HOME > 健康コラム > 働き盛りのメンタルヘルスベストセレクション > 働き盛りのメンタルヘルス vol.32

働き盛りのメンタルヘルス vol.32

精精神疾患の視点から「困った人たち」を考える 「未成熟タイプ」編―②

先月に引き続き、精神疾患を考える4つの分類の「未成熟タイプ」について、今月は事例を通じて考えていきます。

※このコラムは「健康保険」2012年11月号に掲載されたものです。

事 例:「未成熟タイプ」の部下への対応に悩むAさん

(40代/営業)

Aさんの部下であるBさん(25歳)は、真面目ですが勝気な性格で、周囲と衝突することも少なくありません。ある時、Bさんのミスが原因となって、顧客とのトラブルがありました。この件を他の部下から聞かされたAさんは、今回の件についての説明と今後の対応策についてBさんに尋ねることにしました。

Aさん:「お客様はご立腹のようだけど、その後はどう?」

Bさん:「ああ、あの件ですか。謝罪は済ませましたし、その後問題ないと思います。そもそも、多少の行き違いみたいなものですからね。」

Aさん:「おいおい、今回のトラブルはこちら側のミスが発端だろう。どうしてこういうことになったのかをきちんと反省して、同じことが起きないように考えないといけないんじゃないか。」

Bさん:「私が悪かったということですか?私、いつもAさんに確認してから仕事してますよね。Aさんの指示がわかりにくかったから、トラブルになったんじゃありませんか。」

Aさん:「ちょっと待ってくれ。それは違うんじゃないか。だいたい、取引先ともめてたことも私は君から聞いてないぞ。」

Bさん:「Aさん、私の責任にするってことですか。自分のことは棚に上げて。じゃあ、それでいいです。」

Aさん:「そういう話じゃないだろう。」

Bさん:「失礼します。」

この出来事の翌日、Bさんは無断欠勤しました。心配したAさんが電話をしたところ、Bさんは「昨日、Aさんに言われたことが、ショックでしばらく会社に行きたくありません」と話し、一方的に電話を切りました。

事例のポイント

「未成熟タイプ」の特徴は、周囲からみると状況把握(アセスメント)ができているように見えず、また状況に自分を合わせる努力をしているように見えない点にあります。

今回の事例では、取引先とのトラブルに対するA さん・B さんそれぞれの視点、状況把握(アセスメント)の仕方が全く異なっていることが見えてきます。当初Aさんは、取引先が怒っている状況に陥った過程と改善策を、Bさんに確認したいと考えていました。しかしBさんは、そもそも今回のトラブルを問題だと考えていません。ですからAさんは、取引先を怒らせるミスをしておきながら報告がないことに加え、Bさんが問題を認識していないことに対して怒りを感じています。一方のBさんは、自分は何も問題を起こしていないのにAさんから責められ、注意を受けていることに自分を傷つけられたと感じているのです。

しかしながら私たちの多くは、Aさんの主張がもっともだと感じ、Bさんの考えに疑問を感じることでしょう。そのため、周囲からみれば適切な状況把握ができず、さらに身勝手な主張をしているように見えるBさんは、職場の中でおかしな人ということになってしまいます。このような状況把握をしているBさんは、同僚にも自分の考えを理解してもらうことは難しいでしょうから、周囲がみな「自分を悪者にしようとしている」とさらに傷ついていくことになります。

精神疾患の観点から「困った人たち」を考える4分類

「未成熟タイプ」が罹患しやすい疾病の例

今回の事例で取りあげたBさんは、いわゆる「新型うつ病」とされる疾病例の可能性があります。この「新型うつ病」は、「ディスチミア親和型うつ病」「非定形うつ病」等呼び名も様々で、未だに理解できていない点が多くあり、評価が定まっていません。

これまでうつ病(気分障害)といえば、慢性的な気分の落ち込みに代表される「抑うつ気分」と、楽しめたことや好きだったことにも関心を持てない「興味・喜びの喪失」が、少なくとも2週間以上続くものとして理解されてきました。ところが、現代型うつ病とされる「新型うつ病」は、気分の落ち込みはあるものの、本人がストレスを感じる場面に限定され、それ以外の場面では、趣味や好きなことに取り組める点が特徴的です。それゆえ「新型うつ病」に罹患した人は、単なる自分勝手な人だと周囲から誤解されることが少なくありません。

しかし、一見自分勝手でわがままな人物に見えようとも、心身に不調をきたす「新型うつ病」は疾病であり、罹患した人に対しては適切な支援やサポートが必要であることを忘れてはなりません。

 「未成熟タイプ」の視点から「新型うつ病」を捉えれば、「悩まない」のではなく「悩めない」グループが「新型うつ病」に罹患している人たちであると考えられます。「新型うつ病」に苦しむ人たちに対しては、問題を正しく認識できるよう周囲が支援し、「悩む力」すなわち「問題を捉え、向き合っていく力」を引き出していくことで、本人の認識に大きな変化が期待できるのです。

うつ病と新型うつ病 主な特徴の比較

  従来型うつ病 新型うつ病
年齢層

・中高年層に多くみられる

・若年・青年層に多くみられる

性格傾向

・まじめで自責の念が強い

・実績があっても、過剰な不安感を持つ

・自責感に乏しく、他者に責任を転嫁する

・根拠のない自信と万能感を持つ

うつ病に
対して

・否定的な認識が強く、なかなか認めようとしない

・うつ病による休職には強い抵抗がある

・積極的に認めようとし、治療にも前向き

・うつ病による休職等の制度利用に積極的

主な症状

・慢性的な抑うつ気分

・興味・関心の喪失

・体調や気分の変化が少ない

・特定の状況、場面、ストレスにおいて抑うつ気分

・自分の好きな仕事や趣味は元気にできる

・体調や気分の変化が大きい

治療の効果

・休養と服薬で回復しやすい

・休養と服薬のみでは慢性化しやすい

ベストセレクション