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働き盛りのメンタルヘルス vol.15

より良い職場環境づくりに欠かせないコミュニケーションの機能

分かり合うことが難しい、他者との関係をより良いものとするための方法であるコミュニケーション。今月は、より良い職場環境づくりに欠かせないコミュニケーションの、2つの機能にスポットを当てていきます。

※このコラムは「健康保険」2011年6月号に掲載されたものです。

コミュニケーションの自己評価は当てにならない

コミュニケーションの悩みや不安を抱えるケースは日常で頻繁に訪れます。仕事の場面はもちろん、プライベートにおいても、「コミュニケーションがうまくとれなかった」と感じることはよくあるでしょう。

たとえば取引先との商談は良い感触だったのに、結果につながらなかったという経験がある営業マンは多いと思います。反対に、感触はいまひとつだったのに、結果につながった、また、そうした体験を同僚などから耳にしたことも一度はあるはずです。異業種交流会や友人主催のバーベキューといった職場外のコミュニケーションのように、初対面の人とたくさん顔を合わせる場面においても、コミュニケーションの良し悪しを肌で感じたことはありませんか? 初対面なのに打ち解けた感じがして、「また会いましょう」と話をしたのに連絡がないとか、逆にそれほど話をしなかったつもりなのに、相手からは「非常に興味深い話を聞けてよかったです」という反応が返ってくることもあります。

このような例が示しているように、さまざまな場面におけるコミュニケーションへの自己評価は、必ずしも正確とはいえません。現実には、コミュニケーションが苦手だと感じている人が、じつは周囲からはコミュニケーション力が高い人だと見られていることがあります。またその逆もしかりです。つまるところ、「相手は分かっているはずだ」とか、「相手に伝わっているはずだ」という思い込みが私たちにあるから、このようなズレが生じるのでしょう。

「分かり合うことが難しい、他者との関係をより良くするための技術」であるコミュニケーション。その機能や役割について理解を深めていくことは、自己のコミュニケーションの特徴や得手不得手を理解するうえで有益であるといえます。

コミュニケーションがもつ2つの機能

さまざまな機能や役割を有するコミュニケーションですが、その機能を大別すると2つに分けることができます。1つは情報の伝達を主目的としたインストゥルメンタル・コミュニケーション(instrumental communication)もう1つは、コミュニケーション自体が意味をもつコンサマトリー・コミュニケーション(consummatory communication)です。

インストゥルメンタル・コミュニケーションは、本来のコミュニケーションの意味に近い、単なる「情報伝達」を意味しています。仕事上の用件を伝える際の電話や電子メールでのやりとりなど、コミュニケーション自体ではなく伝達される内容に重要性があり、内容を伝えることが目的のコミュニケーションを指します。

一方、コンサマトリー・コミュニケーションは、伝達される内容よりも、コミュニケーション自体に重要性があります。たとえば、友人との長電話には何かを伝えたいという目的もありますが、それよりも「会話」そのもの、すなわちコミュニケーションそのものが目的となっている点が特徴です。ほかにも、ツイッターへの投稿や、友人間での携帯メールなど、共通の時間や経験を共有することを目的としたやり取りも、コンサマトリー・コミュニケーションに該当します。

このように対比させてみると、コンサマトリー・コミュニケーションはプライベートの場面が大半で、仕事の場ではインストゥルメンタル・コミュニケーションしか必要ないようにもみえますが、そうとも言い切れません。たとえば、取引先との会食や部署内での飲み会は、コミュニケーションの目的が情報伝達ではなく、時間や空間を共有することそのものにあると考えられます。その場でなされる何気ない会話をはじめとしたコミュニケーションによって、関係性を深めるところに真の目的があるのです。

2つのコミュニケーション機能――重要なのはそのバランス

先に示した会食や飲み会の例を持ち出すまでもなく、日常的な商談や打ち合わせの場において、コンサマトリー・コミュニケーションはたいへん重要視されています。商談を例にとっても、即座に具体的な内容に入ることは極めてまれであり、たいていは雑談・世間話をしてから本題の説明に移ることが大半でしょう。もちろん、日常的な社内でのやり取りにおいても、コンサマトリー・コミュニケーションによって良好な関係が構築できているかどうかが、良い仕事をするうえで重要な役割を担っていると考えられます。

社内において、「会社には仕事をしにきているのだから、業務に関係のあるコミュニケーションができればそれで構わない」と考える人は少なくないでしょう。しかし、隣席の同僚と会話することもなく、メール主体のコミュニケーションが蔓延しているような職場環境で、社員間の信頼関係が構築されているとは考えられません。このような職場環境においては、良い仕事ができているかどうか疑わしいところです。

職場のコミュニケーションは情報伝達のみが正確になされれば良いということになると、その職場はギスギスした雰囲気に包まれ、ストレスが高まると予想されます。反対に、業務外のコミュニケーションが活発になりすぎれば、職場が仕事ではなく娯楽の場と化してしまう事態も起こりえます。

インストゥルメンタル・コミュニケーション、コンサマトリー・コミュニケーションのどちらかが大切ということではなく、個人が組織の中で仕事をするうえでは、双方の適切なバランスを見出しいていくことが重要なポイントとなるのです。

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