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働き盛りのメンタルヘルス vol.5

ストレスとうまく付き合う――「ストレスマネージメント」

よりよいメンタルヘルスを目指すうえで大切なことは、避けることのできないストレスといかに折り合いをつけていくのかにあります。今回は、理論編の締めくくりとして、ストレスとの付き合い方について説明します。

「ストレスマネージメント」という考え方を理解する

私たちにとって、良い影響も悪い影響も与えるストレス。うまく付き合っていくことが大切なのは理解できるものの、実際にどのようにして付き合っていけばよいのかは、わかりにくいものです。その理由の1つとして、ストレスが確認しにくいということがあげられます。たしかに、ストレス反応が出てきた時に、自分の日常を振り返ってみようと思い立ったとしても、実際にどれだけのストレスが今の自分にかかっているのかという根本的な点は、いまひとつはっきりしません。そこで、有用となるのがストレスマネージメントという考え方です。

ストレスマネージメントとは、ストレスを「ちょうど良い加減」にコントロールするための考え方です。ストレスマネージメントでは、状況の査定・把握が重要になります。ストレスは目に見えにくいもの。ですから、まずは私たちがどのような種類、また、どれだけの量のストレスに苛まれているのかがわからなければ対策の立てようがありません。この現状把握がなされた時点で、ストレスに対する備えができたといえます。人間は未知の出来事や対象に対して不安を抱くものです。お化け屋敷では、暗い中でお化けに扮装した人間がやっていることをみな理解していますが、どこでお化けが出てくるかがわからないので、恐怖心が生まれるのです。一度入った後は、どこでどんなお化けが出てくるかをわかっているので、以前ほどの恐怖を感じることはないでしょう。ストレスマネージメントも同様で、自分のストレスの現状、自分にとって負荷が大きいストレス、小さいストレスの種類は何か。またどれだけのストレスに自分は耐えられるのかなど、自分とストレスとの関係性を把握することで、ストレスに対する見通しがもてるようになります。こうしたストレスに対する見通しを獲得することで、日々に余裕をもつことができます。自身のストレス状態を定期的に確認し、ストレスに対する見通しを得ることがストレスマネージメントの最大の意義です。

ストレスの現状を簡単に把握できる方法として、ストレスチェックがあります。最近は、ストレスチェックを提供しているEAP(従業員メンタルヘルスプログラム) を導入する企業も増えてきていますし、無料で提供している場合もあります。一度試してみてはいかがでしょうか。

図:ストレスマネージメントのフロー

ストレスコーピングの具体例

ストレスをコントロールする

次にストレスを「ちょうど良い加減」にコントロールする具体的方法、ストレスコーピング(ストレスへの対処法)について考えます。普段、私たちは意識することはありませんが、知らぬ間にストレスコーピングを行い心身のバランスを保っています。仕事の愚痴を言ったりするのも、仕事で行き詰まったときに休憩をとることも、ストレスコーピングの一例です。

メンタルヘルスは、悪いストレスに苛まれ続けた場合、確実に悪化します。メンタルヘルスが悪化に向かっていることは、強い肩こりなどのストレス反応から気が付くでしょうし、ストレスチェックでも知ることができます。「悪いストレスが結構たまってきているな」と、気がついた時点で、それ以上心身のバランスを崩さないよう手を打つ、つまりストレスコーピングを意識的に行うことでメンタルヘルスのさらなる悪化を食い止めることができるのです。

旅行が好きな方なら時間を作ってどこかへ足を運ぶのも良いでしょうし、自宅でお香をたいてみるのも良い気分転換の方法でしょう。ストレスコーピングは特段、何かをしなければならないというわけではありません。休日に自宅でゆったり過ごすのも立派なストレスコーピングです。どんな方法であっても、せわしない日常からちょっと離れる行動を起こしてみることが、よりよいメンタルヘルスのために大切なことです。ストレスコーピングは、悪いストレスで崩れてしまったこころのバランスを回復させる方法であるといえます。

新たな自分に出会う

ストレスコーピングには個人差があり、個々人の好みや特徴が反映されます。自分にあったコーピングスタイルでストレスが解消できていれば問題ありませんが、これまでのやり方ではストレスが解消できなくなるケースがあります。それは自分自身の成長や周囲の変化などの要因によって、ストレスをコントロールできなくなっている状態です。このようなケースは自分自身の新たな成長の機会と捉え、新たなストレスコーピング、これまで取り組んだことのないストレス対処法を試してみることが効果的です。新しいストレスコーピングを模索するなかで、これまでと違う世界や人との出会いも生まれてくるでしょう。自らのストレスと向き合い、ストレスへの対処を考えていくことは、新たな自分との出会いのきっかけともなる、非常に有意義な行動なのです。

※このコラムは「健康保険」2010年8月号に掲載されたものです。

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