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働き盛りのメンタルヘルス vol.21

なぜ上司と部下は すれ違うのか ―その1

誰しも上司・部下間のコミュニケーションで悩んだ経験があるでしょう。働き盛り世代の多くは、上司でもあり、部下でもある立場にあります。上司としては部下の扱いに悩み、部下としては上司との折り合いに戸惑う。今回と次回は、この上司・部下の関係について考えます。

※このコラムは「健康保険」2011年12月号に掲載されたものです。

上司と部下がわかりあえない理由

上司と部下のコミュニケーションの背景には、お互いを選ぶことができないが一緒にやっていくしかないという関係における、それぞれの思惑があります。

かつての高度経済成長期を舞台としたドラマでは、上司が部下を家に招いて酒をふるまったり、仕事後に飲み屋で語らうような場面が多く見られます。「飲みにケーション」とはよく言ったもので、終身雇用が前提となっていた時代では、上司・部下の間で仕事以外の私的な付き合いが重要視されていたことが見て取れます。この当時は会社と個人の生活が、現在よりも密接に結びついていた時代であったといえるでしょう。

そのため、定年までどうやって会社で過ごしていくのかについて、思いを巡らせることはあっても、「辞める」という選択肢はほとんどの人になかったのではないでしょうか。また、勤め始めた会社を「辞める」という決断は非常に重く、さらには人生と仕事との結びつきが強いが故に、仕事あっての人生であったといえるかもしれません。

現在は、高度経済成長期のように、「明日は今日よりも良い日」という希望を、皆が抱ける社会ではなく、仕事中心のライフスタイルが見直されている風潮が目立ちます。実効性に疑問はあるものの、「ワークライフバランス」がもてはやされているのは、仕事が子育て、余暇など数多くある人生の要素の1つとなり、仕事と人生の結びつきが弱まってきたという背景があるからなのでしょう。加えて、長引く不況や産業構造の変化により、いまでは終身雇用どころか自分の会社が倒産することも現実味を帯びて語られています。このような現在の社会状況においては、上司と部下の年齢差があればあるほど、仕事に対する価値観が異なってくるのはやむを得ません。

上司と部下との関係は複雑です。なぜなら、世代による価値観の違い、「好き、嫌い」といった主観的かつ生理的な要因、さらには、立場による視点の違いという3つの要因が入り交ざっていると考えられるからです。仮に自分とウマが合う人が上司になったとしても、それは3つある要素の1つが満たされたに過ぎません。上司からすれば部下全員が、部下からすれば上司が3つをすべて満たすことはまずありえません。

上司と部下の見方は大きく異なる

複雑な上司・部下間の関係を良くしようとするならば、具体的な方法を考える必要があります。まずは上司と部下では、どれだけ視点や考え方が異なっているのかを、1つの事例から見ていきましょう。

事 例

総務部門に勤務のAさんは、新たに配属された同僚のBさんと仕事をすることにストレスを感じています。原因は、Bさんの業務能力の低さです。具体的には、書類の作成ミスが多い、締め切りを忘れるなど、大きな問題ではありませんが、毎日のように同じことが続きストレスになっています。同僚のCさんもBさんのフォローなどで負担が増えています。Aさんたちは同僚を含めた数人で話し合い、どうしたらB さんが仕事をやりやすい環境を作れるか、を検討してきました。そのうえで、自分たちができることを実行してきました。しかし、当のBさんからは問題意識が感じられません。Bさんの面倒を見ることに疲れてきたAさんたちは、課長に相談しました。課長は、「みんなの言い分はわかるが、まだ配属されて間もないのだから、しばらく様子をみるように」と言っています。

《Aさん(部下側)の視点》

Bさんは書類の作成ミスなどが多く、そのフォローに追われている。

Bさんに対しては、ミスをするたびに教えてきたし、「分からないことはなんでも聞いて」と伝えているが、聞いても忘れるし、覚えようとしているとは思えない。

同僚のCさんと一緒に、Bさんの仕事がやりやすい環境を考えてきたが、Bさんの仕事への姿勢は改善されず、自分たちの仕事以外の負担が増えていることもあり、毎日イライラがつのっている。

課長は私たちの努力を理解していないし、評価もしてくれていない。本当は、課長は問題に気付いているけど、対応が面倒だから私たちに押し付けているのかもしれない。

《課長(上司側)の視点》

Bさんは、まだ配属して間もないのだから、慣れないのも仕方がない。

そもそも仕事ができない――というけど、本当なのだろうか? AさんもCさんも大して違いはないと思う。

結局、2人がBさんを気に入らない、つまり相性が悪い程度の問題で、わざわざ介入すべき問題ではないだろう。いずれにせよ、もう少し様子を見よう。

このように、上司と部下の言い分は食い違っており、Aさんも課長もストレスがたまっているようです。では、どのようにしたら、両者が納得できるコミュニケーションが成立するのでしょうか。次回は、そのヒントを紹介します。

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