HOME > 健康コラム > ほっとひと息、こころにビタミン バックナンバー > ほっとひと息、こころにビタミン vol.65

ほっとひと息、こころにビタミン vol.65

精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者の大野裕先生が「こころ」の健康についてわかりやすく解説します。

【コラム執筆】
日本認知療法・認知行動療法学会理事長
ストレスマネジメントネットワーク(株)代表
精神科医 大野 裕

家族でも折り合う難しさ

自分の子や孫を見ていると、同じ家族でいながら、ずいぶん性格が違うことに驚きます。考え方にしても、行動にしても、兄弟でまったく正反対のこともあります。これが他人であれば、意見が違っても相手の考えを尊重しながら、上手に折り合いをつけて付き合えるのですが、家族になるとなかなか思うようにいきません。

親の気持ちを子どもに理解してもらうのが大変だったり、逆に親の考えを押しつけられるように感じたりすることが少なくありません。そのためにストレスを感じて、精神的に不調になる人も少なくありません。それは、相手を思う気持ちが強くなりすぎるからです。

私たち医師は、家族の治療はしないようにいわれます。家族としての情が入りすぎると医師としての冷静な判断ができなくなるからです。医療的な判断に限らず、家族だと、相手の気持ちや考えが分かって当然、分かってもらえて当然と考えるために言葉足らずになりやすくなることも問題を複雑にする要因です。

兄弟は他人の始まりと言われるように、家族は独立した別の人間です。ですから、家族であっても、いや家族だからこそ、自分の考えや思いをきちんと言葉で伝えるようにする必要があります。そのときには、気持ちと考えをバランス良く伝えるようにしましょう。

もちろん、きちんと話しても分かり合えないことはあります。そのようなときには、少し距離を置くことが役に立ちます。気持ちが落ち着いてきたところで、お互いに何が大切かを考えて、一緒に力を合わせて、その方向に少しでも進めるように工夫していってください。

大野 裕(ゆたか)

ストレスマネジメントネットワーク(株)代表。精神医療の現場で注目されている「認知行動療法」の日本における第一人者で、日本認知療法・認知行動療法学会理事長。著書に『マンガでわかる心の不安・モヤモヤを解消する方法』(池田書店)など。

バックナンバー