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働き盛りのメンタルヘルス vol.33

精精神疾患の視点から「困った人たち」を考える 「自己中タイプ」編―①

今月、来月は、精神疾患を考える4つの分類の「自己中タイプ」について考えていきます。

※このコラムは「健康保険」2012年12月号に掲載されたものです。

人はみな自己中心的である

「あの人って、自己中心的だよね」と周囲から言われる人は、決して少なくありません。多くの人が、「あの人には困る」「付き合うのが面倒だ」と考えるのは、周りからみて自己中心的な人、ワガママな人ではないでしょうか。

しかし人間は、そもそもワガママな存在です。それは、たとえば赤ちゃんを観察してみるとよくわかります。赤ちゃんは、機嫌が良い時は微笑み、お腹が空いた等何か不都合なことが起きて、機嫌が悪くなるとすぐに泣き出します。本来人間は、自らの感情を抑える事なく、周囲に発散する生き物なのです。

このような状態から、親によるしつけや学校等での集団行動の経験を通じて、周囲に合わせて自らの感情を抑えることを私たちは学びます。つまり、感情を自由に表現せず周囲の状況に合わせてコントロールできることが、よりよい社会生活を営む上で重要であることを知るのです。それにより私たちは、ワガママである自分本来の姿を出さないように努力していると考えられるのです。

この視点に立つと、自己中心的であると周囲から言われる人は、感情をコントロールする力を身につけていない人であると捉える事が出来ます。しかし、好意的に解釈すれば自分にとても素直な人であると言えるかもしれません。とはいえ、会社の同僚に、その時々の感情を抑えられない人がいたら、周囲は疲れてしまうでしょうし、できるなら関わりたくないと思うことでしょう。

精神疾患の観点から「困った人たち」を考える4分類

矛盾が「自己中タイプ」の特徴

今回取り上げる「自己中タイプ」は、状況把握ができているように見えるのに、合わせようとしているようには見えない点に特徴があります。これまで取り上げたタイプは、程度の差はあるにせよ、「状況把握(アセスメント)」を過剰にしてしまう、またはできないために行動に支障が生じてしまうケースでした。

「気にしすぎタイプ」:周囲の状況把握を過剰にしてしまうため、それに自分を合わせようと努力しすぎるように見える。

「不安タイプ」:周囲の状況把握がうまくできないため、どこまでやっても不安を払しょくできず、自分を環境に合わせようと努力しすぎるように見える。

「未成熟タイプ」:周囲と自分自身の状況把握がうまくできないために、悩むことができず、周囲に合わせることができないように見える。

しかし、今回取り上げる「自己中タイプ」は、自分がおかれている状況や周囲の様子が理解できているのに適切な行動ができないように見える、という点において矛盾があります。つまり、周囲の状況が飲み込めているにも関わらず、あえて合わせないようにしているように周囲からは見えてしまうのです。

このような「自己中タイプ」は、結果がどうなるかが分かっているのに、わざわざ問題を増やそうとしているトラブルメーカーだと、周囲に映ることが少なくありません。それゆえ、自分で自分の評価を下げるような行動をあえて取るように見える「自己中タイプ」を、周囲は理解できない事態が生じてくるのです。

繊細さゆえ、自己中心的になる

ささいな出来事をきっかけに、激しい怒りを表現したり相手を過剰に責めたりするような状況に、「自己中タイプ」は頻繁に直面します。なぜ「自己中タイプ」は、そのような行動を取ってしまうのでしょうか。「自己中タイプ」には、周囲が異常に気になる繊細な面と、全く気にしない行動を取る面があります。この矛盾した2つの面は、次のように考えると理解できるはずです。

たとえば「自己中タイプ」の人が、仕事上のミスに対して上司から注意を受けた状況を考えてみましょう。他者から注意を受けそれを認める事は自分の非を受け入れることにつながります。誰しも自分のミスを積極的に認めたくはありませんが、たいていの人は自分に非があればそれを受け入れ、反省しようと考えます。

ところが「自己中タイプ」は、自分に問題があったことには気づいていても、それを受け入れられるほどの強さを持ち合わせていません。そのため、「ミスをした自分」を認める事を何としても避けようと、注意されている問題自体を否定する、攻撃的な態度を取る等の行動によって、自分の正しさを肯定しようと躍起になります。たとえそれが理不尽な主張や行動であっても、それほどまでにしなければ、自分が崩れてしまうほどの傷つきやすさ故によるものなのです。

「自己中タイプ」の弱く繊細で、傷つきやすい自分を守るための言動は、結果として周囲からは自己中心的に見え、攻撃性や傲慢さとして映ります。そして、そのような周囲の見方に気がつくことができる「自己中タイプ」は、自らの言動に後悔や自責の念を感じ、さらに自分を追い詰めていくことになります。

次回は事例を通じて「自己中タイプ」について、より理解を深めていきます。

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