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働き盛りのメンタルヘルス vol.35

組織の問題として職場の中の「困った人たち」を考える

本年は、職場の中の「困った人たち」。とりわけ、精神疾患によって「困った人」化している人たちについて理解を深めてきました。今月は、職場の中で精神疾患によって「困った人」化した人たちを増やさない為に、組織にはどのような対応が必要なのかを考えてみたいと思います。

※このコラムは「健康保険」2013年2月号に掲載されたものです。

組織の問題として「困った人たち」を捉えなおす

あらゆる組織に存在する、職場の中の「困った人たち」。対応に手を焼く性格の人物や、会社を自分の都合よく利用しようとするフリーライダーのような、周囲が付き合い方に困惑してしまう、「困った人たち」に職場は日々悩まされています。

本年は、一見すると「困った人たち」と見紛う、「精神疾患により困った人に見える人たち」に焦点をあててきました。「精神疾患により困った人に見える人たち」とは、付き合い方が難しい面倒な存在ではなく、病気によって「困った人」化してしまった人たちのことを指しています。

そして、このような「困った人」化した人たちと、よりよい付き合い方を考えていくために、彼・彼女たちを「困った人たち」のような行動に向かわせている要因、すなわち精神疾患についての理解を、「4つの分類」を通じて深めてきました。

このような、精神疾患によって「困った人」化した人たちに対して、組織としてどのように向き合っていけば良いのでしょうか。

精神疾患の観点から「困った人たち」を考える4分類

社員を「困った人」化させる組織風土

組織の問題として、「困った人」化した人たちを考える視点には、大きく分けて次の2つが考えられます。

A:もともと精神疾患に悩んでいた

B:問題のなかった人が、入社後精神疾患に悩むようになった

Aの場合は、職場・組織の影響で、社員が精神疾患に罹患したわけではないので、組織としては致し方ない部分があります。このようなケースにおいては、当人の負担を考慮しながら、就業規則の範囲内において、労働環境整備を行いつつ、サポートしていくことになります。

しかしながら、Bの場合は職場・組織のあり方を見つめなおす必要があります。もともと元気で入社してきた人が、うつ病に罹患したというようなケースでは、何らかの要因によって、その人に大きな負荷がかかり、精神疾患を発症したと考える事が出来ます。つまり、大きな負荷を労働者に与える組織風土が、職場に可能性を示唆しています。

このような、元気な人を精神疾患に追い込むような組織は、他の多くの社員にとっても、ワークストレスが大きい職場 であると言えます。労働負荷や人間関係等、組織には働く人にとってストレスとなりうる多くの要素があります。それを見直しつつ、労働者にとって働きやすい環境整備をしなければなりません。さもなければ、次々と精神疾患によって「困った人」化した人たちが増えていく状況に陥ってしまうことでしょう。

またAであっても、入社後に調子を悪化させる人が増えているのであれば、Bと同様、働きやすい職場ではなく、社員を疲弊させていく要因があると考えるべきです。

組織として、精神疾患によって「困った人」化した人たちを発生させない、また減らしていくためには、精神疾患を生み出し、さらに重症化させるような労働環境の改善に、真剣に取り組まなければなりません。

組織として困った人たちと向かい合う

職場に増え続ける、精神疾患によって「困った人」化した人たち。あらゆる組織は、彼・彼女らと真剣に向かい合ってきたと言えるのか、改めて考える時期に来ているのではないでしょうか。これまで組織も、精神疾患に罹患した社員も、お互い「病気だから仕方がない」との認識に偏りすぎてはいなかったでしょうか。

「ニワトリが先か卵が先か」ではありませんが、「病気だから仕方ない」と精神疾患を生み出す組織風土を改善しない組織の対応、「病気だから働けない」と主張する社員側の認識が、精神疾患によって「困った人」化した人たちが増え続ける背景にあるように思います。

私がお会いしてきた、精神疾患を罹患した方には、病気とうまく付き合う努力をしつつ、懸命に働いている人もいれば、休み癖がついてしまい、働けるのに働こうとしない人たちもいました。精神の病気は、そのわかりにくさ故、周囲の理解や協力が得にくい特徴があります。その点においても、病気そのものの大変さにおいても、精神的な病気に罹患することはとても辛い。しかしながら病気であることは、あらゆる責任から逃れることのできる免罪符にはなりえないのです。

組織は、精神的な病気に社員を追い込むような労働環境を改めることに加え、「精神疾患だから仕方ない」と過剰に甘やかし、「働かなくても何とかなる」との誤った認識を社員に植え付け、結果、社員の就労が困難になるような対応の在り方を見直すことが求められています。つまり、組織と社員、お互いのよりよい関係を築いていくための、努力を重ねていくことが必要なのです。

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