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働き盛りのメンタルヘルス vol.29

精精神疾患の視点から「困った人たち」を考える 「不安タイプ」編―①

今月、来月は、精神疾患を考える4つの分類の「不安タイプ」について考えていきます。

※このコラムは「健康保険」2012年8月号に掲載されたものです。

がんばることは良いことなのか?

私たちの社会では、がんばること、つまり少々の無理は承知で努力をすることが評価されています。たとえば、多くの人がオリンピックに夢中になるのは、並はずれた技や記録はもちろんのこと、選手達が積み重ねてきた努力が、活躍の裏側に垣間見えることにあるように思います。とりわけ、選手生命の危機に直面するようなケガをしたアスリートが、涙ぐましい努力を経て、メダルを手にする。このような努力の結果、素晴らしい結果を手にする物語は、多くの人の心を捉えます。

一方で、努力をしないことに対する社会のまなざしは、冷淡なものです。いまだ「額に汗して働く」といった言葉が重みを持つように、たとえ優れた結果を残していても、周囲から努力をしているように見えない人物に対する評価は、結果に見合ったものではありません。つまり、ある人が実際に努力をしているかどうかではなく、周囲から見て努力をしているように見えるかどうか、そこに評価のポイントがあると言えそうです。

このように、私たちが生活している社会においては、努力することが称賛される価値観があります。では、何事であっても努力すること、がんばることのみが良いことだと言えるでしょうか。実際には、周囲からがんばっていると見受けられる人であっても、常にがんばっている状態ではありません。むしろ「がんばっている人」は、がんばる・がんばらないのモードを切り替えられる。つまり、しっかりとがんばらない状態、息抜きをできる状態を大切にできているからこそ、がんばりが必要な時に、努力をすることができるのです。日常が常に「がんばっている」状態では、心身ともに疲弊してしまい、本当にがんばりが必要な時に、力を十分に発揮することが難しくなってしまうでしょう。

何事も「ちょうど良い加減」があり、それに合わせた行動ができることが、円滑な社会生活を営む上では大切なのです。

「不安タイプ」ががんばりすぎてしまう理由

今年のテーマである、精神疾患によって「困った人化」した人たちは、タイプの違いはあるにせよ、この「良い加減」を見いだせないために、環境に合わせすぎてしまう、反対に合わせることができないようにまわりから見えることが特徴です。前回取り上げた「気にしすぎタイプ」は、周囲が気になりすぎるがゆえに、自らが設定した「求められている役割像」に固執しています。そして、それに自らを合わせるために過剰な努力を課し、常に大きなストレスに苛まれているタイプでした。今回取り上げる「不安タイプ」も、過剰な努力を自らに課す点は「気にしすぎタイプ」と同様です。しかし、その背景に大きな違いがあります。

精神疾患の観点から「困った人たち」を考える4分類

「気にしすぎタイプ」は、まわりを意識し過ぎていて、そのイメージに自分を合わせようと多大な労力を割いているように周囲から見受けられます。一方「不安タイプ」は、まわりや自分が見えていないように、周囲から見えます。そのため、「どこまでがんばれば良いのか?」、その基準がよくわからない状態に置かれています。結果、過剰にがんばることで周囲の期待に応え、自分はできているという安心感を得たいと考えているのです。

終わりが見えない努力

「不安タイプ」は、真面目で頼りがいがあり、責任感にあふれた人物であることも多く、職場に欠かせぬ人材であることが珍しくありません。そのため、仕事面において、上司や同僚からプラスの評価を受けることも少なくないでしょう。このようなプラスのフィードバックにより、「不安タイプ」のがんばりは、より加速することになります。また「不安タイプ」は、周囲から課題や問題を指摘されることによっても、その問題を埋めようとさらに頑張りを加速させていきます。

私たちは、同僚や上司からのフィードバックを一つの目安として、仕事における自分の現在地や到達度を測っています。しかし、まわりが見えていない「不安タイプ」は、周囲からのフィードバックがあれば、それがプラスであろうとマイナスであろうと、がんばりを加速させてしまうのです。いわば「不安タイプ」は、ゴールの見えないマラソンを、どこを走っているのかもわからないままに、全力で走り続けているような状態に身を置いていると言えるのです。

このように、常に自らへの過剰な努力を求め続ける状態が続けば、誰であっても心身に無理が生じることは、容易に予想できます。結果、仕事のパフォーマンスの低下に加え、そのような状態への不安が高まっていくことになります。

来月は、「不安タイプ」について、事例を通じてさらに理解を深めていきたいと思います。

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