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働き盛りのメンタルヘルス vol.12

職場のメンタルヘルスを高めるために

2010年度を締めくくる回となる今月は、これまでの内容を踏まえ、これからのメンタルヘルス対策について考えてみたいと思います。

※このコラムは「健康保険」2011年3月号に掲載されたものです。

メンタルヘルス対策がうまくいかないのはなぜか

事業主が、労働者のメンタルヘルスについて責任を持つとする最高裁判決が下されたのは、今から10年前。いまや企業が働く人、とりわけ「働き盛り世代」のメンタルヘルスを考えることは、もはや常識となりました。この間、行政やEAPプロバイダなどによりさまざまなメンタルヘルス対策が提供されています。それにも拘わらず、メンタルヘルス不調者は減少するどころか、いまだ増加傾向にあることは、各種の調査から明らかにされています。

一方、企業では、社内で発生するメンタルヘルス不調者に対して、上司や同僚、産業保健スタッフ、人事部、そして立場と視点は違えど、経営層も同じような問題意識を感じているはずです。「メンタルヘルス対策は十分にやっているのに、なぜ効果がでないのだろう」と――。

私もEAPサービスを考える側の立場として同じような疑問を感じていましたが、数多く存在するEAPプロバイダは、研修を行うことがメンタルヘルス対策だと主張したり、無料で実施できる心理テストを有料で販売するなどしています。一括りにメンタルヘルス対策といっても、そのサービス内容や品質は提供者によってまったく違っているのです。

メンタルヘルス対策に関わる多くの人びとが共有している「何かがおかしい。でもどうしたらよいのだろう?」という素朴な疑問。これを、私自身に改めて問いかけながら、この連載を進めてきましたが、メンタルヘルス対策がうまくいかない理由を要約するならば、次の3点に集約できると私は考えています。

①メンタルヘルス・ストレスについての認識が共有されていない(人によってイメージが異なっている)

②メンタルヘルス対策の目的が明確になっていない(メンタルヘルス対策の実施自体が目的化している)

③職場環境がストレスフルで、メンタルヘルス対策がその場しのぎでしかない

メンタルヘルスを組織の問題として捉えなおす

このうち、最も問題で、かつ連載でも繰り返し主張してきたのが③です。職場自体が社員のこころの元気を奪っているならば、予防的な対応のみでストレスに対応することは難しく、専門家への相談等で社員がなんとかやり過ごしている状況に陥っていると言えます。

このような悪いストレスの多い職場を「不健康な職場」と考え、健全な職場環境、社員のメンタルヘルスを悪化させにくい職場環境を「健康な職場」と捉えてみます。

私が考える「健康な職場」は、たとえばドラマで見られるような、笑顔があふれ、和気あいあいとしていて、職場の人たちが仲良しの職場のことではありません。「仕事以外のストレスが少ない職場環境」を意図しています。

会社はあくまで仕事をする場所ですから、仕事が大変な時もあるでしょうし、大きなストレスを感じる機会もあるでしょう。しかし、それ以上に仕事と直接関係ないことに煩わされたり、労力を割く度合いが大きいと、それらが悪いストレスになるであろうことは、容易に想像がつきます。

「健康な職場」と「不健康な職場」のイメージ図

厚生労働省の2007年「労働者健康状況調査結果の概況」では、職場で感じるストレスとして、仕事の量や質といった直接的な要素よりも、人間関係が上位にあげられています。こうした調査結果は、職場環境がこころの健康に与える影響の大きさを示唆していると言っていいでしょう。

職場における大きなストレスである「人間関係」を、個人ではなく組織の問題として捉えなおすと、「人間関係」とは、つまり「職場内コミュニケーションの問題である」と考えることができます。職場の健康度は、職場内コミュニケーションの円滑さに左右されると言えるでしょう。この職場内コミュニケーションの問題を直視し、社内の現状を的確に把握したうえで改善に取り組まない限り、職場最大のストレスを減らすことはできません。

「健康な職場」は人や組織の活力を引き出す

働く人のメンタルヘルスが問題だと騒がれていても、メンタルヘルス不調に陥る人は職場全体でみれば決して多くはありません。しかし、こころの元気を失ってしまった社員への対応は重要です。

それでは、メンタルヘルス不調に陥ってしまった社員が、はじめからメンタルヘルスに問題を抱えていたかというと、そうとは言いきれません。

つまり、現在こころの不調を抱える人たちも、社員の元気を奪っていく職場環境によって、こころの元気を失ってしまった可能性があると考えられるのです。

そうであるならば、企業がメンタルヘルスの問題を組織の問題と捉え、活力ある社員の元気を奪っていくような職場環境を改善していくことこそが組織全体のパフォーマンスを考えたうえでも重要となります。その意識があって、はじめてメンタルヘルス対策の意義がクリアになり、メンタルヘルス不調者の重症化阻止につながると私は考えています。

メンタルヘルス対策は「働き盛り世代」のみならず、企業等の組織体の活力を維持・向上させるためにも重要性を増してきているのです。

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