対談・イベントレポート
あしたの健保組合を考える大会 第二部 トークセッション
あしたの健保組合を考える大会 PART2
医療費適正化への提言
コーディネーター: | 目白大学大学院客員教授 宮武 剛 氏 |
自民党 衆議院議員 長尾 敬 氏 | |
おおさか維新の会 衆議院議員 松浪 健太 氏 | |
パナソニック健康保険組合 阪本善邦健康開発センター所長 | |
大阪府電設工業健康保険組合 喜多眞生常務理事 |
【トークセッション】 医療費適正化への提言
目白大学大学院客員教授 宮武 剛 氏
本日、司会進行役を務めます宮武と申します。大会前半は、梅村先生からポイントをおさえた基調講演をいただきました。どんどん膨張していく医療費をいかにコントロールするか、これは世界の先進国共通の課題です。とくに日本の場合は人口に比べてベッド数が多く、入院期間が長い。また、1ベッド数あたりの医師が少ないという「多い・長い・少ない」という問題を抱えています。現在は、こうしたベッド数・病院をどうやって再編成するのかという大きな課題に着手したところです。また、地域包括ケア体制を整える場合、地域ぐるみの受け皿が必要になります。その中心となる「かかりつけ医」がなかなか見つからない。これをどうやって見つけるのかも今後の課題です。医療情報をどのように活用するのかも含めて、国政レベルではどのように取り組まれているのか、どのような解決策があるのか。まず、長尾先生からお願いします。
自民党 衆議院議員 長尾 敬 氏
私は元・サラリーマンで、長く厚生労働省関係に携わっており、なぜ皆さんが負担を強いられないといけないのか見続けてまいりました。医療費適正化でどの部分を適正化するのか。 恐らく出口の部分になるかと思います。私は民間の生命保険会社にいましたので、例えば平均余命を考えた場合、30歳の方が50歳よりも長いので保険料は高い。また、同じ30歳でも病歴がある方は保険料を高く設定する、いわゆる危険選択という作業を行います。
国民皆保険制度に危険選択を採り入れろとは言いませんが、多少なりとも危険選択という概念があってもいいのではと思っています。日本の国民皆保険制度は、患者・医師の双方にとって使い勝手が良い制度です。ところが、例えば通勤途中に転んで骨折した場合、本来は労災ですが、健康保険を使っているケースがあります。加えて、診療明細はどうなっているのか、自分の保険料だけではなく全体はどのように使われているのか、医療保険制度というものをきちんと保険者から理解・徹底していただければ、単に使いやすいから使った方が得で使わなければ損といった意識にはならず、医療費の抑制にもつながると思います。
おおさか維新の会 衆議院議員 松浪 健太 氏
われわれ政治家の役割はタブーに挑戦する、今まで官僚では思いつかなかったことを創っていくことだろうと思います。2020年に目標としているプライマリーバランスの黒字化には、実現に大きな問題があることを受け入れ、政府試算を見直す必要があります。大きな目で見て、日本経済が破綻した時のことも考え、そうした場合、医療に本当に必要なものは何かを今から考えていきたいと思います。つまり、若い人における延命措置と90歳以上の人の延命措置を同じに考えるのか、こうした大きな枠組みから考えていかないといけません。
ありがとうございます。続いて現場で保険者として、医療費の効率化につながるさまざまな取り組みをされているお二方から、報告をお願いします。では、大阪府電設工業健康保険組合 喜多常務理事お願いします。
大阪府電設工業健康保険組合
喜多眞生常務理事
皆さん十分ご承知だと思いますが、健康保険組合の財政状態を強調したいと思います。2014年度決算では、1409組合中、741組合が赤字の状態にあります。これは、主に高齢者医療の拠出金が原因で、3兆3千億円にも上ります。これは、健康保険組合の保険料収入の44%に及びます。この拠出金負担については、現役世代が納得できる水準を超えているように感じます。本来、国が責任を持って財源を手当てすべきところ、われわれ保険者にいわば肩代わりをさせる構図になっています。
健康保険組合は公費に頼らない自主独立で運営しています。この運営のために実効ある対策として、健康づくりをはじめとしたさまざまな取り組みで保険者としての機能を発揮してきましたが、なかなか手が回らなくなってきたのが現状です。
医療費の適正化については、加入者4万6000名に対して年間52万8000件のレセプトがあります。そのうち支払基金に再審査請求したものが6000件、そのうち認められたものが2000件強にも上ります。同時にジェネリック医薬品の利用促進にも2007年から取り組んでおり、加入者にはお願いカードを配布するとともに、処方された薬のうちジェネリック医薬品に変更可能な薬と価格を通知することで年々効果を上げています。その他、さまざまな医療費適正化への取り組みに努めています。ですが、これ以上の保険料率の引き上げは難しい。高齢者医療費の負担構造の改革、議員の先生には、ぜひこれを先送りせずに取り組んでいただきたい。
次に、現場でお医者さんとしてデータヘルス計画の先頭に立っておられます、パナソニック健康保険組合 健康開発センター所長 阪本先生お願いします。
パナソニック健康保険組合
阪本善邦健康開発センター所長
パナソニック健康保険組合は、現在、加入者35万人、全国187カ所で活動しています。2000年に国が健康増進の方針「健康日本21」を打ち出した時、健保組合でも取り組もうと会社、労働組合、健保組合が三位一体となった健康管理活動を開始し、15年間継続しています。2018年の創業100周年に向けて「健康パナソニック2018」を策定し、職場と家庭をまるごと健康づくりに取り組んでいます。活動を進めるにあたっては、メタボ・メンタルヘルス・体力低下・がん・歯科の5重点疾患に、生活習慣改善・健診受診・コミュニケーション向上の3つの予防活動を「こうすれば、あれにもこれにも効く」というように「Ecoで持続可能な予防活動」を目指しています。健康管理や1人あたりの医療費のコストダウンについては、高リスクの人が重症化しないことは不可欠で、通院・治療が必要になる前になんらかの対応が必要です。
ありがとうございました。阪本先生のところをはじめ、多くの健保組合でさまざまな健康への取り組みをコツコツと続けられています。こうした努力の一方で、ドーンとのしかかるのが高齢者医療に対する拠出金です。金額を聞くだけで現場では気持ちが萎えてしまう。さらには、介護保険についても総報酬割になってしまうのではという議論がある。この辺りどういう政策展開をなさっていくのか、梅村先生、思い切ったご発言をお願いします。
前参議院議員 梅村 聡 氏
それは構造の問題だと思います。75歳以上の方の診療報酬制度を見直した上で、現役世代の支援を受けるという話だったのが、どこかに飛んでいってしまった。そして負担増の部分ばかり見せられているのが現状です。ですから、75歳以上の方に適した支払い方法について再考し改善していくことが必要です。
ありがとうございます。拠出金は非常に負担が重い。それによって一気に財政が苦しくなる健保組合に対して、やっと助成金が出た。それでも拠出金の1%に満たないわけです。やはり、高齢者医療を公費で見て欲しいという要望は高まっています。松浪先生、財源についてはどうお考えですか?
先ほどの喜多常務の発言が、皆さんの声を代弁していると思います。拠出金については納得がいかない。そうであれば、みんなで負担する方法が良いと思います。高齢者の自己負担を1割から1.1割にすることで、三方で痛みを分ける仕組みにしていく。もう1つ、尊厳死のあり方です。つけている呼吸器をはずすのではなく、つける前にどういう判断をするのか。リビング・ウィルの制度化、ハッピーエンディング法案も重要だと考えます。これについては、メタボ健診の際にどうしたいかアンケートをとるなど、健保連・健保組合に力添えをいただき、前進させていきたいと思います。
喜多常務、3名の先生方の意見に補足することはございますか。
前半の講演で梅村先生がおっしゃっていた、医療費削減施策として診療報酬を1点10円から8~9円に下げるという話。私どもとしては、1点8円なりの設定にすべきではないかと考えています。人間も機械と同じで年をとるとあちこち傷んでくる率が高くなってくる。ぜひとも、診療報酬を下げるような施策をとって欲しいと思います。
1点の単位の問題は、国全体の問題でもあると思います。国全体でいくら単位を1割下げても、点数を稼ぎ商売に走る医療機関は生き残る訳です。転んで手首をひねっただけなのに、胸から股関節からレントゲンをとって、尿検査をして、生活習慣病の採血をするような医療機関は存在します。医療者側にはこうしたところを取り締まるシステムがありません。ですから、このように負のインセンティブが働く診療報酬制度を国全体で改める必要があると感じています。
健康保険の使い勝手の良さが、モラル・ハザードを生んでいると思います。患者さんに保険を使わないと損だという意識が芽生えて、本来必要としている医療よりも多くのものを希望してしまいます。また、医者は病院で病気を直してくれるもの、出産は無事に終えられるのが当たり前と思い、何かあるかも知れないという医療の不確実性は許されない時代なのかという、土台の議論も含めて、患者さん、国民一人ひとりの意識改革が必要だと思います。
まず、かかりつけ医を持つこと、そうしないと自己負担が増えますよといった制度改革も必要でしょうか。
例えば、東北ではかかりつけ医との結びつきがとくに強いなど、ある程度地方・地域の特色によって、違いをつけることも必要かもしれません。東北型医療や関西型医療というように、同じ国の中でも自己負担率が違うということはあり得るのではないかと思います。
最後に、喜多常務、阪本先生、ひと言ずつお願いします。
国会議員の先生方には、これからも私どもの状況を理解いただき、国会でも議論を尽くしていただいて、健保連・健保組合の望む方向への舵取りをお願いいたします。
健康をずっと維持するには、100歳まで元気で生きていらっしゃる方の生活習慣を身につけたらいい。ただ、なかなかそうはいきませんから、その中から具体的に行動に移せるように示していく活動を続けています。こうしたことを、後押ししていただく環境づくりも含めて、国全体でやっていけるようにお願いしたいと思います。
皆さん、本日はどうもありがとうございました。