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企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

古久根建設株式会社

健康管理を個人任せにしない強力なトップダウンで健康経営を推進

今年創業125周年を迎えた総合建設業の古久根建設株式会社。2016年7月に鈴木眞一社長が健康経営宣言を行い、安全衛生委員会と長時間労働削減にかかる検討委員会の2つの組織を設置して、データに基づきPDCAを回しながら健康経営の取り組みを着実に推進してきた。その結果、17年度から3年連続で「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」、18年度から2年連続で東京都の「健康経営優良企業:金の認定」を受けている。同社の健康経営の取り組みについて、古久根建設取締役副社長・佐々木寛さん、取締役管理本部長・鹿野浩美さん、安全環境部長・小和田雅一さん、安全環境部長付・小高康一さん、東京都土木建築健康保険組合常務理事・嶋田行伸さん、健康管理課長・横山真一さんに話を聞いた。

【古久根建設株式会社】
創 立:1946年8月(創業1895年)
本 社: 東京都文京区音羽一丁目1番1号
代表取締役社長:鈴木眞一
従業員数:153人(2020年4月現在)

──個人任せでは社員を守れない トップダウンで健康推進


古久根建設取締役副社長
佐々木 寛 さん

佐々木さん ▶

 当社は今年、創業125周年を迎えました。会社も社会情勢もさまざまなことがあって今に至っているわけですが、『豊かな暮らしとともに「生きる」を支える』サービスをいかに提供していくかが当社の使命と考えて企業活動を行っています。草創期から「企業は人なり」という社員を大切にすることが経営指針の根底にあり、いわば家族的な一体感のある企業風土があります。

 健康経営を推進するにあたっては大きなターニングポイントがありました。2015年末から16年にかけて現場所長がくも膜下出血で倒れたり、糖尿病の悪化によって人工透析治療が必要になるということが相次ぎ、会社として貴重な人財を失うことになりました。

 このとき「健康は個人任せにしておけない。個人任せでは社員を守れない」という強い思いから、16年7月に社長が社員に対して健康経営宣言を行い、社員の健康第一という風土を醸成して、健康でいきいきと働ける環境づくりをしていこうと、本格的に健康経営に取り組み始めました。安全衛生委員会と長時間労働削減にかかる検討委員会の2つの組織がエンジンとなって健康経営を推進しています。


古久根建設取締役管理本部長
鹿野 浩美 さん

鹿野さん ▶

 現場所長が倒れるという大きな出来事の後すぐに、会社の費用負担で40歳以上は3年に1回、脳ドックを受けるようにしました。一方で、建設業界は残業が多く、休みが少ないという問題があったので、16年11月に長時間労働にかかる検討委員会を設置し、管理部が主体となって運営しています。

 毎年「休みをとろう!プロジェクト」を展開し、土曜日の月1回閉所、4週5閉所・6休の達成、計画的な休暇取得等を推進しています。各現場でそれらの実施を徹底してもらうために、完全閉所実施日に「〇印」を付けるようなカレンダー付きポスターを作製して配布し、目立つところに貼ってもらっています。

小和田さん ▶

 会社のトップである社長は、慰労を兼ねて全国の現場を視察に廻って状況を確認しています。安全環境部としてもパトロールで現場を廻ったときも、ポスターを見ながら休みが取れているか確認するなどして、コミュニケーションを図っています。それと大事なことは、休みを取るには協力企業の存在が不可欠になってきますので、ポスターの掲示は理解促進にもつながっています。

鹿野さん ▶

 健康優良企業や健康経営優良法人の認定については、当社は従来から全員健康診断の受診やラジオ体操の実施等に取り組んできていて、ある程度の基盤があったので、それを体系化、明文化することで取得できたのだと思います。


東京都土木建築健保組合
常務理事
嶋田 行伸 さん

嶋田さん ▶

 健保組合としては、健診結果等のデータを分析して、医療費や疾病統計、健診受診率や特定保健指導実施率等のデータなど、健康経営推進の基礎資料を提供して活用いただけるように努めています。「健康スコアリングレポート」では建設業界の傾向として飲酒、喫煙の項目が悪い状態にあります。

 やはり、長時間労働で休みが不規則等の業界特有の環境も影響するのだと思います。保健事業を充実させて活用していただくことで加入者の健康保持・増進につながるよう、地道に支援することが健保組合の役割だと考えています。

──健康経営計画を策定 6つの重点施策を推進


古久根建設安全環境部長
小和田 雅一 さん

小和田さん ▶

 健康づくりに関しては「古久根建設健康経営(健康づくり)計画」を策定し、重点施策と数値目標を設定して取り組んでいます。今期の重点施策は6つ掲げています。

  1. 健康診断の有所見率の改善(有所見率55.5%以下)
  2. 感染症対策の強化(新型コロナウイルスの罹患者ゼロ)
  3. メンタルヘルス教育の強化
  4. 過重労働対策の推進(残業削減、4週5閉所・4週6休100%)
  5. 生活習慣の改善(喫煙率35%未満、睡眠時間5時間未満ゼロ)
  6. 健康優良企業の認定を継続取得

 新型コロナウイルス感染症の罹患者は発生していませんが、今期初めて感染症対策を重点施策に設定しました。マスク着用や手洗い徹底等の感染予防対策、テレワークやテレビ会議など3密を避けた勤務体制の実施等を推進しています。

 また、現場では、非接触型体温計を購入して、入場時の体温測定と体調を日々記録して確認するほか、朝礼は職長のみにするなど人数を制限し、安全関係の月毎の行事を中止するなどして感染防止対策をとっています。


古久根建設安全環境部長付
小高 康一 さん

小高さん ▶

 従来からの健康課題の1つは喫煙率が高いことで、現在の喫煙率は41%です。安全衛生委員会で「2のつく日」(2日、12日、22日)を「スワン日(禁煙デー)」と定めて、現場での実施を呼び掛けています。

嶋田さん ▶

 コロナ禍の影響で延期になっていますが、健保組合では今後、喫煙者の被保険者にニコチンパッチを提供する禁煙プログラムを実施する予定です。

佐々木さん ▶

 本社は全面禁煙ですが現場はなかなか難しい状況があります。ただ、会社が取り組みを続けていけば喫煙者も意識が変わってくると思います。

──「健康スコアカード」を活用し健康行動を促す

小和田さん ▶

 生活習慣改善については「健康スコアカード」を実施しています。これは、①睡眠(よく眠れたか)、②食事(おいしく食べたか)、③体調(体調は良いか)、④運動(体を動かせているか)、⑤喫煙(スワン日を守れているか)、また睡眠時間や朝食の状況、血圧測定の実施について、毎月チェックをして所属長に提出するというものです。「健康スコアカード」を所属長が見て、例えば睡眠が十分取れていないようであれば相談にのったり、業務内容の変更を検討する等に活用してもらっています。

 また、「健康スコアカード」には喫煙者に禁煙予定の有無を記入してもらう欄も設けています。喫煙率の目標は35%未満で、7名が禁煙すれば達成できる計算です。今期は「禁煙予定有り」という社員が14名いましたので、まずは集中的に禁煙支援を進めていこうと考えています。

小高さん ▶

 「健康スコアカード」は、眠れているか、体調はどうか、上司から声を掛けて聞くきっかけをつくろうというものです。ストレスチェックで高ストレスと判定されても面接指導を申し出る人はいないのが現状で、「健康スコアカード」を介したコミュニケーションで早めの対応につなげられればと思っています。睡眠時間5時間未満をなくすことはトップからの強い要請でもあり、5時間未満ゼロを目標に推進しています。

──達成状況を毎年度評価しPDCAを回す

小和田さん ▶

 健康経営の目標の実施状況は毎年度、結果を集計して評価を行い、次年度の目標設定につなげています。安全活動のマネジメントシステムと同様にPDCAを回して、できることから徐々に良くしていこうと取り組んでいます。目標の実施結果や健診データを全産業の平均値と比較して全社員に配付し関心を持ってもらえるようにしています。

小高さん ▶

 当社の有所見率は全産業平均に比べて高い状況にあり、特定保健指導は生活習慣病予防として対象者は本社で全員受診するようにしています。また、健保組合の研修会等に参加し、いろいろな行事を体験させていただいて、健康づくり施策に生かしています。

 そして健康経営が絵に描いた餅にならないように社員には年1回、行動変容調査を行い、その内容が伝わっているか確認しています。また、パトロールの際に声掛けをして実態や課題を把握しながら取り組みを進めていくことが大事だと思っています。

嶋田さん ▶

 特定保健指導も会社として取り組むところまでもっていくのが大変です。健保組合のデータヘルスと企業の健康経営は車の両輪。コラボヘルスが大切だと考えています。古久根建設さんが「健康優良企業:金の認定」を取得されたことを当健保組合の広報誌で紹介させていただきました。そのおかげで、健康優良企業の認定取得に向けて取り組む加入事業所が徐々に増えてきています。

小高さん ▶

 配偶者の健診受診率が低いので、社長名で配偶者宛てに「健診を受けましょう」という通知を出したこともあります。

鹿野さん ▶

 健康経営については年2回発行の社内報で毎回取り上げていますし、健康優良企業や健康経営優良法人の認定によって社員の健康に対する意識は高まってきていると思います。また、対外的にも良い印象を持っていただけていると思います。

佐々木さん ▶

 健康経営の取り組みを浸透させるには、会社の本気度を伝えることが重要。繰り返し社長からメッセージを発信しています。最近は新入社員に喫煙者が多いのですが、研修で健康経営について認識してもらった上で現場に入ってもらおうと考えています。健康経営の取り組みを成功させる鍵は、トップダウンで経営層が主導していくことだと思います。

健康コラム
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