての具体的なアクションにつながっています。

──家族の特定健診受診率向上に注力

奥村さん ▶

 健康経営推進の体制に関しては、代表取締役社長が「健康経営責任者」となり、人事・総務担当役員・副社長は健保組合の理事長を兼務しており、「健康経営推進責任者」として各種施策を牽引しています。そして、会社の人事労政担当部署と健保組合による「健康経営推進協議会」を設置し、各事業所や診療所、関連部門と連携して、生活習慣病のリスク低減、働き方、安全衛生、労働災害対策等のさまざまな施策を検討し、健康経営施策として実行しています。

 特徴的な取り組みとして、家族の特定健診受診率の向上に力を入れています。従業員の健康は当然のことですが、やはり家族の健康があって初めて従業員の生産性も向上し、生き生きと働くことができる。その結果として、会社の業績向上にも貢献するものと考えています。

 家族の特定健診受診率100%を目標として受診促進に取り組んでおり、2019年の当社の家族特定健診受診率は83%弱となっています。

加藤さん ▶

 家族の特定健診の受診状況について、健保組合で毎月集計しています。それを各事業所にリアルタイムで報告し、それをもとに従業員を通じて働きかけをしていただいています。この取り組みで特定健診を受診して、乳がんがみつかった例もあります。早期検査・早期受診・早期治療につながる重要な取り組みと考えています。

奥村さん ▶

 本社のようにデスクワーク中心の職場もあれば、工場もあり、事業所によって従業員の構成もかなり異なっていますので、健康経営のKPIの進捗状況には項目、事業所によってばらつきがあります。このため、例えば、女性の多い職場では、女性特有の疾病に対する取り組みを強化するなど、それぞれの事業所の状況に応じたヘルスケアプランを作り、さまざまな取り組みを進めています。

 デスクワークが多い本社では、心身のリフレッシュのため、「本気(マジ)のラジオ体操推進活動」に取り組んでいます。各部署から推進リーダーを選出し、健康運動指導士による体操指導を実施した上で、全フロアで教室を開催して、推進リーダーが中心となって従業員へ浸透を図りました。

加藤さん ▶

 健保組合の主催で、「トッパングループ健保ヘルスケアアワード」を実施しています。各事業所で実施している健康づくり活動を表彰するものです。本社の「本気(マジ)のラジオ体操推進活動」は19年度の優秀賞となりました。こうした表彰を行うことも、各事業所、個人個人の健康づくりへの「やる気」につながっていると思います。

──在宅勤務の増加に対応した取り組みを

奥村さん ▶

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、当社では緊急事態宣言下において工場を除き在宅勤務率7割を目標としています。

 特に今の新入社員は在宅勤務が入社時から当たり前の状況になっていますので、そうした状況に対応した健康づくり対策が必要と考えています。オンラインでのラジオ体操を実施したり、新入社員のオンライン研修の際には、休憩時間に運動をしてもらうようにしました。

 また、睡眠、食事・飲酒、運動の状況を把握するコンディションアプリを活用して、適切なコンディション管理の習慣化を促す指導もオンラインで実施しています。

 今後の課題として、いかに重症化を防ぐのか、早期発見するかが重要であり、これらには健保組合とのコラボヘルスの取り組みが欠かせません。

 また、健康経営推進の観点で、喫煙についても難しい課題です。個々人の嗜好と受動喫煙防止の両立の是非も含めて、会社としてどのような施策を講ずるべきか、引き続きの検討課題です。

加藤さん ▶

 糖尿病リスクに関しては、重症化することによりQOLが低下しますので、生活習慣病健診の糖尿病検査、腎症検査の数値をマトリックス化して、全員をプロットしています。これに基づきターゲットを絞って指導や受診勧奨を徹底しています。取り組みの結果、数値が改善した方も少なくありません。効果も上がっていますので、重症化予防の観点で今後もしっかりと取り組むこととしています。

 メンタルヘルス対策についても重要な課題と認識しています。目に見えない部分もありますし、今後は新型コロナウイルスの影響も心配されます。健保組合として、P(身体:Physical)・M( 食事:M e a l)・M( 心:Mind)活動ということで、適度な運動、バランスの取れた栄養・食生活、心の状態のメンテナンスの取り組みを進めています。この一環として、森林セラピーによる心身リフレッシュ活動など新たなチャレンジも行っています。こうした活動を含め、心身ともに健康になれるようなメソッドを提供していきたいと考えています。

奥村さん ▶

 2019年10月に、日本電信電話株式会社、三菱地所株式会社、株式会社ルネサンスとの4社共同で「健康長寿産業連合会」を設立しました。産業間交流やヘルスケア事業の振興など、業種や業界を超えた活動を推進することとし、データヘルスや健康経営等についてワーキンググループを設けています。健康で安心な社会づくりへの貢献の観点で、将来的には関係省庁への発信、提言も行っていきたいと考えています。

健康コラム
KENKO-column