企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

三菱電機株式会社

三菱電機グループでは、事業主・労働組合・健康保険組合の3者が一体となり、健康経営に取り組み、高い効果をあげています。同グループのユニークな活動について、三菱電機健康保険組合の伊藤公泰常務理事と、三菱電機株式会社の人事部・安全健康グループマネージャーである佐藤宰さんにお話しいただきました。

【三菱電機健保組合の概要】
加入事業所数:130事業所(2014年3月末)
加入者数:23万5301名(2014年3月末)

──御社ではいつから、どういった理由で従業員の健康づくりに取り組んできたのでしょうか。


三菱電機健康保険組合 伊藤 公泰 常務理事


 従業員の健康に配慮した経営は、歴代の社長が「企業における最大の経営資源は人材である」としてきたことにあります。したがって、従業員の健康づくりに関する取り組みは、1970年代から始まっており、当社の社風の1つだといっても過言ではありません。2012年7月に開催した「三菱電機グループ安全・健康大会」では、当時の執行役社長である山西自身が、「従業員の安全と健康を最優先で守ります」と公言しています。

──厚労省による「第1回健康寿命をのばそう!アワード」において、御社の「三菱電機グループヘルスプラン21(MHP21)ステージⅡ」が厚生労働大臣賞優秀賞を受賞されています。MHP21の内容ついて教えて下さい。


三菱電機株式会社 佐藤 宰 
人事部・安全健康グループマネージャー

 MHP21とは、「生活習慣 変えてのばそう 健康寿命」をスローガンにかかげ、事業主・労働組合・健康保険組合の3者が一体で取り組んでいる協働事業です。2002年から開始した取り組みですが、現在23万人を超える加入者の皆さんが自らの食生活や運動、休養、嗜好などの生活習慣を主体的に見直し、「生活の質(QOL)の向上」と「健康企業」の実現に努めています。特徴としては、現時点で健診結果に異常は見られないものの、今の生活習慣が生活習慣病を引き起こす可能性のある人も含めて取り組んでいる点です。
 一定の年月が過ぎると目標設定は変わってきますので、MHP21は2011年度で一度区切りをつけました。2012年4月から新たにMHP21ステージⅡとして、5カ年計画の活動を開始し、今、ちょうど折り返し地点を過ぎたところです。MHP21開始当初は、健康づくりのための「支援運動」でしたが、ステージⅡになってからは、健康づくりのための「事業」として、より本腰を入れて取り組んでいます。

 具体的には、次の5項目において全体での目標値を定め、その実現に向けたさまざまな施策を健保組合が主体となって実施しています。
適正体重:適正体重を維持している人の割合を73%以上にする。
 【施策例:「毎日体重を計ろう月間キャンペーン」「会社給食にヘルシー食の導入」など】
運動習慣:継続して1回30分以上の運動を週に2回以上実施している人、または1日平均1万歩以上歩いている人の割合を39%以上にする。
 【施策例:「スポーツクラブ月会費補助」「WEB歩数計によるウォークラリー」など】
喫煙率:喫煙者の割合を20%以下にする。
 【施策例:「禁煙推進ポスターの配布」「禁煙プログラムの促進」など】
歯の手入れ:1日3回以上歯の手入れをする人の割合を25%以上にする。
 【施策例:「歯科検診の推進」「歯の手入れセット配布」など】
ストレスレベル:ストレスレベル(偏差値)を50未満にする。
 【施策例:「メンタルヘルス教育」「体験カウンセリングの導入」など】

ほかにも、事業主・労働組合・健保組合の代表およそ300名が一堂に会し、安全と健康に関する考えを共有する「健康大会」の実施や、MHP21のポスター掲示など、総体的な施策にも力を入れています。

──MHP21に取り組まれて12年、ステージⅡ開始からは2年半が経過しましたが、その成果はいかがでしょうか。また、目標達成に向けて、何か工夫されていることがあれば教えて下さい。

 目標達成にはまだ時間と努力が必要ですが、MHP21開始前の2001年と10年後の2011年を比較すると、ほとんどの項目において、大きな成果をあげています。運動習慣者の割合は11.7%から16.2%に、歯の手入れをしている人の割合も13.3%から20.5%に上昇しました。喫煙者率においては、10年で40%から27.5%まで減少しています。
 工夫していることは、各事業所で課題を洗い出し、目標を設定するようにしている点です。目標を達成するための手段も、各事業所に委ねています。事業所内の課ごとで月間平均歩数を競い合ったり、広い工場の敷地内にスタンプを設置し、スタンプラリーができるようにしたりと、事業所によってさまざまな工夫が見受けられます。優れた成績をあげた事業所や、前年比で成績の伸び率が良かった事業所を表彰し、さらなるやる気につなげています。なお、課題は個人で異なることから、個人目標の設定を推奨しており、年度の始めには、各自がカードに目標を記入するための「MHP健康宣言カード」を社員全員に配布しています。目標を達成した場合には、個人も表彰するようにしています。

──MHP21への取り組みは、保険給付費へどのような影響を与えていますか?

 下のグラフは、三菱電機グループがMHP21に取り組む前の2001年度を基準年度として、他社の保険給付費の平均伸び率と同率で三菱電機健保組合の保険給付費が推移した場合を示したものです。

 グラフを見ると、MHP21に取り組んで4年目の2005年度から、保険給付費が大きく下がっていることが分かります。2010年度までの9年間で削減できたと推測される医療費は70.4億円にのぼります。

──今後の抱負と、「あしたの健保プロジェクト」へのメッセージをお願いします。

 MHP21の最大の目的は「従業員の健康」ですが、それと同時に、予防が可能な生活習慣病や口腔における疾病の予防対策をすることで、医療費を抑制することも重要な目的の1つです。しかし、高齢者医療に対する拠出金など、健保組合の努力ではどうにもできないものもあります。国への拠出金は年々増加していることから、医療費抑制の努力をしているにもかかわらず、健保組合財政は非常に厳しいのが現実です。そうは言っても、健保組合の使命は従業員の健康を守ることですから、保健事業費を削ることは本末転倒の結果を招きかねません。したがって、健保組合としては、これまでの施策を見直しながら、効率的で効果のある保健事業に特化して実施していきたいと思っています。
 健保連には、「あしたの健保プロジェクト」を軸に、より大胆に周知活動をしていただきたいと思います。保険料率が毎年上がっている実態と、その理由について、正しく認識できている国民は半数以下だそうです。つまり、国民の半数が、納めている保険料の半分が、国への納付金であることを知らずにいるのです。まずは、そこを正確に知っていただくことが「あしたの健保プロジェクト」の第1歩ではないでしょうか。私どもも、企業レベルでできる最大限の努力をしていきますので、健保連は、国への働きかけなど、健保連にしかできない取り組みにご尽力いただきたいと思います。

 三菱電機健康保険組合 伊藤 公泰 常務理事
「加入者の皆さんが『やらされている感』で取り組むのではなく、『自身の健康づくりのために』という気持ちで取り組むことが大切です。そのために、健保組合もさまざまな施策を通して加入者の皆様をしっかりとサポートしていきます」

 三菱電機株式会社 佐藤 宰 人事部・安全健康グループマネージャー
「当たり前のことですが、健康であってはじめて、最大で最善のアウトプットにつながるのだと思います。それがひいては企業の業績につながるのですから、従業員の健康を守ることは、会社としても大切なことだと考えています」

健康コラム
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