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企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

昨今、「従業員の健康=企業の重要な資本」との考え方のもと、健康経営を実践する企業が増えています。「企業・健保訪問シリーズ ~健康経営 事例紹介~」では、さまざまな工夫で健康経営に成功している企業をご紹介していきます。

企業・健保訪問シリーズ
~健康経営 事例紹介~

大和ハウス工業株式会社

 1955年に創業した大和ハウス工業株式会社は、創業商品「パイプハウス」やプレハブ住宅の原点となる「ミゼットハウス」を開発して以来、戸建て住宅を中心に、賃貸住宅、マンション、商業施設、物流施設、医療施設などを供給してきました。2017年11月現在、全国82事業所、工場は9カ所となっており、国内最大手のハウスメーカーです。社名に込められた「大いなる和をもって経営にあたる」という創業者、石橋信夫氏の想いに応えるかのように、事業主と健保組合が手を取り合って従業員の健康を守る同社にお話を伺いました。

【大和ハウス工業健康保険組合の概要】
加入事業所数:42事業所(2017年3月末)
加入者数:98,261名(2017年3月末) ※被扶養者47,995名を含む

──どのような理由から、社員の健康づくりに力を入れ始めたのでしょうか。また、健康経営銘柄の取得につながった取り組みについてお聞かせください。


大和ハウス工業株式会社
人事部 次長 山下 裕 さん

大和ハウス工業 ▼

 創業時から掲げられている当社の企業理念の1つに「企業の前進は先づ従業員の生活環境の確立に直結すること」とあります。健康でなければ「生活環境の確立」はありえませんから、この創業者の想いを実現していくためにも、社員の健康づくりは大切であると考えました。

 また、健康経営に関する取り組みをされている他社様を、テレビ番組を通して知ったことが、1つのターニングポイントになったといえます。あるとき、前社長から人事部担当役員宛に「当社の社員に対して何か健康管理対策を行っているのか」といった問い合わせがあったのです。健保組合が健診の結果を持っていることは分かっていましたが、正直なところ、個人情報である健診の結果に対して、事業主が関与することに抵抗がありました。しかし、社員が心身共に健康であることは、本人の財産であり、会社の財産でもあり、経営にも直結することであると考えを改め、2015年から健保組合の力を借りて、社員の健康づくりに積極的に取り組むようになったのです。

 なお、健康経営銘柄の取得については、社員の健康づくりに本格的に取り組み始めて、まだ2年ということもあり、当社が取得できるとは全く思っていませんでした。健康分析システムを導入し、活用していることが高く評価されたのだと考えています。

──保健事業の内容についてお聞かせください。また、それに対する社員の皆さんの反応はいかがですか。

大和ハウス工業 ▼

 被保険者の健診受診率は、4年連続で100%を達成しています。今は、二次健診の受診を100%にすることを目標としています。

 また、データヘルスの観点から、健保組合と協力し、健診結果を分析しています。具体的には「健康分析システム」を導入し、人事で持っている属性などのデータを、問診から得られる生活習慣や健診の結果と突き合わせ、各事業所単位で数値化し、スコアを出しています。これにより、属性ごとの傾向が把握でき、生活習慣上の改善ポイントを明確にすることができます。例えば、健診スコアについては、「BMI」、「腹囲」、「血圧(収縮期と拡張期)」などの7項目を、生活習慣スコアにおいては「喫煙習慣」、「運動習慣」、「飲酒頻度」、「睡眠時間」などの10項目をそれぞれポイント化し、事業所単位で総合点を算出しています。各事業所が、全国でどの位置にいるかも分かるようになっており、事業所ごとで競い合いながら、保健事業に取り組んでもらうための仕組みです。事業主としては、各事業所で行われる保健事業に、一定の割合で補助金を出しています。保健事業の内容は、事業所ごとで異なりますが、体組成計や血圧計といった健康器具を購入し、共有スペースで社員が自由に測定できるようにするといった取り組みやすいものから、外部から講師を招いてセミナーを開いたり、スポーツ大会やウォークラリーを開催するといったものまで、多岐にわたります。

 メンタルヘルスに関しては、新入社員の研修時に、セルフケアの講義を入れるなどしています。マネージャー層を対象としたラインケアの講義は、現状では新任責任者の研修に導入していますが、今後はその他の研修にも拡げていく予定です。

 なお、社員の反応については、まだアンケートなどを実施してないため具体的な声は拾えていませんが、事業所からは「こんな保健事業をしたい」といった前向きな相談が数多く寄せられていますので、社員の反応も良いものと思っています。

──保健事業の運営は、事業所内のどの部署が担当しているのでしょうか。

大和ハウス工業 ▼

 各事業所の総務責任者に、健康分析システムの結果を通知しています。総合点はもちろん、全社的にどの位置にいるかまで、細かく通知します。特に生活習慣の項目においては、その項目ごとに数字が出るため、どこが最大の弱点なのかが一目で分かります。例えば、「朝食を食べる率が低い」とか「平均よりも睡眠時間が短い」といったことが分かるため、それを踏まえて保健事業の内容を総務の責任者が中心となって企画、検討していく流れです。各事業所で組織している安全衛生委員会を通じて社員の意見を募ることもあります。

──健保組合としては、どのような保健事業に取り組んでいますか。


大和ハウス工業健康保険組合
常務理事 間野 尚志 さん

健保組合 ▼

 特別なことではありませんが、健康の基本ということで、定期健診(特定健診)には力を入れてきました。健診の受診率を100%にするには、少しでも受診しやすいほうがいいと考え、健診車が各事業所まで出向き、健診を行う巡回形式を採用しています。健診項目も充実させ、オプションで、腹部エコー、頸動脈エコー、大腸がん、PSA、肝炎ウィルス、乳がん、子宮がんなどを選択できるようにしました。人間ドックに近い健診を受けられるようにすることで、早期発見、早期治療につなげたい考えです。

 ただし、二次健診も100%にしていかないと、せっかく異常値を発見しても無駄になってしまうため、健診結果を送付する際の封筒に、医師による紹介状と二次健診を受診したかどうかを問うアンケート用紙を同封しています。二次健診の受診率については、大和ハウス工業だけならほぼ100%達成しているのですが、グループ全体ではまだ62%のため、100%を目指していきたい考えです。

 また、社員が健康かつ安心して仕事をするためには、家族の方の健康も重要ですから、家族健診についてはまず受診率80%を目標とし、工夫しながら取り組んでいます。「健診に行ってください」と言うだけではなかなか受診率が伸びないため、今年に限っては、特別キャンペーンで、受診者にはインセンティブとして家庭常備薬の購入ポイント(500円分)を進呈しています。

 そして、特定保健指導にも力を入れています。大和ハウスグループでは、約5万人いる加入者のうち、約6,000人がメタボ・予備群に該当しており、委託している医療法人あけぼの会の保健師・管理栄養士と健保が一緒に地道に全国を回り、今年度は約4,000人に対して特定保健指導を実施しています。

──特例退職者に対して、ユニークな取り組みをされているそうですが、具体的な内容についてお聞かせください。また、新しい取り組みについてもお聞かせください。

健保組合 ▼

 当健保組合は、特例退職被保険者制度を導入しており、退職後も加入し続けることができるため、前期高齢者の方の割合が非常に多いという特徴があります。この前期高齢者の方々の健康を維持、促進することも重要との考えに基づき、平成10年度から実施しているのが「シルバーエイジ健康管理セミナー」です。グループ会社が運営するリゾートホテルで、年に1度、健康をテーマとした研修を2泊3日で実施しています。講師による座学以外に、ホテルの料理長と管理栄養士のコラボした低カロリーのレシピや調理実演があったり、実際に体を動かすウォーキングなど、参加者はとても健康的な2泊3日を過ごします。ちなみに今年は、滋賀県長浜市にある長浜ロイヤルホテルにて、124人の参加者を対象に、認知症予防をテーマにセミナーを実施しました。

 新しい取り組みとしては、「健康ランキング」があります。特定保健指導に力を入れてきた結果、特定保健指導対象者の出現率は減っているのですが、社員の増加に伴い、人数そのものは減らないという状況に直面しています。そこで、事業主は組織をランキングする健康分析システムを導入し、健保組合は自分の健診や問診結果がどの位置にいるかを閲覧できるホームページサイトを準備しました。いずれのランキングも、加入者に競争意識を持ってもらい、全体の健康レベルを底上げすることが狙いです。また、「健康チャレンジ」というサイトも作成しました。これは、運動と食事から1つずつチャレンジ項目を選び、それを達成できたか否かを毎日記録していくというものです。期間中8割を達成した人は、今後、表彰する予定です。ただ、参加率はまだまだ低いので、インセンティブについても工夫しながら、より多くの社員を巻き込んでいきたい考えです。

──データヘルス計画において、重点的に実施していることはありますか。

健保組合 ▼

 取り組みやすいことから地道に始めようということで、まずはコラボヘルスの第一歩として職場環境の整備に取り組んでいます。具体的には、健保組合も安全衛生委員会に出席し、取り組み内容を決定しています。例えば、VDT(Visual Display Terminal)作業については、パソコンを使う従業員の多くが肩こりや目の疲れといった不調を訴えることから、事業主も気にしていることでした。そこで人事部では、本社ビルの従業員にアンケートを行い、その結果を、産業医が点数化し、それぞれの部署に対して、具体的な対策を提示しました。その後職場巡回を月に1度行い、少しずつ職場の環境改善に努めています。

 また、海外勤務者の健診についても、コラボヘルスで取り組んでいます。海外勤務であっても、健診は100%受けさせたいという思いは、健保組合も事業主も同じですから、事業主には「年に1度必ず帰国し、その際に、必ず健診を受診する」というルールをつくり、健診場所については、健保組合で準備すると取り決めを交わしました。その結果、平成28年度は、海外勤務者の約9割が定期健診を受診しました。

 糖尿病の重症化予防についても、コラボヘルスの枠組みの中で取り組んでいます。まだ試験的な段階ですが、非肥満者でありながら、糖尿病の数値が高く、糖尿病予備群ともいえる約20名を対象に、約2時間の座学を実施しました。これが効果的であると分かれば、食事や運動に対する指導も盛りこんで、より充実したプログラムにしていきたいと思っています。

──事業主と健保組合の協力体制や役割分担はどのようにされていますか。

大和ハウス工業 ▼

 人事部内に「健康管理室」があり、社員3名が所属しています。加えて、産業医、保健師、看護師が常駐しており、社員の健康相談に乗るなどしています。相談内容が職場環境に関係するような場合は、健保組合とも相談しながら環境の改善に努めています。したがって、「役割」を意識しながら仕事を分担しているというよりは、「協力し合う」というイメージです。ただし、各事業所の要望をいかに吸い上げ、健保組合に伝えていくかについては、事業主の役目であると自負しています。「社員の健康を守る」という意味では、事業主も健保組合も向いている方向は同じですから、これからも、いろいろと意見を出し合い、協力し合いながら、さまざまな施策に取り組んでいきたい考えです。

健保組合 ▼

 当健保組合は、事業主と同じビルに入っていることもあり、もともと風通しもよく、連携しあえる間柄でしたが、平成20年3月に、会長、社長、健保組合の理事長名で、社員が生き生きと働ける職場づくりに向け、連携することを明記した通達を出したことにより、その協力関係はさらに確固たるものになりました。

 その通達において、社員の役割は「自分自身と家族の健康に留意し、自分で健康を守る」と明記されています。会社の役割は「働きやすい職場環境を提供する」、「定期健診を必ず実施する」、「産業医の役割を推進し、社員の健康状態を常に把握する」とされ、健保組合の役割は「被保険者だけではなく、家族や退職者の健康もサポートする」、「健康増進に向けたサービスや情報を提供する」、「総合的な健診を実施し、病気の早期発見、早期治療を促す」とされています。いずれも従業員の健康に向けた役割ですから、関与する全員で足並みをそろえていきたいです。

──現在、抱えている課題はありますか?

健保組合 ▼

 他健保組合さんと同様、当健保組合も毎年十数億円の赤字です。原因の1つは、拠出金といわれている後期高齢者の負担金の増加にあります。しかし、それを理由に保健事業を縮小して、健康を損ねる人が増えてしまっては本末転倒ですから、努力と工夫で何とか効果のある保健事業に取り組んでいきたいと思っています。

大和ハウス工業 ▼

 本社人事部に健康管理室を設置し、健保組合との協力体制も整っている分、社員の健康意識も高まっているように感じていますが、各事業所となるとまだまだ不十分です。各地区でも本社同様の体制を展開し、社員の健康を管理するための産業保健体制をしっかりと整えていきたい考えです。

──「あしたの健保プロジェクト」に対するメッセージや国に対する要望をお願いします。

健保組合 ▼

 財政が厳しい状況ではありますが、思う存分、保健事業を展開していきたいと思っていますので、国には、頑張っている健保組合にしっかりと予算をつけてくださるようお願いしたいです。そのためには、健保連にも頑張っていただく必要がありますので、どうぞ宜しくお願いいたします!

大和ハウス工業 ▼

 国は、働き方改革に力を入れていますが、社員の健康と働き方改革は一体で取り組んでいく必要があると考えています。しかし、実際のところ、「健康」の部分がそこまでクローズアップされていないように感じます。長時間労働の是正やダイバーシティーに焦点を当てるのと同様に、健康維持、健康促進にも焦点を当てていただけると、事業主としても健康施策に力を入れやすくなるのではないでしょうか。社員、ひいては国民全体が「健康は個人の問題」という意識から、「健康は会社の問題、社会全体の問題」という意識に変えていく必要があるということを、健保連から国に対してアピールしていただきたいと思います。

大和ハウス工業株式会社 人事部 次長 山下 裕 さん
「昨年、当社は『家づくり、まちづくりの基本は健康から。社員とその家族がイキイキと活動できる生活環境づくりを支援します』と社内に向けて発信していますので、この言葉を具現化するべく、健保組合と協力しながら、健康施策に取り組んでいきます」

大和ハウス工業健康保険組合 常務理事 間野 尚志 さん
「本格的に取り組みを始めて、まだ日が浅いのですが、近い将来、医療費にいい影響が出てくるのを期待しているところです。ちなみに、平成28年度はわずかではありますが、一人当たり医療費が下がりましたので、これを励みに今後も頑張っていきます」

健康コラム
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