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働き盛りのメンタルヘルス vol.16

コミュニケーション力を高めるカギとなる3つの力

前回は、情報伝達が主目的のインストゥルメンタル・コミュニケーションと、コミュニケーション自体に意味をもつコンサマトリー・コミュニケーションの機能を説明しました。今回は、コミュニケーションの構造について、考えてみたいと思います。

※このコラムは「健康保険」2011年7月号に掲載されたものです。

「うまくいかない理由」なら理解できる

コミュニケーションに対して、苦手意識をもつ人が多い背景には、「苦手である」ことを痛感した経験があるからでしょう。しかし、苦手だからといって、コミュニケーションが常にうまくいかないというわけではありません。少しでもうまくいった経験があるならば、その時のやり方や感触を参考にできるはずです。「失敗した」と感じるたびに、成功経験を踏まえた反省と修正を繰り返せば、コミュニケーションが段々と上手になっていくように思えます。

ところが、「コミュニケーションがうまくとれている状況」を、客観的に説明するのは難しいのです。失敗した事例は説明できるのに、「うまくいっている状況や出来事」を意識することはなかなか難しい。たとえば、取引先との円滑な取引や、良好な夫婦関係などについて、「どうしてうまくいっているの?」との問いに対して即答できる人は多くありません。反対に、「うまくいっていない」と感じるケースについては、望ましくない結果が出ていることも多く、具体的な説明をしやすいものです。つまり失敗には、学びの具体的なヒントが豊富に含まれていると考えることができるのです。

それゆえ、自分自身にとってうまくいったコミュニケーション例や、コミュニケーションが得意な人の主張から何かを学び取ろうとするよりも、うまくいかなかったコミュニケーションについての理解を深め、課題を解決しながら、うまくいかない回数を少しずつ減らすことを目指すほうが、効果的であると考えられるのです。

コミュニケーションの構造

うまくいかなかった経験から、学びを得ていくためには、自分のコミュニケーションのどこが、どう、いまひとつだったのかを考える必要があります。そのためにはコミュニケーションの構造を理解する必要があります。ここでは、コミュニケーションは3つの要素から構成されていると考えてみましょう。

まず「状況を判断する力」。これは、コミュニケーションが求められている状況を把握することを意味します。コミュニケーションの果たす役割は、相手や時、場所によって異なります。たとえば、相手が上司と友人とでは、話し方だけでなく内容も大きく異なるでしょう。また同じ人であっても、相手の機嫌が良い時もあれば、悪い時もあります。また、社内の日常的なやりとりと、会議の場や部署内の会合等、状況によっても、求められるコミュニケーションが異なってくると考えられます。

2つ目が「伝える力」、言わずもがなですが、自分の考えている内容を他者に表現する能力です。私がテレビ番組でおいしそうな「イチゴ」を見たとしましょう。このことを誰かに伝える場合、「おいしそうなイチゴをテレビで見た…」という話をするでしょう。しかし、私が感じるおいしそうなイチゴのイメージと、聞き手の感じるそれは、微妙に違っている場合が往々にしてあります。このように、実際に形のある物であっても、自分が考えているイメージを正確に相手に伝えることは、じつは簡単ではありません。もちろん、仕事のやりとりや会議であれば、伝える難易度はさらに高まります。

3つ目の「受け止める力」は、他者が発した言葉や態度を、しっかりと受け止め、理解する力です。相手が言いたいことの趣旨や欲しているものがなんであるかを正確に理解しなければ、よりよいコミュニケーションは難しくなります。

受け止める力は「聞く力」とも言い換えられますが、聞く力は、細かく3つに分けることができます。場の状況に応じた、〝3つのきく〟を意識して使うことで、コミュニケーションの相手は「受け止めてもらった」と感じやすくなります。

3つの「きく力」

聞く(hear)
音や声等を刺激として、聞いている状態。

聴く(listen)
相手の話を、共感し注意深く聴く。傾聴がこれに当たる。

訊く(ask)
理解を深めるために、質問すること。

コミュニケーションは足し算ではなく掛け算

コミュニケーションは3つの力(要素)から構成されていますが、ちまたのコミュニケーションセミナーなどでよく扱われる、プレゼンテーションやアサーショントレーニングは「伝える力」の訓練。傾聴のトレーニングは、「受け止める力」の強化を目的としています。仮に、コミュニケーション力が足し算で表される能力ならば、伸ばした力の分だけコミュニケーション力が向上すると考えられます。

しかし、コミュニケーション力は、足し算ではなく掛け算で考えるべきものです。たとえいずれかの力を高めても、その他の力が十分でなければ聞き手に自分の考えや思いを的確に伝えることは難しくなるでしょう。コミュニケーション力の向上を考える際には、3つの力をバランスよく高めていくことが大切になるのです。

次回は、コミュニケーションの構造を、実例を参考にしながら、より詳しくみていきます。

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